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天使に喰われたオーディナリー  作者: 猫飯 みけ
第4章 聖派正教会
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Angel 51 天使に喰われたオーディナリーⅢ

「時系列に整理するとこういうこと?」


 教会の居住スペースだろうか。生活感がでているダイニングテーブルには小さな花瓶が置かれており、近くのキッチンからはポットが湯を沸かす音が聞こえてくる。


「西暦0年、アバトー・クレデヒノフの指示により6つの天使が飛来した。セラフィム・イスケール・シェルミール・テュサエル・フワネエル・トワノユール。彼女たちは、当時の各国に属したり中立を保ったり。まぁいろいろだけど、この世界に干渉した。そして同時期にmagicaが見られるようになった……と」

「はい。そちらの認識で問題ないと思います」


 白いローブに身を包んだ若い女性は、慣れた手つきで紅茶を淹れている。エルブラムは自分の前にカップが置かれると、「ありがとう」と信者に向かって小さく微笑んだ。


「それで……? エルブラムさまはいつ来たんだ? 天命はもっと昔からある技術だろ。ならそれを授けたあんたも昔からいるってこった」


 それぞれの前に紅茶が置かれると、エルブラムは口をつける。ほっと息を吐くと、昔のことを話し始めた。


「私は……数えるのも嫌になるほど昔。かつてこの世界に《《神が数えられないほど》》存在していた神代の頃。もっと具体的に言うのであれば、聖戦の頃に来ました」

「待て待て! 神が数えられないほどって……神ってアバトー・クレデヒノフだけなんじゃないのか!」

「確かに《《私たちの世界》》では、彼が唯一神として顕現しています。そのため神は彼だけとも言えます。先ほど言った神々……というのは《《こちらの世界の神》》、ということです」


 ケルスィは、湯気を立てるカップに目を向けることも無い。フォティアはその様子を見ながら、口をつけた。紅茶の良し悪しなんてものは全く分からないが……参謀ならわかるのだろうか。

 ただ、純粋に美味いという感想しかでてこない。


「この世界は昔、人々がそれぞれ信仰する神を崇めまつっていました。八百万の神……そういう言葉が生まれるほどに数多の神がいました。しかしながら不運なことが起こります。そのようにこちらの神は思ったでしょうね」

「不運ってのは……」

「アバトー・クレデヒノフに目をつけられたことです」


 エルブラムは立ち上がり、窓の外を覗く。


「最初の侵攻は、アバトー・クレデヒノフと私を含む数百を超える天使たち。対するこちらの世界は神々に、同じく数百程度の天使。想像できるでしょうが、それはもう壮絶な戦争でした」


 フォティアでもその壮絶さ、というのは分かる。それに天使や神というのは、あくまで一種族の名前なのだ。勘違いをしていたが、特定の誰かを指す言葉ではなかったらしい。


「天使もこっちの世界にいたのか」

「もちろんですよ。こちら側の天使も神も、聖戦によりほとんどが消滅してしまったので馴染みがないでしょうがね」

「ってことは、こちら側は壊滅的な敗北だったんだな。……おっ、こっちも美味い」


 フォティアは興味なさそうにクッキーを齧っている。


「奇襲でしたので。それにこちら側に《《協力者》》がいたというのもあります」


 信者は一通りのもてなしを終え、頭を下げると静かに部屋を出ていく。


「詳細は省きますがこれが一回目の侵攻、神々によって起きた聖戦です。結果としてこちらの世界の神々と天使は壊滅。アバトー・クレデヒノフは消失すらしなかったものの、かなりの重傷を負い、霊体化せざるを得ませんでした。そして、指導者がいなくなった私たちは、私以外が天界に一度引き返しました。完璧な制圧をするために、戦力の回復を務めることにしたのでしょう」

「では、なんでエルブラムさまはこっちに残ったんだ?」


 ケルスィの質問により、当時のイラつきを思い出したのか、エルブラムの表情が曇る。


「——愛した自身の居場所を荒らされて、負けたからはいそうですか……と軍門に下る理由がありますか? 天界の天使全員がアバトー・クレデヒノフの圧政に従順だったわけではありません。私は彼が霊体化した今こそが好機だと考えました」


 アドナイに反抗する勢力が存在しているのと一緒だ。いくら従う方が利口でも、感情はそんなに純粋じゃない。


「私が7人の同士たちと共にこの場所に訪れ、天命の研究に務めました。天命とはこの世界が産んだこの世界を守るための第1のセーフティ。それを人は持て余していたため、私たちが確実な技術に昇華させました。再びアバトー・クレデヒノフとの戦いになった時の戦力として」


 天命はエルブラムが与えた……これは嘘でもあり真実でもある。事実ではないが、あながち間違ってもいない。


「ここから先はケルスィも詳しいでしょう。先ほどあなたが話した聖暦0年に起こった2度目の侵攻。そしてこの世界に再び生まれた第3のセーフティ。あなた方がmagicaと呼称しているものです」

「は……? magicaはお前らが人間に植え付けたんじゃねぇのかよ!」


 フォティアは急に目の色を変えた。叩きつけられた机により、カップの中身が揺れている。


「天使は神ではありません。人に新たな力を与えるほどの力はありませんよ」

「――まじかよ」

「まじです」

 

 フワネエルはうとうとしながら座っている。この大声や、机を叩く音にはビクともしない。直人のことで疲れてしまったのだろう。


「magicaの事で話を持ってかれそうだったけど、それは第3のセーフティなんでしょ? 第2のセーフティはどこ行ったの?」

「それは《《彼女自身》》から聞いた方がいいでしょう。他に聞きたいことは?」

「なんかもう……頭割れそうだし良いわ」


 人間である2人だけ頭を抱えている。膨大なまでの情報量が彼らを襲っていた。


「とりあえず、俺らが倒すべき相手ってのは神なんだな?」

「それは私が決めることではありません。この世界は今多くの問題を抱えていますからね。あくまで私は神に敵対する覚悟です」


 それもそうか、とフォティアはカップの中身を飲み干した。


「——よし、俺は帰る。ケルさん……随分と世話になったな」

「おいおい、これでサヨナラ……なんて、つまんないだろ? 色々と知りたいことも出来たしあんたとの約束もある。あたしも付いていくよ」


 ケルスィも席をたち、エルブラムの方を見た。少し悲しそうな表情を見せる。彼女は本心からケルスィを思っているのだろう。あくまで信者以外に対する当たりが、異様なまでに冷たいだけなのだ。


「行ってしまうのですね……今戻ってくれば枢機卿とは言わず、もっと上の地位を与えることだって」

「そういうの要らない。あたしの柄じゃない。こうして気ままに自分のしたいようにするのがあたしの生き方さ」

「そうですか……」

「弟の事、頼んだよ」


 2人は旅立った。目指すはプロメテウス。新たな力を得たフォティアは、どこかしら自信に満ちていた。


「まずはあいつ等を探すところからだな」

「あいつ等って? あぁ……そうだったな」

「俺の仲間の馬鹿野郎たちだよ」


 日が傾いた空は、すこし星を見せている。

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