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天使に喰われたオーディナリー  作者: 猫飯 みけ
第4章 聖派正教会
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Angel 46 デュオバレットⅡ

 本来二丁拳銃とは、片手撃ちの反動により照準がぶれ、リロードもおぼつかない。その上、近距離戦闘など空想の産物だ。感覚強化とその副産物、全てがスローモーションに映る内界解放リベラシオン。原理は不明だが、自分の都合よく物事が変質する幸運フォルトゥーナ


 この2つを同時に顕現できれば、難しい話ではない。近距離戦闘により、アルゴーでのウォータース戦の様な火力不足に陥る可能性も低くなる。特段高速に動いている訳では無いのに、攻撃が当たらない絶対的なまでの防御性能は、近づく事に関しては圧倒的な力にもなる。


 先程の発砲で相手の詠唱を阻害し、集中力を削がすことには成功している。だが、聖派正教会の男たち――信徒たちは、なんとか詠唱成功させている。それぞれが簡易な雷撃、氷の粒を飛ばしてきた。氷の粒は問題ではない。内界解放リベラシオンでいつもの様にかわすことが出来る。


 だが、雷撃は無理だ。光る瞬間は見え、軌道も目で追えないこともない。しかしかわすとなると、それこそ人間を辞めるしかない。だから大人しくフォルトゥーナに委ねた。


 当たるはずだった雷撃は、直人の右に逸れ、地面に小さなくぼみを作った。土煙とバチバチとした音が耳に刺さる。


 また一歩、信徒に近づく。右足でブレーキをかけながら姿勢をかがめ、相手の懐に潜り込む。相手は恐怖に満ちた息遣いをしている。内界解放リベラシオンでは、嫌でも相手の挙動すべてが分かってしまう。今更ためらうことも無い。

 

 殺す必要があるのか? 無いかもしれない。だが、相手は明確に殺しに来ていた。そして——美月をさらった。それだけで十分すぎる。


 腹部に両方の銃口を突きつけ、迷わずに発砲する。後方に吹っ飛ぶ信徒に対して、再び数発打ち込む。乾いた銃声と、うめき声が闘争心をより強く焚きつけてくる。それとほぼ同時に、フォティアのヴィントクリンゲがもう片方の信徒に突き刺さる。これで取り巻きの処理は完了だ。


「また……また強くなってやがる」


 フォティアは自分でも気づかないうちに笑っていた。今までなら、直人に対して嫉妬心に劣等感が自分を覆い、海の底に沈むような暗闇に吞まれていく感覚があった。だが今は違う。ワクワクしていた。雨宮直人という人間に対して、尊敬とも興味とも違う感覚。この言葉にできない高揚感はなんだろう。


 この心地よい気持ちに浸っていたい。だが、今は戦闘の最中だ。カーディナルとケルスィは未だ戦っている。

 

「教典も杖も誇りも捨てて……枢機卿すうききょうになった俺をお前が超えられるわけがないだろう」

「そうかもね!」


 カーディナルは自分の周囲に球体の結界を張りながら、槍の形をした炎を生成し続け、飛ばしている。


「無詠唱だけじゃなくて二重詠唱もかよ……とんだ怪物だな。ルートベシュロイニグングに対応しきってる」


 ケルスィは炎の槍を躱しながら、的確に結界を叩きつけている。天使に匹敵するレベルのルートベシュロイニグング状態のケルスィをもってしても、砕くことは敵わない。カーディナルもまた、天使に匹敵する人間とでも言うのだろうか……。


「なぁイデ……フォティア。この能力は何なんだ? お前も教会の奴らも」


 フォティアは意気揚々と答える。ケルスィの戦いから目を離すことはせず、あの日の言葉を引用する。 


「これは天命。神様から受けた啓示を言霊ことだまにし、自然の事象として奇跡を起こす技術だ」


 フォティアの語尾は次第に強くなっていく。

 

「そして、俺たちは此処に否定しに来た。神も、天使エルブラムも、天命もな」


 支離滅裂だ。さっき言ったことにいきなり矛盾してきた。だが、共通の敵がいることは明白。ならやることも自ずと決まってくる。——どうやらフォティアも考えることは同じらしい。彼は懐かしい笑みを浮かべている。


「雨宮直人! さっきのまだできるか? 時間を稼いでくれ。あの狂信者をぶち抜くぞ!」

「おい、いきなり呼び捨てかよ。はぁ……共闘は久しぶりだな。呼吸、お前が合わせろよ?」

「上等!」


 慣れた手つきで弾をこめる。あの結界をこの弾丸で叩き割れる保証は全くない。なんならケルスィの肉弾戦で割れないのだから無理かもしれない。相手は未知の能力を持っているのだから。でも……そんなこと、やってみなきゃわからない。直人はただ走り出した。


 直人の後ろ姿が視界に映る。そうか……この高揚感、隣で戦っている心強い味方……。戦友ライバルと名付けた先人は同じ感情を抱いていたのだろう。フォティアはこの高ぶりと共に詠唱を始めた。


冥界アトランティスの回廊、海神の奔流ほんりゅう、神の冀求ききゅうは地に下りる」


 フォティアのこの天命は今まで成功したことは数少ない。イメージが固まらず、途中で霧のように散っていってしまう。目を瞑り、自分と向き合い、力の流れを感じ取る。


「摂理は無く、海神も既に無し」


 これを安定して唱えられるようになるためには、恐らく知識が足りない。神や天使といった類の超常存在の認識が少ないのだろう。これはその領域に踏み込む一手になる。


「棄教者は偽典を掲げ、虚構の波に事実は沈む」


 直人とケルスィはカーディナルにつきっきりで、こちらに攻撃をする暇を作っていない。こちらに攻撃が向いてしまえば、ここまで長い詠唱を完遂させることは難しかったはず。


なぎの名をもって顕現せよ……偽装・凪想定冥界域ポセイドン!」


 祈りながら詠唱したなぎの言霊。ポセイドンなんてのは聞いたことも無いし、そいつが答えてくれるかも分からない。

 ——失敗か。数秒の沈黙がながれている。


 その時だった。指の先から自身のすべてが飛び出していくような錯覚。呑まれそうになりながら、力をコントロールする。周囲に膨大なまでの水が現れ、床が水浸しになっていく。教会や森といった風景が消え去り、地平の彼方まで水面に置き換わっていく。まるで世界が天命によって作り変えられたように見えた。


 綺麗な水面には4人の身体が反射し、境界線がきれいに映っている。幻想的なまでのその風景は、フォティアが作り出した舞台だった。

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