Angel 45 デュオバレットⅠ
直人たちは教会の敷地内にある、最も大きな建物の入り口にきていた。白を基調としており、ステンドグラスが傾き始めた太陽に照らされキラキラ光って見える。大聖堂とでも言うのだろうか。大きさとは対照的に、人の気配はほとんどしない。
そして、その数少ない人間の気配3つが中から近付いてきている。乾いた靴音に、服がこすれる音。足音から推測できる歩幅的にすべて男だろう。彼らは一切話すこともなく、正面の大きなドアに手をかけた。
「来るぞ」
直人はフォティアとケルスィに声をかけ、拳銃を一丁引き抜いた。そしてドアに向かって銃口を向ける。相手がこちらに敵対意志を持っている場合は、躊躇いなく引き金を引くつもりでいる。
ドアの軋む音が辺りに響き、白いローブに身を包んだ男たちが出てくる。よく顔は見えないが中央にいるのはカーディナルで間違いないだろう。あの立ち姿は忘れもしない。カーディナルは気だるそうに銃口を一瞥すると、わざとらしくため息をついた。そして馬鹿にしたように笑いながら、ケルスィを見つめる。
「随分と物騒なご帰宅ですね。姉君」
姉君——? 直人とフォティアはゆっくりとケルスィを眺めると、彼女は結託のない表情で、ニカっと笑った。
「よう、久しぶり! ちょっと背伸びたか?」
あまりに性格が似ていない姉弟は、これまた反対の表情を見せている。カーディナルの表情は、みるみるうちに曇っていく。表情に憎しみがまじり、実の姉を見る顔ではなくなっていく。それは、敵を見つめるかのようだった。
「————貴様、よくもまぁ顔を出せたものだな! 主に逆らうだけではなく、この聖典を穢し、我らの生き方に泥を塗っておいて……偽典もろとも燃やしてやろう」
カーディナルは持っていた本を片手で開き、もう片手で杖を構える。風に揺れてパラパラとページが捲られていく。
「おいおい。まさか未だエルブラムを盲目的に信じているのか? 少しは疑うことを覚えなよ? このままだと変な壺を買う側か売る側になるぞ」
ケルスィも負けずに煽り返していく。この状況は一体どういう事だろう……話が違うではないか。
「おいおい……は俺らのセリフだよ。ケルさん、何が"それにあたしは此処の元関係者。敵対もされない"だよ。めちゃくちゃ敵対されてんじゃん」
フォティアはケルスィを持っていた杖で小突いてる。親密なのだろうが、何が何だか直人には分からない。この女性は元聖派正教会の一員で、いろいろあって破門された……そんな所だろうが、何故フォティアと一緒にいるのか分からない。
フォティアとは一体どのような関係なのだろう。
「おい、愚姉が……構えろよ」
カーディナルはケルスィから目をそらさずに睨みつけている。
「あたしはもう杖は要らねぇよ。教典だと杖は聖なるもんだとか言ってるけどよ、それは補助輪みてぇなもんさ。別になくても問題ねぇ」
ケルスィは拳を前に突き出し構えた。"いつでもかかって来いよ"と、そう言いたげだ。
「貴様……そのようにまた穢すのか……天命すら! 神の恩寵すらないがしろにするのか!」
「ないがしろ? 違う。あたしはただ否定しに来た。天命もエルブラムも神さえも。その存在自体を」
ケルスィの瞳には覚悟が据わっている。
「————そうか。愚かな棄教者は滅するまで」
白のローブがなびき、フードがめくれる。怒りという簡素な言葉では表現できないほど、負の感情に染った表情が現れた。ケルスィと同じ金髪に似た顔立ち。間違いなく血は繋がっている。
「貴様が無駄な時間を過ごしている間、俺だって修練してきたんだ。天才と呼ばれた貴様がのうのうと生きている間、天才の弟として俺は努力して生きてきた」
カーディナルの杖の先から文字列が浮かびだし、次第に円を描きながら螺旋状に回りだす。
(相変わらずこの力は一体何なんだ……)
どこかしらmagicaとは違う雰囲気を感じる。まだ知らない世界が目の前に広がっている。
「……無詠唱」
隣でぼそっとフォティアが呟いた。彼の表情は驚愕に満ちており、目の前で起きていることが異様であることは想像出来る。カーディナルは杖の先を、ほんの少し上に向け呟いた。
「――プロミネンスノヴァ」
突如襲う火傷しそうなほどの熱気。周囲の酸素が一瞬で消費され、息苦しさを伴う。熱によって生まれた熱風は周囲を包み込んでいく。1Mほどの火球はすぐさま爆散し、小さな火の粉が周囲に散らばっていく。まるで人を殺すための花火。空中で綺麗に惨たらしく咲き散った。
3人ともとっさに回避行動を取る。杖を向けられた時点で、回避することだけ頭に叩き込んでいた。
「フォティア!!!!!」
ケルスィが怒鳴った。声こそ大きいが、そこに怒りはなく、ただ信頼の大きさが故に。フォティアとケルスィは同じ構えで、右腕をまっすぐに伸ばし詠唱を開始する。
「毀せ壊せ。心悸亢進、麟鳳亀竜」
「嵐の群れ、風刃の華美」
直人は詠唱を聞いた瞬間に走り出した。カーディナル以外の2人もぶつぶつと唱えている。詠唱の邪魔をするために、それぞれに向かって発砲する。走りながらのため狙いが定まり切らず当たらなかったが、相手の行動を阻害することには成功した。
「輪転、風起雲湧の颪」
「駆けろ翔けろ。雲蒸竜変、雲竜風虎」
後ろからはいまだにフォティアたちの声が聞こえてくる。良く分からないが、時間を稼ぐのは直人の仕事だろう。右手に拳銃を持ち、左手は右ポケットに沿える。伝わってくるのは《《もう1つの》》冷たく硬い感触。そして中から聞こえる奴の声。
『お、やるのか? 俺とお前のデュオを』
「あぁ。力を貸せ」
『っしゃぁ! 主導権の取り合いだ! 今日は勝つ』
直人は内界解放で左目を紫に光らせている。magicaは1人にひとつ。この世の理だ。内界解放だけではなく、幸運因子がある雨宮直人という人間はまさしくイレギュラーそのもの。
直人は考えた。magicaは脳に負担のかかる異能力。そして内界解放の"機能の拡張"という未知なる可能性。身に宿る2つのmagica。
「偽装・ヴィントクリンゲ!」
「棄教者は偽典を掲げ、夢想の顕現に世界は進む! 穢・ブルートベシュロイニグング」
さぁ、盤上は整った。
左目は深い紫色に。そして右目は鮮やかな黄金色に。magicaの同時顕現により、本来では現実的ではない二丁拳銃での超近接戦闘を可能にする。
「内界解放・魔双銃装!」




