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天使に喰われたオーディナリー  作者: 猫飯 みけ
第3章 過去紀行録 E
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Angel 28 アドナイ軍編Ⅱ

「久しぶりだな坊主。1年はかかると思ってたが、たった3ヶ月で出てくるとはな。想像以上だ」


 養成校を出た直人は、なんの巡り合わせか前島の部隊に配属されていた。


「刑務所みたいに言うな――言わないでください、前島中尉。運良く実技の免除で飛び級出来ただけですよ」


 直人は着慣れない軍服を身にまとい、頭をかいている。


「運良く免除とは……同期が泣くぞ? 噂は聞いてる。組手では負け無し、最近はブラウンともいい試合してるらしいじゃねぇか」

「俺のmagicaが戦闘向きなだけです」


 内界解放リベラシオンの能力は全知覚、情報処理の向上。情報処理の向上により、相手の動きがゆっくり見える。


 相手の微細びさいな動きまで観察し、模倣もほうすることで、直人は異様な速度でブラウンの体術を会得した。そしてそれをおぼえた直人は、ブラウンに互角以上の戦いをするまでになった。


 だがこれは彼の異常な努力の賜物たまものだ。この3ヶ月間、直人は身体と頭を完全に痛めつけていた。養成校の講義終了は21時。その後の24時まで自主トレーニング、2時まで座学していた。朝は6時に起床するため、平均4時間睡眠と言ったところだ。ギリギリ人間にこなせるスケジュールだろう。


 最初の頃は気絶しそうな体を無理やり動かしていた。次第にそれにも慣れ、余裕さえ生まれてきた。

 

「正直ブラウン中尉の方が異常ですよ。magica持ちに対して素手でやり合ってるんですから」

「あいつは指折りの強さだからな。後10年くらい遅く生まれてればmagica持ちの化け物だったかもな」


 前島は面白そうに笑っていた。

 

「さて、あらためてようこそ。雨宮上等兵! 君にはこれから過酷な任務が言い渡されることもあるだろう。国のため、国民のため、忠誠をもとに励んで欲しい」


 直人は敬礼をしたが、忠誠という言葉には、内心笑っていた。直人の目標は美月の奪還だ。軍どころか、国を裏切るのは目に見えている。

 だが、まるで何かを見通したように前島は方の力を抜いた。


「――ってのは建前だ。お前の過去やら生い立ちやらは聞かねぇが、一つだけ覚えておけ。自分の正義を貫き通せよ」

「正義ですか?」


 ポカンとしていたら、前島は語り始めた。


「闘争ってのはお互いの正義のぶつかり合いだ。第三者にはその正義を否定することは出来ねぇが、その闘争を否定することは出来るし、されるだろ? 戦争がいい例だ。そんな時、揺るぎねぇ正義があれば、自分の主張を曲げねぇ道理があればそれでいい。周りに流され、自分の芯を無くしちまったら、大切な誰かを護ることさえ出来ねぇ」


 前島は煙草を口に加え、火をつける。ふーと長い息を吐くと、話をつづけた。


「ようするにだ。おっさん的には、周りに流されない自分を持てってことだ」

「なぜ俺にその話を?」

「これでも一応父親でね。お前くらいの一人息子がいるんだが、そいつが最近家を出ちまってな。これがもう全然話を聞きやしねぇ。すまんな、お前に重ねちまったよ」

「就職とか進学ですか?」

「いや、たぶん反乱組織のどこかに入っちまった——だが俺はそれでもいいと思ってる。ただ俺たちの正義が違っただけだからな」

「——殺しあうことになってもですか」


 前島は何かを考えるように深く息をした。


「あぁ。自分の守りたい正義を貫くことは……殺すことだからな」


 直人はあの惨状を思い出した。あの軍人たちに正義はあったのだろうか。あいつらはただ己の利益のために、なにかを得るために殺していた。護るためじゃない、手に入れるための争いだった。


「俺は何のために戦うんでしょうか」


 直人は自分の手のひらを見つめる。これから何人も人を殺す手のひらだ。


「護りたいものはあるか?」

「——ありました。でも、その時の俺は護れませんでした。何一つとして」

「それは取り返せるのか?」

「わかりません。でも取り返さなきゃ俺が生きている意味がない」

「そうか……なら心配ないな。お前にはその目標がある。それを目指しているうちは」


 前島は煙草の先を直人に向ける。白い煙が一筋の線を描いて、天井に伸びていく。


「お前は折れない。そんな気がする。折れて諦めたり死んじまったりしたらお終いだからな」


 灰皿に火を押し付けた。


「変な勘ですね」

「俺の勘、当たんだぞ? 実際、目を付けたお前はもう上等兵だ。すぐに俺なんか越えてくだろ」

「何言ってるんですか。俺たちみたいなアドナイ27区出身で、中尉以上になれるのは一握りですよ。上層部のほとんどが1区出身ですから」

「まぁ階級じゃなくても、お前は俺を越えるよ。これは勘じゃねぇ、確信だ」


 前島は真っ直ぐにこちらを見つめてくる。直人自身、自分のmagicaであれば上を目指せる、美月の背中に手が届くと思ってはいるが……いや、そう信じたい。

 だがまだ何か足りない。だがその何かが分からなかった。


「そうだ忘れるところだった。ほいこれ卒業祝い」


 前島は黒いケースを直人に差し出した。


「これは?」

「お前のスタイルに合う武器をと思ってな。色々考えたんだが、これしか思い浮かばなかった。とりあえず持っておけ」


 ケースを開けると、黒い拳銃が一丁入っていた。特殊銃ではない昔ながらの実弾を用いる銃だ。


「お前のmagicaは戦闘向きだが、身体能力が上がるものじゃない。そうなると純粋に身体能力を上げてくるタイプにキツくなるだろ」

 

 拳銃を手に取り、質感を確かめる。思ったより重く、しっかりと存在を感じた。


「銃火器であれば距離を詰める必要も無いし、足りない火力を補ってくれる。ただ難点がある」


 直人は思い当たるものがあった。感覚の向上に情報処理能力。

 感覚の向上は表裏一体。遠くまで見えるようになる事は、見えすぎてしまうという事だ。閃光弾など、あまりに強い光は内界解放リベラシオン時に失明するリスクがある。


「――聴覚ですね」

「あぁ、発砲時の音で鼓膜がやられちまう恐れがある。……それでだ。ちょっと訓練に付き合え」


 前島はにやけながら直人を手招きした。


「お前のmagicaは先がある」

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