Angel 22 布都御魂
雷鳴と共に抜かれた一筋の刀。それは刀身は雷のような形状をしており、電撃がシュテルクストの身体を奔っている。雷は刀の雄たけびのようで、音だけでただならぬ圧を放っていた。
擬神抜刀、布都御魂。この刀は、今までの血桜とは言葉通り格が違う。
「これならフォルトゥーナだって斬れるはずさ」
無造作にまき散らされる電撃を見ながら、コーマンは怪訝な顔をした。
「見るのは初めてだが、なるほど……トラヴィス・アラン・アドナイが特異点として警戒するのも頷ける」
「あの刀がそんなに脅威なのでしょうか。傍から見ればただ電気系統のmagicaを持った剣士にしか見えませんが」
マスターがコーマンに尋ねる。
「ま、見ていればすぐにわかるさ。君ほどの腕ならね」
「では、そのようにさせて頂きます」
そんな中、直人はフォルトゥーナから溢れ出る怒りと焦りを感じ取っていた。布都御魂を抜刀してからというもの、フォルトゥーナの感情が不自然に思える。
「お前――そいつは建御雷神の……!」
「そうだよ。流石はフォルトゥーナだ。タケミカヅチという名を知っているとはね」
ここまでの極端な感情の揺らぎは見たことがない。ウォータースの時ですら“楽しい”という興奮が混じっていた。
「幾らフォルトゥーナでも布都御魂には勝てないだろう? 君の力はどちらかというとサポート向きだ。前線に出るような物じゃない。——あぁそうか! だから君は存在を保てているのか。後ろに居たから、あの戦いで消滅せずに済んだ!」
「黙れ……黙れ黙れ黙れ! クソッたれ人間風情が……2度と口が利けねぇようにしてやる」
身体の主導権を渡している直人には止められない。フォルトゥーナは真っすぐにシュテルクストに突っ込んでいった。強く2歩ほど進んだ直後、上空から雷が降り注ぎ、フォルトゥーナを《《直撃》》した。
今まで幾度どなく、当たる現象を捻じ曲げていた神秘を貫いた。あっけない幕引きと言わざるを得ない。フォルトゥーナですら、何一つシュテルクストには届かなかった。
気を失う手前、シュテルクストは呟いた。
「直人君、君は内界解放の能力に気づいていない。加えてフォルトゥーナも力を発揮しきれていない。正直、期待外れだったよ」
雷鳴の刀は鞘に収まった。今まで感じていた圧は、遠くどこかに消えていく。
「だが君たちは特異点なりえると僕は思う。まぁ僕ほどでは無いけどね」
目の前が真っ暗になり、意識は完全にシャットアウトされた。
「……懐かしいわね」
セラはフワネの頭を雑に撫でながら呟いた。その眼は真っすぐにシュテルクストに向いている。
***
「うちの構成員が駄目になったらどうするんだ?」
キューヴのアジトでは、シュテルクストがコーマンに睨まれていた。
「いやぁ……でもまぁ助手ちゃんが治したし、命に別状はないよ。後遺症もね」
「訓練場に穴が出来たことは?」
「それはほら、弁償ってことで。ね、助手ちゃん」
「所長、うちにそんなお金あるとでもお思いですか? 興味の湧く仕事しか選ばないせいで、じてんしゃ 雷鳴と共に抜かれた一筋の刀。それは刀身は雷のような形状をしており、電撃がシュテルクストの身体を奔っている。雷は刀の雄たけびのようで、音だけでただならぬ圧を放っていた。
擬神抜刀、布都御魂。この刀は、今までの血桜とは言葉通り格が違う。
「これならフォルトゥーナだって斬れるはずさ」
無造作にまき散らされる電撃を見ながら、コーマンは怪訝な顔をした。
「見るのは初めてだが、なるほど……トラヴィス・アラン・アドナイが特異点として警戒するのも頷ける」
「あの刀がそんなに脅威なのでしょうか。傍から見ればただ電気系統のmagicaを持った剣士にしか見えませんが」
マスターがコーマンに尋ねる。
「ま、見ていればすぐにわかるさ。君ほどの腕ならね」
「では、そのようにさせて頂きます」
そんな中、直人はフォルトゥーナから溢れ出る怒りと焦りを感じ取っていた。布都御魂を抜刀してからというもの、フォルトゥーナの感情が不自然に思える。
「お前――そいつは建御雷神の……!」
「そうだよ。流石はフォルトゥーナだ。タケミカヅチという名を知っているとはね」
ここまでの極端な感情の揺らぎは見たことがない。ウォータースの時ですら“楽しい”という興奮が混じっていた。
「幾らフォルトゥーナでも布都御魂には勝てないだろう? 君の力はどちらかというとサポート向きだ。前線に出るような物じゃない。——あぁそうか! だから君は存在を保てているのか。後ろに居たから、あの戦いで消滅せずに済んだ!」
「黙れ……黙れ黙れ黙れ! クソッたれ人間風情が……2度と口が利けねぇようにしてやる」
身体の主導権を渡している直人には止められない。フォルトゥーナは真っすぐにシュテルクストに突っ込んでいった。強く2歩ほど進んだ直後、上空から雷が降り注ぎ、フォルトゥーナを《《直撃》》した。
今まで幾度どなく、当たる現象を捻じ曲げていた神秘を貫いた。あっけない幕引きと言わざるを得ない。フォルトゥーナですら、何一つシュテルクストには届かなかった。
気を失う手前、シュテルクストは呟いた。
「直人君、君は内界解放の能力に気づいていない。加えてフォルトゥーナも力を発揮しきれていない。正直、期待外れだったよ」
雷鳴の刀は鞘に収まった。今まで感じていた圧は、遠くどこかに消えていく。
「だが君たちは特異点なりえると僕は思う。まぁ僕ほどでは無いけどね」
目の前が真っ暗になり、意識は完全にシャットアウトされた。
「……懐かしいわね」
セラはフワネの頭を雑に撫でながら呟いた。その眼は真っすぐにシュテルクストに向いている。
***
「うちの構成員が駄目になったらどうするんだ?」
キューヴのアジトでは、シュテルクストがコーマンに睨まれていた。
「いやぁ……でもまぁ助手ちゃんが治したし、命に別状はないよ。後遺症もね」
「訓練場に穴が出来たことは?」
「それはほら、弁償ってことで。ね、助手ちゃん」
「所長、うちにそんなお金あるとでもお思いですか? 興味の湧く仕事しか選ばないせいで、自転車操業ですよ」
シュテルクストは助手のシェリーにも睨まれていた。
「はぁ……同業者のよしみだ。代金は今すぐに、とは言わない。利子をつけた上で返してもらうがね」
「そう言っていただけると助かります。所長には私の方からも釘を刺しておきますので」
この場では、先ほどまでの狂人っぷりは無くなり、肩身の狭い男になっている。
「まぁそれはそれとしてシュテルクスト。君にはいろいろ聴きたい事はあるが——聴いても構わないかい?」
「僕に答えられることであればね」
「幸運因子は一体何なんだ」
「それは僕が聞きたいくらいだよ。なんであんな存在が直人君に入っているんだい?」
コーマンは数秒考えたのち、ゆっくりと話し始めた。
「直人君がアドナイの軍人時代の事だ。彼は、アドナイの研究機関の手によって……率直に言えば、私が幸運因子を植え付けた。当時はあくまで幸運というmagicaだったのだが……明らかに変質している。magicaが人格を持っている事例なんて聞いたこと無い。これではまるで天使だ」
コーマンは率直に疑問をぶつける。彼女の知識量は少なく見積もっても世界トップクラスだ。その知識から探しても、幸運因子はイレギュラーそのもの。推測でしかものを語れない。
「なるほどね。コーマンもその渦中に居たって訳か——フォルトゥーナは君たちの敵でも、直人君に害を成すものでもない。フォルトゥーナは一種の守護霊とでも思っておけばいい」
「君でも詳しくは知らないのか?」
「知らないんじゃない。話せないね。これはフォルトゥーナにとっては知られない方が良いだろうし、世界にとっても明かされない方が絶対に良い。彼の正体を知っているのは僕だけで充分だ」
「そうか」
シュテルクストは話さない事は絶対に話さない男だ。それはコーマンも良く知っている。それに、意味のないことはしない。話さない事自体に意味があるはずだ。
「所長、そろそろお時間です。お急ぎください」
「もうそんな時間か。それじゃ失礼するよ。これからも頑張ってね」
シュテルクストは踵を返し、これ以上話すことは無いと主張するようにそそくさとアジトを後にした。
***
キューヴのアジトを出た彼は、黒いソフトハットに丸眼鏡を付けていた。眼鏡には認識阻害がかけられており、彼をシュテルクストとして認識することは難しい。しばらく歩いたところで、シェリーはシュテルクストに話しかけた。
「所長、なぜ彼にあのような事をおっしゃったのですか?」
「挑発した事?」
シェリーは「当たり前です」とでも言いたそうに頷いた。
「それは直人君たちには強くなってもらわなきゃ困るからさ。彼らが表舞台の功労者だとしたら、僕らは裏舞台の先覚者だ。僕は表の事まで見れないからね。――直人君には《《奴ら》》を何とかしてもらわなきゃならない」
シュテルクストの綺麗な白髪が風で靡く。彼は先を見据えるような眼で遠くを見ていた。
「仕向けるっていうと聞こえは悪いけれど、そうでもしないと僕の《《使命》》ってのがうまく運ばないのさ。これで直人君のプライドに火が付けばいいんだけどね」




