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天使に喰われたオーディナリー  作者: 猫飯 みけ
第2章 国内動乱
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Angel 16 シュガンツァーⅠ

 今から21年前の戦争で、世界の全ては火に包まれた。

 アドナイとして統一された世界は、驚異的な速度で復旧されたが、未だ世界の4割以上は非住居地域。それは離島、大陸、森林などと様々だ。それらは総じて未開拓地と呼ばれている。


 未開拓地では、戦時中の不発弾をはじめとした危険物が多く存在しており、そこに足を向けるのは、アドナイ開拓を目的とする軍か、そこらを根城にする反アドナイ勢力程度のものである。アドナイ27区の西端。本土と橋をひとつ隔てたこの島も今、では未開拓地である。


「俺たちの仕事は、ここにいる不法滞在者の抹殺だ」


 直人たちは前時代に作られた橋の手前で足を止めていた。橋の向こうはかつてビルだったものが立ち並んでいる。今はほとんどが崩壊しており、コンクリートに草木が生い茂っている。当時は人で溢れているオフィス街だったのだろうが、今では見る影もない。


「情報によると……ん? 潜伏しているのは元シュガンツァーの残党か。こんなところにいるんだな」

「シュガンツァーって?」


 美月が首を傾げて尋ねている。


「歴史で習ったろ……アドナイに隣接していた小国で、元から領土問題でアドナイとシュガンツァーは冷戦状態だったんだが、そこであの戦争だ。イスケールがいるアドナイに対して、シュガンツァーは何も出来なかった。途端にパワーバランスが崩壊し、シュガンツァーは一夜で地図から消えたんだ」


 今の地図を携帯で見せる。シュガンツァーがあった場所は、現在のアドナイ3区にあたる。3区の中央付近には大きなクレーターがあり、一種の観光名所になっている。そこは元々、シュガンツァーの軍用施設や宮殿があった首都。アドナイによって吹き飛ばされたこのクレーターがその跡地である。


「ほら見てみろ、ここに円形に大きなくぼみがあるだろ? ここあたりがシュガンツァーだった場所だ」

「ここってそんな場所だったんだ……ただの観光名所だと思ってた。でもそんなシュガンツァーがなんで27区に?」


 当然の疑問だ。加えて言うならば、戦争の序盤で消え去ったシュガンツァーの人間が生き残っている事は奇妙と言ってもいい。


「噂話でしかないが……国王が上手いこと臣下を囮おとりにして、言葉通りの死ぬ気で逃げ回っているらしい。3区から後退し続け、今はここに定着しているんだろう。愚王——そういう類だそうだ」

「ふーん、良くわかんないや。それで私はどうすれば良い?」


 美月はmagicaを持っておらず、セラに変わらなければまともに戦えない。あまり戦場に近づけることすらしたくは無い。


「これだけ持って、後ろに隠れておけ」


 直人は特殊銃を美月に投げ渡す。護身用だ。


「危なくなったらセラに変わるぐらいでいい。アイツに任せとけば何とかなるだろうからな」

「直人はセラが付いていかなくても大丈夫なの?」

「あぁ。というよりも、最初っからセラをだそうものなら、所構わず暴れそうだからな。ここら辺が綺麗な更地になっちまう。観光名所を増やすわけにはいかないよ」


 魚でもいるのだろうか、橋の上で川を見ながらぼーっとしているフワネを呼ぶ。遠くから見るとただの子どもだ。フワネは呼ばれるとてくてくと向かってくる。さながら小動物のようだった。合流したところで3人はゆっくりと橋を渡り始める。


「よしフワネ、それじゃああそこのショッピングモールに1人で特攻してきてくれ。そこが相手の本拠地だ。頼んだぞ」

「ん、わかった」

「ちょちょちょちょ! いくら何でも急すぎるでしょ! こういうのって正面からじゃなくて、もっと段階を踏むものなんじゃないの!? 相手はどこにいるかとか、地形はどうだとか……」

「それはそうなんだが……まぁ、見とけって」


 橋を渡り切った所で、直人と美月は足を止める。フワネは鼻歌を口ずさみながら、1人でずんずんと進んでいく。フワネがショッピングモールの手前まで行ったところで、大きな声がした。


「警告する! ここから先、我々に危害を与えると言うのであれば、身の安全は保障できない! 大人しく元居た場所に戻れ! 民間人には関係ない場所だ!」


 フワネが指示を仰ぐかのように、こちらに振り返った。

 直人は真顔で答える。


「俺たちはお前らの殲滅せんめつに来た。早く降伏すれば楽に殺してやる。って言っておけ」

「——ってばかばかばかばか!」


 美月が涙目で直人の肩を揺らしながら抗議する 。

 フワネはサムズアップをすると、精一杯の声を張る。


「せんめつ、きた。 こーふくすれば、らくだよー!」

「ほら、フワネの声量でも何とか聞こえるんじゃないか?」

「そうじゃないのよこのバカ! さっきから危ないって言ってるの!」


 2人でたわむれていると、周辺に殺気が漂い始めた。軽い金属音に殺意の匂い。直人は銃口がこちらに向いているのが分かっていた。それもおびただしい数である。知覚できたのも内界解放リベラシオンの賜物たまものだ。そっと美月に耳打ちをする。


「美月、こっちにこい」

「え、何?」


 美月はどうすれば良いのか分からずに、その場であたふたしている。

 このままでは間に合わないと判断した直人は、美月を持ち上げた——お姫様抱っこで。


「ひゃっ!」


 美月は間抜けな声を上げると、無抵抗に抱きかかえられる。それとほぼ同時刻、5階建てのショッピングモールから、一斉に特殊銃の弾丸が放たれる。エネルギー性の弾丸は直人にかすることは無く、地面に衝撃を与えながら散っていく。フワネは周囲に水の膜を張り、弾丸をせき止めていた。


 美月は建物の物陰に隠れるまで顔を上げられなかったことは言うまでもない。ずっと丸まって悶えていたのだ。


「美月は少しここで隠れてろ。俺はちょっと野暮用だ」

「う、うん……」


 直人はスーツのえりを正すと、暗闇に消えていった。


「そこの君、本当に我々に敵対するのか! 後ろの輩に良いように使われているだけなら、見逃してやらんこともない!」

「ううん。にぃさまとは、なかよし。たぶんだけど」

「……子どもを殺めるのは心が痛むが仕方ない。総員、一斉射撃!」


 フワネに対しておびただしいほどの弾幕が襲う。しかし幾ら総量が増えたところで、水球に包まれたフワネには届かない。


「——うるさい、ね」


 フワネは気怠けだるそうに耳を抑えながら前進していく。


「ここまでの弾幕の前に……あの娘は化け物か!?」

「まだ子どもとは言え、かなり強いmagicaを持っているな……今すぐMPB持って来い! 後の事は考えずにぶちかませ!」


 ショッピングモールの入り口にそれは現れた。1.5Mを超える銃身の近代特殊兵器の1つ。magicaそのものをエネルギーとし、それを蓄積、放射するシステム機構を搭載しているカノン砲。


 特殊兵器は威力に難があるが、ブレが無い、弾丸が要らない、反動も無いなどの利点が多い。しかしながらMPBはそれに当てはまることは無い。その威力は、従来のカノン砲を優に超えている。その代わり、相応の時間充填が必要であり、価格もかなり高価なものである。


 MPBの銃口は真っすぐフワネに向いている。フワネは動じることは無く真っすぐ歩みを進めていた。


「撃てぇ!」


 青白い光に加え、衝撃波と轟音が飛来する。視認することも出来ないまま、MPBの弾丸はフワネに着弾した。普通であれば跡形もなく消え去るだろう。着弾地点を削り取り、反球状に穴をあける。

 青白い光が晴れると、フワネは無傷で浮遊していた。MPBを受け止め、呑気に欠伸までしている。彼らから見れば絶望が歩いて近づいているように見えただろう。


「——たいくつ。にぃさまと、ねぇさまをからかう方が、たのしい、ね」


 フワネはぼそっと呟くと手を前にかざす。一階部分にはどこからともなく水の壁が押し寄せ、螺旋状に水が躍動する。1人ずつ避けられないままに水流に飲み込まれていく。僅か数秒で1階の生命体は藻屑もくずとなった。

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