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天使に喰われたオーディナリー  作者: 猫飯 みけ
第1章 アルゴー
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Angel 11 天使フワネエル

 フォルトゥーナは自嘲気味に直人に話しかける。


「わりぃ、お前の体だと殺せねぇみたいだ」

『——フォルトゥーナ、お前今の流れでそうなるか? そこは拳ひとつで粉砕するところだろ』

「軟弱な体のお前が悪い。少しは鍛えておけ。こんなんじゃ使い勝手が悪すぎる」

『はぁ……人間なんてこんなもんだよ。腰にある拳銃を使え、そいつならあの皮膚でも貫通するだろう』


 直人は弾丸をミュータントにまだ当てていない。だがミュータントは装甲をまとっているわけではないため、ある程度のダメージは期待できる。所詮、変質に適応の無い人間が起こしたmagicaだ。ここまで攻撃と速度に割り振っている分、防御力なんてものはたかが知れているだろう。


「お前が拳銃使ったところは見たことあるけどよ、実際に撃ったことなんてねぇよ。そんなんで当たるかマヌケが」

『お前の得意な幸運使って当てて見ろよ。いけるだろ』

「馬鹿か。適当に打てばまだしも、弾薬が限られている中、片腕が使えない状態で当たる確率は0%なんだよ。今じゃそのレベルの因果は手繰り寄せれねぇ。それは奇跡ってやつだ」


 フォルトゥーナは無理だと言う。今までの動きから見れば、弾丸を当てる事は造作もないように思えた。


『——お前の能力は何なんだ』

「そのうち分かる。ただ制約のある幸運とだけ思っておけ」


 2人が話している最中ミュータントは当たらない攻撃に対して酷くいきどおっていた。いくら殴っても何故かそこに敵はいない。ただ何もない空中をかすめているだけだ。


 拳では埒が明かないと判断したのか、雄たけびを上げ巨大な瓦礫を持ち上げる。土埃を起こしながら投げられるが、棒立ちであるはずのフォルトゥーナには当たらない。全てが彼を避けて飛んでいく。


「取り敢えずだ、フォルトゥーナがあいつに接近してやる。あいつの脳天をぶちまけるのは直人、お前の仕事だ」


 フォルトゥーナはそう言うと、直人の返答も待たずににやりと笑って走り出す。彼の突進を拒むものは何もない。強く目を開きミュータントに集中する。


「ったく今の世界はおもしれぇな!」


 一直線に走り、瓦礫が彼を交わしていく。ミュータントとの距離は約3M。ミュータントは拳を振りかざす。今まで通り、見当違いな所を殴りつけると思ったがその拳は明確な殺意をもってフォルトゥーナに向かってくる。

 フォルトゥーナは寸前のところで横っ飛びをした。《《当たる》》と判断したのだ。ミュータントは時間が経つにつれ、攻撃に迷いが消え洗練されていくのが見てわかる。 


「おいおい、殺すには惜しい人材だな。理性を失っているとは言え、殺しにかけてここまでセンスある奴はそうそういねぇぞ。だが……」


 フォルトゥーナは跳躍する。彼が見せるその表情は愉悦だった。

 

「おいミュータント! お前は手段を間違えた! 少しばかり思い切りが足りなかった。もっと強く、早く、意地汚く《《裏切り》》を決断していれば、全て上手くいったろうにな! 結局お前に自己犠牲ってのは合わない思考みてぇだぞ!」


 フォルトゥーナは慣れない動作で拳銃をホルスターから引き抜き、そのまま片手で構えた。ミュータントの目に自分の身体が映り込む。


「直人!!!」

内界解放リベラシオン


 すぐさま空中でスイッチする。世界は停滞し、思考が加速する。外すことは許されない。そろそろ警備兵も来るだろう。この左腕ではまともに戦える気がしない。

 眼前に迫るミュータントの額に拳銃を向け、引き金を引く。強化された聴力が、乾いた音を鮮明に受け取った。弾丸は螺旋らせん回転しながら皮膚を貫き、そのまま肉の中を前進していく。追加で全く同じ場所に数発撃ち込んだ。

 鮮血が自分の頬にべたりと付く感触が気持ち悪い。


「ウォォ……ォ……!」


 ミュータントは叫び声をだしながら、全身で白い煙を上げている。次第に元の人の形へと戻っていく。やっとこれでウォータースを倒し仕事も終わる。

 そう安堵した瞬間だった、死体が1つ転がっている空間に絶叫がこだまする。


「——お父さん!」


 少女は足がもつれそうになりながら、ウォータースの元へ駆け寄る。彼女の目は異様に見開かれ、ワナワナと震えていた。


「お父さん! ねぇ! お父さん!」


 必死に体を揺すっているが反応はない。当たり前だ、とっくに息絶えている。それに直人が殺さずとも、ウォータースとしての自我は消失している。少女を娘だと認識することも出来ないだろう。むしろ人型に戻っただけで奇跡だ。


「いや……いや……嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌」


 少女が涙をこぼしている。涙は父親だった何かに垂れていき、その途端ウォータースの体が光だす。少女の表情はどんどん薄れていき、目から光が失われていく。


「嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌」


 ウォータースは見る見るうちに霧のように、空気中に溶け出していく。悲壮感につつまれている少女は、明らかに様子がおかしかった。父親を失った悲しみであったはずが、しだいにすべての拒絶へと変化していく。


「——ねぇ直人……これまずいわよ!」

「見ればわかる! なんなんだこれは!」


 本能が危険を訴えてくる。左腕の痛みはどこかに消え、変な寒気が体を包んでいった。そんな中、廊下から知っている顔が走ってくるのが見えた。リーダーを筆頭とするプロメテウスたちだ。


「マーダー!」

「——やっぱりこの騒ぎはお前たちか。まずは状況報告」


 落ち着かないリーダーに変わって参謀が冷静に回答する。


「はい、彼女は適性体です。既に天使を埋め込まれており、アルゴーでは研究成果として披露される予定でした。そこを我々が強奪した次第です」

「嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌……嫌嫌嫌嫌、嫌嫌嫌嫌嫌」

「——それでこれは?」

「いえ、我々にもさっぱりなんですよね。これが。天使の公開情報が少なすぎて仮説の立てようがないです」


 体を震わせている少女の周りに水が出現していく。それは彼女を護るように、周りに円を描き回りだす。


「あれは人格の崩壊。人間に宿った仮体状態から、人の自我が失われて新体に代わる現象……このままだと暴走するわよ——まぁ、ここまで来たらどうしようもないけれどね。天使もまだ眠っているみたいだし」 


 セラの言葉通り、みるみるうちに水量は増え、中心にいる彼女を視認することが難しくなっていく。


「嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌……」


 少女は急に言葉を発さなくなった。嵐の前の静けさだろうか。周囲には水の音だけが響いている。

 

「——お父さん」


 突如、少女を包んでいた水が四方にはじけ飛んでいく。水の中から出てきた少女は、両目と髪をを蒼く光らせ、背中から2枚の羽根が生えていた。

 ——蒼い天使。人の手には負えない化け物であり、人知の域を凌駕りょうがする生命体。目から涙をこぼし、どこか虚ろに浮遊している。意識もないようだ。


 天使は水を作り、周囲に飛ばしはじめる。その速度は弾丸に匹敵しようかという速度で飛翔する。


「——ッ!」


 その場に居た全員が咄嗟とっさ瓦礫がれきや物陰に隠れ、やり過ごす。幸いなことに威力は大したことはない。それでも当たり所によれば、数発で絶命するだろう。その証拠に、身を潜めていた瓦礫が壊れていく。このままだと時間の問題だ。


「フワネエルったら……さっさと目覚ましなさいよね。お寝坊と言うかぼーっとしているというか」


 隣居たセラは、やれやれと面倒そうにしていた。同じ天使だからか、どうやら面識があるようだった。言及したかったが、時間も無さそうだ。

 天使は雨の銃弾を降らせながら、同時に水球を生成しはじめる。その水球は急速に巨大化しだし、狭い空間を圧迫していく。


「セラ……あいつどうにか出来るか」

「——ふーん、燃やしちゃダメっていったのに?」


 セラは不機嫌そうに頬を膨らませながら、こちらを覗き込んでくる。直人は近づいた顔を逸らしながら、やけくそに叫んだ。


「現場の判断が優先されるって言っただろう! 早くしてくれ!」

「ん~、それじゃあ私の言う事1つだけ聞いてくれる? 聞いてくれるなら何とかしてあげるわ」

「……あぁわかったよ! だから何とかしろ!」

「ふふっ。言質とったわよ。それじゃあサクッと終わらせてくるわね。ここで待ってなさい」


 セラは嬉しそうにふわっと立ち上がると、瓦礫がれきから飛び出した。

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