第四話
「まだ聖女様は見つからないのか?!」
女神の神託が降りてから十八年。未だに聖女を発見できない王と司教は、さすがに焦りを感じていた。
「では一度候補から外れた者も、再度調べ直してみてはどうですか?」
凛とした若い男の声がした。
「おおっ!息子よ!!」
「で、殿下?!」
王の子息である王子が現れた。
「聖女様の魔力は、我が国の最高魔導士をも凌駕する高い魔力を持つと聞きます。高魔力保持者しか測定できない選定をすれば良いのでは?」
サラリとした髪をかきあげ、綺羅綺羅しい微笑みを携えて王子が語る。
「ならば、水晶による魔力測定を行いましょう!水晶は一定以上の高魔力にしか反応しませんぞ!!」
「うむ…ある程度の数の水晶玉が必要じゃな。金がそれなりに掛かるが…」
「聖女様に国の平和と繁栄を祈っていただければ、その位の経費は容易く回収できますよ」
王子にそう告げられ、王と司教は頷き合う。
「よし!大至急、測定開始じゃぁぁ!!」
「ですぞぉぉぉぉ!!」
王と司教が慌ただしく部屋を去ると、部屋に残された王子が独り言ちる。
「…チッ…馬鹿共が。無駄に時間をかけさせやがって」
先程までの品行方正な態度の仮面をかなぐり捨て、王子は誰となく毒づく。
「…まぁ、良い。古の伝説『聖女』。彼女を手に入れた『勇者』は、この世の全ての富と名声を手に入れたと言う…その『聖女伝説』が女神の神託により、現実となった」
王子は冷酷な表情を浮かべ、今後の算段を立てる。
「先ずは俺の肩書に群がる、邪魔な女共の処分だな…無能な金食い虫の妃など不要だ。俺に必要なのは、世界最高峰の最強魔法『女神の加護』。それをこの世で唯一保持する『聖女』!俺の未来の花嫁!その強大な力、俺の為に奮って貰おうじゃないか!!」
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『急募!!強い魔力を持った女性
水晶玉に手をかざすだけの簡単な作業です』
ある日突然、国からこんな御触れが発せられた。調査対象は、一定年齢以下の女性全員。しかし田舎の辺境村に調査場がある訳もなく。該当者に当てはまるマリアンヌは、隣町まで赴く事となった。
「ヴァンも一緒に来てくれるよね?」
僕が昼食用のパスタの仕込みをしている横で、マリアンヌは鳥たちと戯れている。
「一緒に行きたいけど…僕、部外者だよ?怒られないかなぁ?」
「大丈夫よ、ヴァンは私の恋人だもの!部外者なんかじゃないわ」
僕とマリアンヌは、少し前から正式に交際するようになった。幼い頃からずっと一緒だったから、村の人には「今更?」と不思議がられたけれど。
「イーグルたちは嫌がらないかな?」
僕は相変わらず、マリアンヌに集まる動物たちから冷たくあしらわれている。マリアンヌと付き合うようになってからは、益々当たりが強くなった気がする。
「それがね、イーグルたち何か用事があるみたいで…一緒に来られないんだって」
マリアンヌは成長するにつれて、動物たちと簡単な意思疎通が出来るようになっていた。
「用事って何だろう?」
「私にもよく分からないの。イーグルが側にいてくれたら心強いんだけど…」
そう言ってマリアンヌがイーグルの羽を撫でると、イーグルは嬉しそうにマリアンヌに頭を擦り付けている。
機嫌の良さげなイーグルに僕が近づくと、イーグルはプイっと顔を背けた。
「嫌われてるなぁ…」
「そんなことないよ。イーグルね、ヴァン以外の男の人は、パパでさえ私に近づかせないんだもの」
「本当?」
イーグル、ファルコン、コンドルのトリオが威嚇しまくって、マリアンヌに近づく男を寄せつけないようにしているらしい。
「…全然知らなかったよ……」
感極まった僕がイーグルを撫でようと手を伸ばしたら、思い切り啄かれた。すごく痛い。
「パパが近づこうとすると、イーグルがハゲタカたちを呼んで、パパを総攻撃するのよね」
「…すぐに止めてあげてね、マリアンヌ」
お父さんを鳥葬しないで!!
数ある作品の中からお読みいただき、ありがとうございました。
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