第三話
僕が屋根の修理をしていると、村人たちが何やら集まって話しをしているのが見えた。その人だかりの中心にいるのは、僕の幼馴染マリアンヌ。
「なんて可愛らしいんだろうねぇ」
「いいなー!わたしも仲間に入れて欲しい」
嫌な神官が逃げ帰ってから時は流れ、僕たちは十六歳になった。
マリアンヌには少し前から、彼女に群がる虫や生えてくる植物目当てに、今度は小動物や小鳥が集まるようになっていた。小さな動物たちも当然マリアンヌの事が大好きになり、彼女の周りでのんびりと楽しそうに寛いでいる。
「天国って…ここなのかも知れん」
「ああ…いつまでも見ていてぇなぁ…」
リスやモモンガにハリネズミ、澄んだ声でさえずる小鳥たちに囲まれたマリアンヌは、本当に可愛いかった。マリアンヌ自身も、誰もが振り返る美少女に成長したのだから尚更だ。
マリアンヌの肩によじ登るフェネック。膝に座る野ウサギ。アライグマは、木の実や花をマリアンヌの前にせっせと運んでいる。小鳥たちは唄いながらダンスをするように、マリアンヌの周りをくるくると飛び回る。
その様子を見たマリアンヌが微笑むと、彼女の周りは色とりどりの花が咲く美しい花畑となった。花の香りに誘われてやって来た蝶たちも、小鳥のダンスの輪に加わり、ヒラヒラと舞い踊る。
この世の幸福と平和がこの場所にすべて詰まっているかのような、幻想的で穏やかな風景。村の誰もが、この微笑ましい光景に頬を緩ませていると——
「ギャアーギャアー!」
「グギギギギギギ!!」
猛禽類たちが現れた。
小動物たちは居なくなった。
こうしてマリアンヌを囲うのはイーグル、コンドル、ファルコンなどの大型の鳥たちになった。クジャクやフラミンゴの集団も加わり、彼らは騎士よろしくマリアンヌを守っている。
この世の楽園だった風景は、野鳥の会へと変貌を遂げた。
‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥
「いてててて…」
「啄いちゃダメよ、イーグル。ヴァンは私の大切な人なんだから」
「うわわわわわわ!」
「粘液は吐かないで!ヴァンの服が溶けかかってるわ!!」
「あっ、ちょっ…」
「ヴァンの頭は温めなくて良いのよ!卵じゃないわ!!」
どうやらイーグルたちは、マリアンヌと仲の良い僕のことが嫌いらしい。啄いたり引っ掻いたりは当たり前。彼女が生やす植物たちも鳥たちに応戦するかのように、僕に変な液体をかけたり、種を飛ばして攻撃して来る有り様。ダチョウに至っては、何故か僕の頭を温めようとのしかかって来る。地味に痛いのだけれど…
「イーグルたちは、マリアンヌが大好きなんだよ。マリアンヌを守ろうと一生懸命なんだ。だから叱らないであげて」
「もう、ヴァンったら!みんなのヤキモチのせいで、身体中ベタベタになって、ちょっと変なニオイもするのに…本当に優しいのね!大好きよ!!」
マリアンヌの周りに薔薇の花園が現れ、空には大きな虹が掛かった。
虹の前には雲で書かれたメッセージ。
『 ヴ ァ ン だ い す き 』
「マリアンヌとヴァンは今日も仲良しだなぁ」
「ラブラブだぁなー」
ちょっと恥ずかしい。
数ある作品の中からお読みいただき、ありがとうございました。
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