第二十四話
「はっ!!!」
床をのたうち回っていた女神が、不意に起き上がった。キョロキョロと忙しなく、辺りを見回すような仕草をしている。
「どうしたんですか、女神様?」
「ヤヤヤヤヤヤヤツがっ!来るッ!!」
「ヤツ?」
僕が不思議に思ったと同時に——
ズガァァァァァン!!
衝撃と轟音が鳴り響いた。
「うわっ!今の衝撃って…何ですか?」
「ヤツじゃ!聖女がッ!聖女がお主を探しに来たぁぁぁ…」
女神が小さく丸まって、ガタガタと震え出す。
「世界が滅んだのに…自己修復能力を上回る魔力の放出で、肉体も四散したはずなのにっ…魂だけとなって、お主を探しに来たのじゃ!!」
ドンッ!
ドンドンッ!!
ドンドンドンッ!!!
外から何かを打ち破ろうとする音が聞こえる。
「聖女とはいえ妾が呼び寄せない限り、神界に来ることなぞ出来ぬ!それをヤツは自力で辿り着いた…」
「じゃあ僕がここにいるのは、女神様が僕を招いたと言う事ですか?」
「そうじゃ。本来ならば肉体から離れた魂は、冥界に行く。お主を冥界送りにせず、呼んでおいて正解じゃった…」
ガキィン!
ガキィン!!
キュィィィィィィン!!!
こうして話している間も、外からの破壊音が続いている。
「…仮にマリアンヌが冥界を襲撃していたとしたらどうなっていました?」
「冥界は頑丈にできているが、神界よりは脆い…崩壊した冥界から死者の魂…良き魂も悪しき魂も全てが溢れ出し、神界をも巻き込んだ混沌が誕生していたかも知れぬ」
「聖女が作り出す地獄絵図になってましたね…」
カーン!
カァァァーン!
メリメリメリ!!
ガリガリガリガリ!!!
「…お主が王子に斬り殺された時、嫌な予感がしたのじゃ…まさかこんな事なるとは…」
ダァン!
ダンダンダンッ!!
ドルルルルルルルルルル!!!
破壊音は次第に大きくなり、振動で揺れる足元のせいで、上手く立っていられない。
「ここの結界も、聖女に破られるのは時間の問題じゃ…お主、聖女を連れてさっさと帰れ」
女神がそう言い放った。
「連れて帰れって…戻る世界がないじゃないですか?それに僕は死んでしまったし」
「お主一人を生き返らせる事くらい造作もない。ただのう…」
まだ丸まったままの格好で女神が話を続ける。
「壊れてしまった世界を完全に戻すのには、妾の神力がちと足りぬ。人も物も全てが消滅してしまったのだからの…どこまでできるか解らぬが、大方は修復しとくから、あとはお主らで何とかせい」
「何とかって…そんな無責任な…」
「神界まで破壊されたら、妾も無事では済まぬ!世界を戻すことなど不可能になってしまう!!ほれ、さっさと行け!!!」
「えっ?あっ!女神様——!」
僕は眩い光の中へ放り出された。
「ふむ…『最強の聖女には最高のスーパーダーリンが必須!』と思いついて、もののついでにあの男を造ったのじゃが… 思い付きで造ったあの男には、妾の加護は無い。聖女の寿命は『女神の加護』故、とても長寿。ごく普通の人間の肉体を持つあの男が、聖女より先に死んでしまったら…ううっ…また聖女が世界を滅ぼしかねん!あの二人には永遠の命と若さを与えて、二人揃って未来永劫、この世界で生き続けてもらおう…お前らなんてこっち来んな、じゃ!!ふんっ!!」
…最後に聞こえたのは、女神の独り言だった。
次回は本編最終話です。
数ある作品の中からお読みいただき、ありがとうございました。
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