第二十三話
「ああああああああああ!マズイ!まずい!マズイのじゃぁぁぁぁ!!」
「どうするんですか、女神様。世界が滅亡しちゃいましたよ?」
慌てふためいている女神の横で、僕は水晶玉を覗き込んでいる。
僕がいるのは神界。王子によって斬り伏せられた後、どういう訳か僕の魂は神界へと辿り着いた。
そして今まで水晶玉で見ていたのは、マリアンヌが生まれてから——そして僕の死を知ったマリアンヌが世界を滅ぼすまでの映像だ。
「聖女が世界を滅ぼすなんて前代未聞じゃ!怒られるぅ…怒られるぅ…創造神様に怒られるぅ…」
女神がガタガタと震えている。
「マリアンヌの力は絶大です。そんな仕様にしたのは、女神様でしょう?」
僕が呆れてそう言う。
「仕方ないじゃろう?色んな装備搭載しまくって、完璧の究極で無敵の聖女にしたかったのじゃ!!」
「どこで仕入れたキャッチフレーズなんですか、それ?」
万物から愛され、無尽蔵に湧き出る膨大な魔力を保持。敵対するものを全て浄化する最強魔法『女神の加護』を駆使して、自分のためにひたむきに努力する明るくて元気な美少女。それが女神の造った『女神の愛し子・聖女マリアンヌ』だった。
この世界の主人公と言っても過言ではないその能力は、全て女神が望んで与えたものだったらしい。マリアンヌの性格がやや猪突猛進気味になってしまったのは、育った環境が影響した部分もあるかも知れないが…
「何でそんなに張り切り仕様にしてしまったんですか?」
「……初めてだったんじゃもん…」
「え?」
「見習い神の頃から、前任者と一緒に育てて来た世界で!やっと女神に昇格して!初めてひとりで任されて!!初めて造った聖女だったんじゃもんんんんん!!!」
「つまり、見習いの頃からずっと妄想してた『私ノ考エタ最強ノ聖女☆』を造ってみた、と」
「あああああ!皆まで言うなぁぁぁぁぁ!!」
その結果、世界は滅んだ。
「造ったのは良いとして…どうして神託なんてしたんですか?神託がなければ、辺境ののんびりとした村で、僕もマリアンヌも穏やかに過ごせていたと思いますよ」
いずれは不思議な力を持つ少女の存在が、明るみになっただろう。だけど最初にわざわざ神託などしなければ…王も司教も長い間、心血を注いで聖女を探し出すことなどしなかったはずだ。
二人の執念がマリアンヌに与えた影響は小さくはない。実際、王宮で王や王子たちに迫られてからのマリアンヌは、ずっと力が不安定だった。
「…せっかく造ったんじゃもん。『ありがたや〜』くらい欲しいじゃろがぁ!」
そういえば、村人や王たちもマリアンヌに向かって『ありがたや〜』と拝んでいた気がする。
「あの『ありがたや〜』って、一体何なんです?」
僕が疑問を口にすると、女神が答えた。
「聖女の力の源は、妾の神力じゃ!聖女が崇拝されれば、妾の元に皆の祈りである『ありがたや〜』が還元されるんじゃ!『ありがたや〜』とは信仰心!信仰が高まれば、神力が高まる!!『ありがたや〜』を集めて何が悪いぃぃぃぃ!!」
「なるほど。つまり女神様の『ありがたや〜』という名の承認欲求を満たす為に神託をしたところ、結果的に世界が滅んだ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ…」
創造神様、全ての元凶は女神です。
数ある作品の中からお読みいただき、ありがとうございました。
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