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【本編完結】僕の彼女は聖女様  作者: 泉川葉月
第三章 僕の彼女は聖女様
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第二十二話

「あっさごはーん!あっさごっはーん!お城の朝食が楽しみ過ぎて早起きしちゃった」 


 マリアンヌが身支度を整えていると、扉をノックする音がした。昨日から身の回りを世話してくれている侍女が現れた。


「おはようございます聖女様。朝食前に申し訳ございませんが、殿下がお呼びです」

「えぇー…朝食後じゃダメですか?」


 マリアンヌは不服そうだ。


「はい。火急の用とのことでして…」

「ヴァンは?」

「ヴァン様は殿下の御前で、既にお待ちとの事です」

「ふーん…ヴァンも行くなら声かけてくれれば良かったのに。まいっか!じゃあ行きましょ」


 侍女に連れられて向かった先は宝物庫だった。部屋の入口は兵士が何人も行き来し、物々しい雰囲気だ。


「聖女マリアンヌ…お待ちしておりまし…あっ、ちょ、すみません!これ以上貴女様に近寄りませんので、力を抑えていただけませんか?」


 聖女の力で強制パントマイムになりかけた王子が、慌てた様子でマリアンヌに声を掛ける。


「はぁ…こちらこそ失礼しました。で、何のご用ですか?」


 マリアンヌは不機嫌を隠さない。


「ヴァンもここに来ていると聞いたんですが…彼はどこですか?」


 王子は声色を落として語った。


「実は昨日の夜半、この宝物庫に賊が入ったとの知らせを受けまして…抵抗された為、斬り伏せたとのことですが…」


 そう言って、王子が部屋の中が見える様に移動すると…血の気の失せた顔で、空を見つめる男が横たわっていた。その瞳は見開かれているものの、光を宿してはいない。


「ヴァン、ヴァン!一体、何が?!」


 王子が重々しく言葉を続けた。


「どうやら、この部屋の宝飾品に目が眩んだようでして…国宝のダイヤモンドを持ったまま離そうとしないので、やむなく警備の兵士が斬った、と…」


 男の手には、赤子の拳大サイズのダイヤモンドが握られていた。


「宝物庫に押し入るのは大罪です…いくら聖女様の大切な方とはいえ、このような形になってしまい…残念です…」


 マリアンヌが斬り捨てられた男に手を伸ばす。


「ヴァン…あぁヴァン!なんて酷い…こんな、こんな…」

「気を落とさないでください、聖女様。悪いのは貴女ではありません。お部屋に移動しましょう。朝食もまだでしたね。少し落ち着いたら、ゆっくり今後についての話を…」


 王子が立て続けに話すのを無視して、マリアンヌは絞り出すように呟いた。


「…ヴァンが泥棒なんて…そんなことするわけないわ」

「お言葉ですが聖女様!事実、この男はこうして国宝を——」


 王子がマリアンヌに言い返すが、マリアンヌはそれを遮る。


「だって!ヴァンはダイヤモンドなんて、どんな大きさの物でも魔法で簡単に作れるのよ?!こんな小さな(・・・・・・)ダイヤ、わざわざ盗む意味がないわ!!」


 それを耳にした王子が、目を見開き絶叫する。


「魔法でダイヤを創造するだと?!そんな芸当、王国いちの魔導士でも不可能だぞ!」


 驚愕のあまり、王子の口は止まらなくなっている。


「クソッ…どこまでも目障りな平民男め!そんなことができると知っていれば、生かしておいたものを!!あっ…」


 思わず口を滑らせた王子を、マリアンヌがギリッと睨みつける。


「…やっぱり貴方が、ヴァンを殺したのね…」


 マリアンヌの髪が、重力に逆らうように天に向かって靡く。身体が光を帯び、彼女の足元の床から亀裂が入る。


「ごっ、誤解です!私は聖女様のために…」


 王子の言葉は、マリアンヌの耳には届かない。


「煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い…」


 床の亀裂が王宮の壁に広がり、ガラガラと大きな音を立てた。既に何処かが崩れているような異音が響き渡り、粉塵が舞い上がる。


「殿下、ここは危険です!!お逃げください!」

「うわぁぁぁぁぁ!!」


 兵士や王子が慌てて逃げていく。部屋は既に原型を留めていない。空は雷鳴轟く大嵐となり、マリアンヌと残された男の体には、豪雨が叩き付けるように降り注ぐ。


「ヴァン…私のせいで…私が一緒に来てなんて言ったから…私がっ…貴方を巻き込んでしまったから…」


 マリアンヌは冷え切った男の体を抱きしめ、咆哮した。


「ああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」



 全てが一瞬で金色に染め上げられ——



 世界が一つ、滅んだ。



数ある作品の中からお読みいただき、ありがとうございました。


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