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【本編完結】僕の彼女は聖女様  作者: 泉川葉月
第一章 僕の彼女
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第二話

 この国には、古くから伝わる『聖女伝説』がある。

 それは、女神の加護を授かった女性が起こした奇跡の物語。加護を用いて、世に繁栄と平和をもたらした神秘と幸福の象徴。それが『聖女』。


 マリアンヌが生まれた日、国中の神官が女神のお告げを聞いたそうだ。



 …——万物に愛されし、女神の愛し子が誕生した。その成長を、大切に見守るように——…



「せ、聖女じゃっ!聖女様の誕生じゃ!!」

「教会で育てましょう!すぐに保護の手配を!」


 古の『聖女伝説』が現実となり、女神を信仰する教会は狂喜乱舞した。

 報告を受けた王と教会の重鎮である司教は、愛し子である聖女を保護すべく、国中を血眼になって探す事となった。



‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥



 マリアンヌが聖なる力に目覚めたのは、彼女が一歳の誕生日を迎えた日。

 ニコニコと笑うマリアンヌの笑顔に釣られるかのように、彼女の周りには花が咲き出した。


 ここは王都から遠く離れている上に、田舎過ぎて教会も神官もいない辺境の村。神のお告げがあった事など誰も知らず。


「不思議な事もあるもんだねぇ」

「マリアンヌは可愛いから、特別なんだよ」


 誰ひとり疑問に思わなかった。



 それから四年。僕とマリアンヌは五歳になった。

 不思議な力で植物を生やすマリアンヌの話がぼんやりと広まり、マリアンヌの噂を聞きつけた神官が村にやって来た。


「珍しい力を有する娘がいると聞いた!さっさと出てこい!」


 神官は嫌な感じの人だった。


「それは、私のことですか?」

「お前か?ほらさっさと早く来…うっ…うぎゃあああああああ!!!」


 神官が腰を抜かした。

 なぜなら、表面がゾワゾワと蠢く、真っ黒い塊が子供の声を発したのだから。



 万物(・・)から愛されるマリアンヌ。

 それは人に限ったことではない。



 彼女が草花を咲かせるようになってからしばらくすると、それらを目当てに、蜂や蝶などの小虫が集まるようになった。そしてその虫たちを捕食しようと集まって来た、肉食系の虫も集まるようになったのだけれど…マリアンヌは、そんな虫たちからも愛されるようになり——身体中がびっしりと、虫に覆われるようになった。


「虫まみれの悍ましいガキが、聖女様の訳あるか!!」


 神官は下半身から異臭をさせながら、一目散に逃げ帰って行った。


「田舎住まいのワシらにゃ、虫なんて見慣れたモンだがなぁ」

「都会の人にゃ、刺激が強かったのかも知れんなぁ」


 村の常識は都会の非常識だった。


「…私、嫌われちゃったのかな?」


 落ちこむマリアンヌの頭上に、小さな雲が湧き上がる。黒い色のその雲は雷を宿し、パチパチと音を出しながら光っている。


「そんなことないよ、マリアンヌ!マリアンヌは悪くない!!あの神官さん、ちょっと意地悪そうな人だったもん」


 僕は必死でマリアンヌを慰めた。

 マリアンヌと僕は、隣同士の家に住む幼馴染。僕たちは兄妹のように仲良く育った。彼女が傷つけられるのは、僕にとって家族を傷つけられたように悲しい事だった。


「ありがとう、ヴァン…ヴァンはいつも優しいね」

「僕はマリアンヌの笑った顔が好きだよ。だから…笑って?」


 僕はマリアンヌの笑顔が大好きだった。笑顔のマリアンヌは、大輪の花が綻んでいるみたいだったから。


「私もヴァンが好き!!」


 巨大なラフレシアが咲いた。

 ちょっと臭かった。


 笑顔は見えなかった。

 虫のせいで。



数ある作品の中からお読みいただき、ありがとうございました。


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