第十八話
『聖女マリアンヌ』を歓迎する晩餐会が始まった。マリアンヌが僕と一緒でないと晩餐会に参加しないとごねて更に天候が荒れたので、マリアンヌの付き添いだけだった僕も、急遽参加する形となった。
「ヴァンはジュストコートも似合うわね」
「衣装を借りて来てくれた侍女の方に感謝だよ」
絶対にお似合いです!と鼻息荒く正装一式を持って来てくれた侍女たちに、あれよあれよと身支度をされ、僕は農民には見えないかな?位の格好にはなっていると思う。
「聖女様の付き添いの方、隣国の王子様とかの間違いではないの?」
「本当に素敵…」
「見目といい立ち振る舞いといい…全く平民には見えませんわ」
ご令嬢方が僕をチラチラ見ながら何かを話している様子だけれど、口元を扇子で覆われているので、何を言ってるかはよく聞こえない。
「ヴァンってば器用で細かい所まで色々気が付くのに、自分の事になるとホント無頓着よね」
「そうかなぁ?いずれにせよイーグルに感謝だよ。間違って持って来ちゃったんじゃないかと思ってた本が役に立つだなんて」
「あの子、どこで情報収集してるのかしら?」
イーグルが持って来たドレス雑誌に混ざっていた『貴族のパーティマナー』と『初心者必見!上手に魅せるダンス講座』の本を読んでおいて本当に良かった。そんな事より気になるのは…
「殿下の誘いを断るとは不敬では?」
「あんなにあからさまに拒絶するなど…」
小声で届く非難の声。
マリアンヌは王子からのダンスの誘いを物理的に拒否してしまったため、主賓にも関わらず、来賓の貴族から遠巻きに見られている。
「ですが聖女様の地位は、王族より上なのではなくて?」
「王族が女神様の愛し子に嫌悪されるとは…」
「今の大荒れの天候も、殿下のせいなのでしょう?」
「この国は大丈夫なのか?」
ヒソヒソだった声が、次第に大きくなって来ている。晩餐会の主催である王と司教も顔色が悪い。
「マリアンヌのための夜会なのに、そんなに拒否したら悪いんじゃない?」
「うーん、止めたいんだけど…力を上手くコントロールできないのよね」
僕以外の人間がマリアンヌに近づこうとすると、見えない壁に押し戻される。声を掛けようとすれば、見えない何かに顔を覆われて、声を発する事が出来なくなってしまう様子だ。
「多分、深層心理が働いちゃってるのかも…」
ガラスに思い切り押し付けたような顔になった王子が、こちらをじっとり睨んで来る。
「殿下がマリアンヌを見てるよ」
「あああ…また押し戻しちゃった…」
「とうとう部屋の壁際まで行っちゃったけれど」
「深層心理よ」
ガラス越しに話すような、くぐもった声が微かに聞こえてきた。
「ブヒ、ブヒブヒブヒ…フゴォ!」
…怒っているのだけは分かる。
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