第十七話
急な雨で王子たちがびしょ濡れになってしまったので、僕たちは準備が整うまで王宮の一室で待機する事となった。
「この後、聖女様を歓迎する晩餐会がございますので、お召し物をお着替えになってお待ち下さい。こちらは、殿下が聖女様のために用意した——」
「ドレスはあるので大丈夫ですっ!」
マリアンヌの着替えの手伝いに現れた数人の侍女が、豪華なドレスやお飾りを差し出すけれど、マリアンヌがそれを遮るように話す。
「…恋愛小説から飛び出して来たようなルックスの王子様に一瞬でも心を許しちゃったのが間違いだったわ…ヴァンがあんな感じだからすっかり勘違いしちゃってたけどイケメンがみんなスパダリな訳ないんだった…自分がイケメンであることが分かってて…からのあの立ち振る舞い…しかも初対面でコレってありえない!現実でやられるとイケメンを加味したとしてもキモイ…ああすれば女の子がみんな自分に靡くと確信してる…そんなゼロ距離ナルシストの用意したドレスとかホント無理!何気に王子の瞳と同じ色のドレスなのもキモいし重いし圧が過ぎるっ!!」
何を言っているかよく聞き取れないけれど、マリアンヌが小声でブツブツと呟いている。
マリアンヌは初対面でいきなり手の甲にキスをされるという王子の振る舞いで、すっかりヘソを曲げてしまったようだ。平民の僕たちに、高貴な人の距離感は難しい。
「マリアンヌ、侍女様方は何も悪くないでしょ?」
「はぁい…八つ当たりしてゴメンナサイ」
「僕からも、マリアンヌが失礼いたしました」
僕が頭を下げると侍女たちが慌てて頭を下げ返して来た。
「「「いいえぇぇぇぇ!とんでもないですぅ!!」」」
侍女たちの顔が少し赤くなっている気がする。
「…ヴァンったら、相変わらず無自覚なんだから」
「ん?マリアンヌ何か言った?」
「なんでもないですぅー」
王宮近くに雷が落ちた。
「ドレスはお手持ちので…ということですが、どちらに…?お預かりしたのはこちらの布鞄おひとつですが…」
侍女が僕たちに尋ねる。
「その中に入ってるので取り出しますね」
僕は鞄に手を突っ込み、トルソーに掛けたドレス一式を引っ張り出した。
「その鞄、マジックバッグだったんですか?!」
侍女のひとりが驚いて声を上げる。
「高難易度のダンジョンの深層階でしか入手できないという」
「レア中のレア物…!!」
「たまたま手に入ったんですよ」
僕がマリアンヌに鞄を縫っていたら、出来上りが無限収納仕様の不思議鞄になっていた。
一度、盗まれてしまった事があったのだけれど、次の日にはマリアンヌの元に戻って来た。中身を確認すると、鞄を盗んだらしき人が、ロープでぐるぐる巻きになって入っていた。セキュリティも万全だ。
「しかもそのドレス!少し前に辺境伯の若奥様が身に付けていた物とよく似ているわ」
「あまりの美しさと斬新さに社交界で話題になったけれど、何処のメゾンの製作か一切不明という幻の…!」
「一体どちらで手に入れたのですか?!」
マリアンヌと僕は顔を見合わせた。
「これはイーグル…じゃなくて、友人が持って来た王都で流行りのドレス雑誌を参考に僕が趣味で縫ったんです。ちょっと凝りすぎちゃったかなぁ?」
「お姉ちゃんが結婚した時に、お祝いでヴァンが縫ってくれたドレスの色違いだよね」
マリアンヌのお姉さんが、辺境伯の若様との身分を超えた大恋愛の末に結婚すると決まった時に、久々に現れたイーグルが僕目掛けて落とした本。さすがにそのまま作る訳にいかないから、アレンジしてお姉さんのドレスを縫ってみた事があった。これが案外楽しくて…ちょっとこだわり過ぎてしまったのは否めない。
「え?趣味でこの出来栄え??」
「王都一のメゾンでもこれほど見事な物はないのに?」
侍女の面々が、唖然とした表情を浮かべた。
「イーグルが今回も作れって言ったのは、王宮のパーティに呼ばれるって知ってたからなのね」
「とりあえず、本屋さんにお金払いに行こうか…」
うちの鳥がすみません。
数ある作品の中からお読みいただき、ありがとうございました。
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