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【本編完結】僕の彼女は聖女様  作者: 泉川葉月
第三章 僕の彼女は聖女様
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第十六話

「ルビーの鱗にサファイアの瞳…」

「ででで伝説のレッドドラゴンではないですか?!」

「竜種の中でも特に惨忍で、最強と言われているレッドドラゴンを従えるとは…」


 気絶から復活した王と、司祭たちが話し込んでいる。王都の上空にドラゴンが突然現れた、と大騒ぎになっていたみたいだった。


「ドラさん、ありがとうー!また帰りもよろしくねー!!」


 地面に降り立った僕とマリアンヌがドラさんに手を振ると、ドラさんはひと声鳴き、空へ飛び立って行った。

 雄叫びを聞いた王が真っ青な顔で立っている。王の横にいる司祭は卒倒寸前で、両脇を騎士に支えられてやっと立っている様子だ。


「マリアンヌ、ドラさんで行くって知らせた?」

「あっ!書き忘れちゃったかも!!」



‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥



 動物たちが村に住むようになってからしばらくして、村にはドラゴンが現れるようになった。大人十人はその背に乗せられそうな体格のドラゴンは、すっかりマリアンヌに懐き、村人や動物たちと仲良く暮らしている。


「ドラさんが来てから、森から魔物が減ったなぁ」

「ドラさんが『ドラさんブレス』で焼き畑を手伝ってくれるから助かるよ」

「普通の焼き畑より、作物が大きく良く育つんだよなぁ」


 魔物駆除から農業サポートまでしてくれる気の良いレッドドラゴンは村人から、ドラゴンさん…略してドラさんと呼ばれすっかり馴染んでいる。


 村人を乗せて空のドライブもしてくれるサービス精神旺盛なドラさんのお陰で、王都への旅もひとっ飛びだった。馬で半月かかる道のりは、ものの数時間で到着した。



‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥



「マリアンヌは慌てん坊だなぁ」

「えへへ。ごめーん」


 マリアンヌがはにかむように笑うと、周囲に草花が生えた。


「おおっ!これは万物から愛される女神様のご加護!!」

「間違いなく聖女様ですぞ!遂に!!遂に見つけたぁぁぁ!!!」


 王と司教が小躍りしている。


「えっ?確かに私には女神様の加護はありますけど…私は聖女様みたいに、みんなのために戦えるような立派な人じゃないです。どちらかと言えば自己中心的(ジコチュー)だし…私利私欲の塊です。家族(主に姉)からもそう言われますし…」


 マリアンヌがそう否定する。私利私欲の塊の聖女…斬新な響きだ。


「女神様の加護持ちは、世界に一人しか現れないのじゃ!つまり加護を持っているという時点で、お主が当代の『聖女』!」

「ジコチューでも欲望丸出しでも、女神様の加護を持っている者を『聖女』と呼ぶのですぞぉぉぉ!!」


 王と司教が断言する。『聖女』の概念は割と大雑把だった。御伽話に出て来る世界を救った聖女様と、明るく元気なマリアンヌが同じ『聖女』と言われても…違和感がないと言えば嘘になる。


「聖女様ー!この国に悠久の繁栄をー!!」

「平和を授けてくだされー!!」


 王たちも欲望に真っ直ぐな人らしい。すごく分かりやすい。その一方で、マリアンヌは困惑した表情を浮かべていた。


「いきなり『聖女』とか繁栄とか平和とか…スケールの大きいことを言われても困るんですけど…ただの田舎の村娘ですし…」


 御伽話の『聖女』は、『勇者』と共に『魔王』を倒し、この世界に平和と繁栄を与えたと言う。

 今の世の中は、争いのない穏やかな時代。辺境の田舎の村で、のびのびと暮らして来たマリアンヌにとって、王と司教の願いは計り知れない衝撃だった。青空にはうっすらと雲がかかってきたけれど、誰も気づいていない様子だ。


「聖女様ぁ!我々に奇跡を!!」

「聖女様!私たちにお慈悲をぉぉ!!」

「さぁさぁさぁさぁ!」

「聖女様聖女様聖女様聖女ぁ!!」


 目をギラつかせた壮年男性に凄まれ、マリアンヌは完全に狼狽えている。


「ひぇぇぇぇぇぇ…」


 空はすっかり暗雲に覆われた。遠くの方から雷鳴が微かに響いて来る。


「マ、マリアンヌ、大丈——」

「これはこれは聖女様!ようこそ!!王宮においで下さいました!!」


 僕の声を遮って現れたのは、眩しい笑顔を浮かべた若い男だった。雨が降り出しそうだった空が少しだけ明るくなる。


「申し遅れました。私は僭越ながらこの国の王子を務めさせていただいております。どうぞお見知りおきを」


 マリアンヌの手を取り、その手の甲にキスをする王子。サラリとした光沢のある髪をかきあげる。品良く整った端正な顔は、まさに物語の登場人物ままの麗しい王子然とした表情。その柔らかな眼差しは、マリアンヌをしっとりと見つめている。


「おっ…王子様…」



 バケツをひっくり返したような土砂降りになった。

 


数ある作品の中からお読みいただき、ありがとうございました。


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