第十五話
辺境の村へと向かった王の書簡を持った小隊は、聖女に見える事なく帰還した。
「聖女様に会えなかったじゃとぉ?!」
「…村に近づくことすら出来なかったそうです」
「ならば、聖女様をこちらに呼んではいかがですか?」
そう答えたのは、美しいマントに身を包んだ王子だった。
「行商人なら村に立ち入れるのでしょう?彼らに聖女様宛の書簡を託せば良いのでは?」
「うむ!それが良かろう!!」
「早速手配を取りましょうぞ!!」
こうしてマリアンヌの元に、王からの書簡が届けられることになった。
書簡の準備の為に退席した王と司教を見送ると、王子は呟いた。
「いよいよ『聖女』が!『女神の加護』がこの手に入る!この時の為に、しつこい女共を処分して来て良かった。あとは『聖女』を落とすのみ…この世の全ては俺のものになる!ククク…」
王子が翻したマントの下から覗いたのは、鮮血に染まったジュストコートだった。
‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥
「王様から手紙が届いた?」
僕はマリアンヌとお揃いのマフラーを編む手を思わず止めた。
「そうなの。王宮に来る様に、だって」
田舎の辺境村でもさすがに見たことはある王家の紋章の封蝋を見て、僕とマリアンヌは顔を見合わせた。
「測定場の弁償の件かしら?」
マリアンヌが青ざめると、青空に雲がかかりパラパラと雨が降って来た。
見るからに高価な水晶玉の破壊。そして測定場は全壊。怪我人は出なかったけれど、マリアンヌの顔色が悪くなる気持ちは分かる。
「うーん…それだったらわざわざ王都に行く必要はないんじゃない?隣町でお金を払えば良いんだから。弁償しろとは書いてないんでしょ?」
僕がそう言うと、マリアンヌは安心した様子。空は澄み切った青空に戻った。
「そうよね!町の門とか外壁もちょっと壊しちゃったみたいだけど、大丈夫よね!」
「その話は初耳だけど、王様の呼び出しだから断る訳には行かないよね」
立派な封筒の手紙には、マリアンヌに王宮へ来るように、としか書いていなかった。
「ヴァンも来てくれるでしょ?」
「そうだね、道中が心配だから一緒に行くよ」
ここから王宮のある王都までは、馬車で半月程の距離。マリアンヌの騎士たる動物たちがいるとはいえ、何かと心配だ。
「じゃあ、行商のおじさんに王様へのお返事お願いするとして…私たちの出発は一ヶ月後位でいいかしら?」
「うん。手紙を受け取ったらすぐ来るように、とは書いてあるけど…王様も準備があるだろうからね」
僕たちが王の書簡を受け取ってから一ヶ月後、王都は王宮から少しでも離れようと逃げ惑う人々で大混乱していた。
「うわぁぁぁ!逃げろー!!」
「助けてー!!」
マリアンヌが首を傾げて言った。
「あれ?今日伺いますってお返事書いたんだけどなぁ。びっくりさせちゃった?」
「準備期間が半月じゃ、場所の確保できなかったかな?」
「お城の兵士さん達がどんどん集まって来ちゃってるみたい」
「困ったな…とりあえずあそこにいる、いかにも王様っぽい人に声かけてみたら?」
「そうね!あのキラキラのお洋服着てる、冠を被ったおじさんね」
マリアンヌは少し身を乗り出し、下に向かって大きく手を振った。
「すみませーん!今日お約束してる辺境村のマリアンヌですー!!このドラゴン、どこに着陸したら良いですかー?!」
ドラゴンの背に乗った僕らを見た王が、泡を吹いてひっくり返った。
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