第十四話
「ねぇ、ヴァン。ヴァンはどうしてリリーがアルラウネだって気が付いたの?」
村に帰る道すがら、私はヴァンに聞いてみた。冷静になって思い返してみると、ヴァンはリリーが引っ越して来てから、早い段階で彼女と距離を取っていたように思える。露骨に避けるような素振りはなかったけれど、村人たちがリリーを囲んで談笑している輪の中には入っていなかったはずだ。
するとヴァンが、気まずそうな顔をして言った。
「マリアンヌの鳥たちが、リリーに向かって…その…『落し物』をしてたでしょ?」
「…そうね」
鳥たちによる糞攻撃を受けていたリリー。あの時は可憐な美少女に申し訳ないと思っていたけど…今では結果オーライということにしたい!
「その…『落し物』を思いっきり顔に受けたリリーが…それをペロッと舐めるのを見てしまったんだよね。リリーは無意識にやってたみたいだったけれど…」
「…アルラウネには丁度良い肥料だったのね」
有機肥料万歳!!
「…流石にそんな異常行動を見たのなら、私にも教えて欲しかったわ…」
「いや…都会には色んな人がいるって聞いたから…そういう健康法とか…嗜好があるのかなって。だったら申し訳ないなと…」
「それは…確かに尊重するべき案件ね…」
デリケートな話題は慎重に。
村に戻ると、みんな眠りから覚めていた。大量の羽根に驚いてはいたけど、特に混乱している様子はない。むしろ、羽根の使い途について相談している。リリーが魔物だった事より、羽根で一儲け考える方が有意義らしい。細かいことは気にしない、大らかな村で良かった。
「あれ?ヴァンとマリアンヌが手ぇ繋いでるー?」
しっかり握った私たちの手に気づいた村人が、私たちを揶揄うように笑う。
「やっとくっついたかー」
「長かったわねぇ」
「今更感がすごいけど。良かったね、マリアンヌ」
「マリアンヌ、ヴァン、おめでとう」
「うん!ありがとう!!」
握りあった手を私は高く掲げた。ヴァンはちょっと照れくさそうに微笑んでいた。
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それからの私は、村のみんなの幸せを願って毎日女神様にお祈りをするようになった。
ヴァンは村のみんなが笑顔でいること好きだから、ヴァンのために村人の幸福を祈る。
みんなが知ってる御伽話——女神様の加護持つ女の子が、『勇者』と呼ばれる男の子と旅に出て『魔王』を倒すお話——その中で、女の子は『聖女』と呼ばれている。女神様の加護を持ってる私も、実は『聖女』なんじゃないかって思ったんだけど…
「恋人のためにしか祈らない『動機が不純な聖女』って何?」
お姉ちゃんからそう言われて、妙に納得してしまった。きっと『聖女』は別の人だ。
とは言え、祈りを重ねるうちに私の力はどんどん高まっていっているみたいだ。最近では、イーグルたちと少しだけ意思疎通ができるようになった。力が強くなった分、コントロールはまだまだで。嫌なことがあったりすると力が暴走しがちになるけれど…ヴァンがいるから、どんな事も頑張ってみせる!
「これからもずうっと、ヴァンと一緒だからね」
「ありがとうマリアンヌ。僕も同じ気持ちだよ」
ヴァンがくれる言葉は、素直に嬉しい。心から私に言葉を返してくれるのは分かってる。だけど、私の脳裏に焼き付く…あの時の消えない恐怖が、私の彼への思いをより強く、濃くさせている。
ヴァンがアルラウネの呪いで眠ってしまった時の——ヴァンの笑顔を、永遠に失ってしまったんじゃないかと思った時の絶望が。
だから私の方が、きっと——重い。
もう二度とヴァンを離さない。
ヴァンを傷つけたりさせない。
もしも離れ離れになってしまうことがあったら…
それが世界の果てでも、私は彼を取り返しに行く。
立ちはだかる相手が誰であっても、必ず。
次回よりヴァン視点の第三章に入ります。
数ある作品の中からお読みいただき、ありがとうございました。
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