第十三話
気がつくと私はひとり、夕焼けに染まる草むらに立ちすくんでいた。
「アルラウネを…浄化した?」
立派な屋敷は跡形も無く消えている。だけどアルラウネが居た所だけは、何かが燃え尽きたような漆黒の焦げ跡ができていた。
のぼる煙の前に立ち尽くしていると、大好きな人の声が聞こえて来た。
「マリアンヌー!!」
「ヴァン!!」
私はヴァンに駆け寄り、その胸に飛び込んだ。
「うわぁぁぁぁぁん!ヴァンー!!」
ヴァンが私をしっかり抱きしめてくれる。
「マリアンヌがアルラウネを倒してくれたんだね」
「ヒック…ヴァン、ごめんね…私、リリーが魔物だったなんて知らなくて…ヴァンがリリーを好きになっちゃったって思って…いつも自分のことばっかりで…」
泣き過ぎて支離滅裂な話をする私を、ヴァンは優しく微笑みながら包み込んでくれる。
「不安にさせてごめんね、マリアンヌ。リリーが魔物だっていう確信が無かったから、マリアンヌに話すのを躊躇っていたんだ。そのせいでかえって誤解をさせることになっちゃって…」
ヴァンが私に謝罪する。ヴァンは何も悪くないのに。ヴァンはこんな時でも私に優しい。
「ううん、いいの。それよりヴァン!ヴァンは一人でアルラウネを倒すつもりでいたの?」
「うん。戦闘系の魔法は使えないから、ちょっと無謀かなぁとも思ったんだけど…イーグルたちが協力してくれるみたいだったから」
大きめのフライパンを持ってヘラっと笑うヴァンの後から、イーグルにコンドル、ファルコン…私をいつも守ってくれる鳥たちが現れた。
「イーグル?ヴァンと一緒にいたの?!」
イーグルがバサバサと羽根を広げて、「そうだ」と返事をするかのような仕草をする。
「僕がリリーとの戦闘を始めたら、一緒に戦ってくれるはずだったんだけど、屋敷に着く前に眠らせられてしまって…」
イーグルが「しっかりしろ!」と言うかのようにヴァンを啄く。ヴァンはフライパンを火の魔法で温めて、熱々になったところで殴る気だったらしい。無謀が過ぎる。むしろ眠ってくれて良かった。
「私に内緒でみんな無茶しないで!」
「ごめんね、マリアンヌ。今度からはマリアンヌにちゃんと相談するよ…あっ!やっぱり『今度』はない方が良いかな?」
ヴァンが笑いながら言う。私はそんなヴァンを見て堪えきれなくなった。
「もうっ!ヴァン!心配させないで!あなたが好き!もう絶対に私から離れないで!!ヴァンが好き!ずっと一緒にいて!!好き!!うわぁぁぁぁん!!好ぎぃぃぃぃ!!!」
安心と不安が一緒に押し寄せて、ヴァンをきつく抱きしめる。何を口走っているのか、自分でもよく分からない。
「ありがとうマリアンヌ。僕もマリアンヌが大好きだよ」
ヴァンが私をぎゅっと抱きしめ返して——私の額に『チュッ』と温かくて柔らかいものが触れた。
こ、これは…噂に聞いた…デコチュー!!!
「大好きィィィィィィィィ!!!」
私が叫ぶと、空から大量の羽根が降って来た。
銀色に輝くその羽根は、ひらひらと舞うように次から次へと降って来る。夕焼けのオレンジ色と混ざり合い、幻想的な風景だ。私たちはしばらくその景色に見惚れていた。
「ほら、見てマリアンヌ。天使様も祝福してくれてるみたいだよ」
ヴァンがそう言いながら掴み取った羽根の一枚を私に差し出す。羽根に括りつけられたメッセージには、
『マリアンヌさん江 祝・両思い 恋の天使より』
達筆な筆文字で書かれていた。ありがとうございます!師匠!!
「あれ?あんな所に人が…知らない人がこっち見て…ん?背中から羽根?」
「どうしたの?ヴァン?」
「そこの雑木林の中に、ものすごい筋肉のお兄さんがサムズアップしながら笑顔で…えっ?消えた?」
ヴァンが不思議そうな顔をして何かを呟いている。起きたばかりで、まだ本調子ではないのかも知れない。
「…この羽根、いつ止むのかしら?」
降り積もる羽根で辺り一面、銀世界だ。
「…とりあえず、村のみんな全員分の羽毛布団が作れそうだね」
今年の冬は温かく過ごせそうだ。
数ある作品の中からお読みいただき、ありがとうございました。
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