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【本編完結】僕の彼女は聖女様  作者: 泉川葉月
第二章 私の彼氏
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第十三話

 気がつくと私はひとり、夕焼けに染まる草むらに立ちすくんでいた。


「アルラウネを…浄化した?」


 立派な屋敷は跡形も無く消えている。だけどアルラウネが居た所だけは、何かが燃え尽きたような漆黒の焦げ跡ができていた。


 のぼる煙の前に立ち尽くしていると、大好きな人の声が聞こえて来た。


「マリアンヌー!!」

「ヴァン!!」


 私はヴァンに駆け寄り、その胸に飛び込んだ。


「うわぁぁぁぁぁん!ヴァンー!!」


 ヴァンが私をしっかり抱きしめてくれる。


「マリアンヌがアルラウネを倒してくれたんだね」


「ヒック…ヴァン、ごめんね…私、リリーが魔物だったなんて知らなくて…ヴァンがリリーを好きになっちゃったって思って…いつも自分のことばっかりで…」


 泣き過ぎて支離滅裂な話をする私を、ヴァンは優しく微笑みながら包み込んでくれる。


「不安にさせてごめんね、マリアンヌ。リリーが魔物だっていう確信が無かったから、マリアンヌに話すのを躊躇っていたんだ。そのせいでかえって誤解をさせることになっちゃって…」


 ヴァンが私に謝罪する。ヴァンは何も悪くないのに。ヴァンはこんな時でも私に優しい。


「ううん、いいの。それよりヴァン!ヴァンは一人でアルラウネを倒すつもりでいたの?」

「うん。戦闘系の魔法は使えないから、ちょっと無謀かなぁとも思ったんだけど…イーグルたちが協力してくれるみたいだったから」


 大きめのフライパンを持ってヘラっと笑うヴァンの後から、イーグルにコンドル、ファルコン…私をいつも守ってくれる鳥たちが現れた。


「イーグル?ヴァンと一緒にいたの?!」


 イーグルがバサバサと羽根を広げて、「そうだ」と返事をするかのような仕草をする。


「僕がリリーとの戦闘を始めたら、一緒に戦ってくれるはずだったんだけど、屋敷に着く前に眠らせられてしまって…」


 イーグルが「しっかりしろ!」と言うかのようにヴァンを啄く。ヴァンはフライパンを火の魔法で温めて、熱々になったところで殴る気だったらしい。無謀が過ぎる。むしろ眠ってくれて良かった。


「私に内緒でみんな無茶しないで!」

「ごめんね、マリアンヌ。今度からはマリアンヌにちゃんと相談するよ…あっ!やっぱり『今度』はない方が良いかな?」


 ヴァンが笑いながら言う。私はそんなヴァンを見て堪えきれなくなった。


「もうっ!ヴァン!心配させないで!あなたが好き!もう絶対に私から離れないで!!ヴァンが好き!ずっと一緒にいて!!好き!!うわぁぁぁぁん!!好ぎぃぃぃぃ!!!」


 安心と不安が一緒に押し寄せて、ヴァンをきつく抱きしめる。何を口走っているのか、自分でもよく分からない。


「ありがとうマリアンヌ。僕もマリアンヌが大好きだよ」


 ヴァンが私をぎゅっと抱きしめ返して——私の額に『チュッ』と温かくて柔らかいものが触れた。

 こ、これは…噂に聞いた…デコチュー!!!



「大好きィィィィィィィィ!!!」



 私が叫ぶと、空から大量の羽根が降って来た。

 銀色に輝くその羽根は、ひらひらと舞うように次から次へと降って来る。夕焼けのオレンジ色と混ざり合い、幻想的な風景だ。私たちはしばらくその景色に見惚れていた。


「ほら、見てマリアンヌ。天使様も祝福してくれてるみたいだよ」


 ヴァンがそう言いながら掴み取った羽根の一枚を私に差し出す。羽根に括りつけられたメッセージには、


『マリアンヌさん江 祝・両思い 恋の天使より』


 達筆な筆文字で書かれていた。ありがとうございます!師匠!!


「あれ?あんな所に人が…知らない人がこっち見て…ん?背中から羽根?」

「どうしたの?ヴァン?」

「そこの雑木林の中に、ものすごい筋肉のお兄さんがサムズアップしながら笑顔で…えっ?消えた?」


 ヴァンが不思議そうな顔をして何かを呟いている。起きたばかりで、まだ本調子ではないのかも知れない。


「…この羽根、いつ止むのかしら?」


 降り積もる羽根で辺り一面、銀世界だ。


「…とりあえず、村のみんな全員分の羽毛布団が作れそうだね」


 今年の冬は温かく過ごせそうだ。



数ある作品の中からお読みいただき、ありがとうございました。


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