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【本編完結】僕の彼女は聖女様  作者: 泉川葉月
第二章 私の彼氏
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第十二話

 リリーがそう言うと、突風が吹き抜ける。思わず瞑った目を開けるとそこには——悍ましい化物がいた。 


 毒々しい色の肉厚の花弁を持つ巨大な花から、リリーの上半身が生えている。頭から腰まで、肌は緑色だ。足だった部分と髪の毛は悪臭を放つ粘液まみれの触手。目は昆虫のような複眼が顔の上半分を占め、耳まで裂けた口からは、だらりと長い赤黒い舌が垂れている。異形のアルラウネだった。


「ゲヒャヒャヒャヒャヒャ…この村の人間ハ単純デ良かったヨ。ちょっト心を開かせれバ、簡単にアタシの催眠の術にかかル。毎日寝ている時ニじわじわと生気を吸い取っテ、人間に悟られヌようにしていたガ…あノ小僧…ヴァンが勘付きやがッタ!!」


 リリーが複眼をぐるぐると動かしながら、話を続ける。


「ここニ乗り込むつもリだったみたいダガ、残念だネェ…ヒャヒャヒャ…村に眠りノ呪いをかけテ、皆おねんねサ」


 リリーが不協和音を奏でて笑う。

 

「鳥たちを呼べなかったのは、村にかかった呪いのせいだったのね…」


 村全体に入り込んだ呪いのせいで、私の不思議な力が打ち消されてしまっているみたいだ。


「村人ドもを少しずつ弱らせテ養分を吸い取るはずだったガ…小僧ノせいで計画変更せざるを得なかっタ!一体何なんダイ、あの小僧ハ?!」

「ヴァンは昔からそういう人なのよ。優しくて、カッコ良くて、よく気がついて…いつも私の前を歩いて守ってくれる…」


 ヴァンはいつもそうだった。ヴァンの使う魔法はみんなが使える『生活魔法』と呼ばれる類のもの。だけど器用なヴァンは、幾つもの魔法を上手に組み合わせて、色んな事ができる。嵐が来る前に屋根を補強したり、畑の収穫を楽にしたり、家畜の出産の手助けをしたり…攻撃魔法は使えないけれど、物理的な力ではない方法で、私や村のみんなを守ってくれる優しい魔法。まるでヴァンそのものだ。いつだって、誰かを思って…


「私が見当違いな嫉妬をしていた頃…ヴァンは私や村の人たちを守るために…」


 自分が情けなくて、涙が出そうになる。

 私は自分の力を、誰かのために使おうと思ったことがなかった。…大好きなヴァンにでさえ。


 ヴァンは私の隣にいるのが当たり前で。ヴァンが優しくしてくれるのは日常で。感謝や大好きの言葉はいつも伝えていたけど…助けたいとか、力になりたいなんて思ったことはなかった。


 アルラウネの呪いで目覚めないヴァンを見て、私は初めて気が付いた。ヴァンが私の隣で笑ってくれるのは、当たり前の事なんかじゃない。

 …こんな風に簡単に壊れてしまう物なんだ、と。


 リリーは頭の触手を不機嫌そうに揺らす。


「せっかク溜まって来た力を少々使っチまったガ…村中ヲ眠りに落とすことがでキタ。マリアンヌ、お前以外を除いてネ」


 触手をうねらせながら、リリーが私に近づく。


「あの小僧もだガ…お前には特に、妙な力を感じるネェ…アタシの術にかからなイ。まぁ良いサ…お前ハ直接喰ってやル!!」

「!!!」


 轟音と共に床から突き出た無数の触手の先端が、鋭利な刃の形に変化して、私に目掛けて襲いかかる。

 普段より元気のない植物たちが、私を守ろうとしてくれるけれど、この攻撃はきっと防げない。もう駄目だ…思わず身が竦む——


 ガキィン!!


 見えない壁が私の周りを覆い、刃を跳ね返した。


「これハ…『女神の加護』?!お前ハ一体…!!」


 私の体は温かい光を帯びている。


「この不思議な力…本当の力は、女神様の加護だったのね」


 動物たちや植物たち、みんなが私を助けてくれるのは、『万物から愛される』という女神様の加護のおかげだった。女神様の加護の本来の力は、強力な浄化の力。悪しき者を退け、正しき者の清らかな願いを叶えてくれるという伝説。この国で育った人間なら、誰もが知っている『聖女』にまつわる御伽話。

 私の不思議な力の源が、女神様の加護ならば——私は私にできることをするのみ。



 持ってる能力(ちから)は使えるモンは何でも使う!

 これ、恋する乙女の鉄則!!



「お願い、女神様!リリーに、アルラウネに浄化の光を!!」


 私は心から女神様に祈った。体の中から力が湧き出てくるのを感じる。


「ヴァンを!村のみんなを守る力を私に!!」


 そう叫ぶと、私の中から金色の光の粒子が溢れ出す。


「な、ナナナなんダその光ハ?!」


 アルラウネが苦しみ出す。


「やメロ、ヤめろ!身体が、かラダが焼ケる!!!」


 溢れ出る光の粒子を浴びたアルラウネの身体が少しずつ焼け焦げて行く。


「ギャァぁぁぁァァぁぁァ!!!」


 光が弾け、目の前が真っ白に染め上げられた。



数ある作品の中からお読みいただき、ありがとうございました。


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