第十話
重い足を引き摺りのろのろと家に帰ると、家の中が静まりかえっていた。いつもならキッチンで夕食の支度を始めているはずのママの姿が見えない。
「あれ?ママー?出掛けてるのかしら?」
部屋を探すと、ソファでうたた寝をしているママを見つけた。
「ママがお昼寝なんて珍しいわね…ママ、こんなところで寝てたら風邪引いちゃうわよ」
ママを揺さぶって起こそうとしたが、ママが覚める気配は一向にない。
「ママ!ねぇ、ママってば!!どうしよう?!具合が悪いのかも…」
私は家の中にいるはずのお姉ちゃんを呼びに行った。
「お姉ちゃん!大変なの!!ママが倒れ——」
お姉ちゃんの部屋へ行くと、お姉ちゃんも机に突っ伏している。
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!どうしたの?!」
私がどんなに騒いでも、身じろぎもせず眠り続けている。
「パパ!ママとお姉ちゃんが——」
両親の部屋に駆け込むと、パパも床に倒れていた。
「パパまで倒れてるなんて!!一体、何が起こっているの?!」
私は家を飛び出した。いつもなら活気付いている時間の村は静まりかえっていて、風が草木を揺らす音しか聞こえない。あちこちで倒れている村人は、怪我をしていたり、苦しんでいる様子はない。一様に規則正しい寝息を立てて、眠っているだけに見える。家畜たちも微かな鳴き声さえ上げることなく、静かに眠ったまま動かない。
「イーグル!ファルコン!!みんな、どこ?!」
呼べばいつでも飛んで来てくれる鳥たちも、今日はなぜか現れない。植物たちは生えて来るけれど、心なしかいつもより元気がない気がする。
「私の不思議パワーが弱くなってしまった?それとも何か別の物に邪魔されてる?」
理屈は分からないけれど、村を覆う雰囲気に違和感がある。強力な魔法が村全体にかけられてしまっているかのような——
「そうだ!ヴァン!ヴァンは無事?!」
私はヴァンを探した。
ヴァンは家にも畑にも、家畜小屋にもいなかった。
「ヴァン!ヴァン!!ヴァン!!!どこにいるの?!」
村中を探してようやく見つけたヴァンは、村外れの小道で仰向けに倒れていた。
「ヴァン、大丈夫?!」
ヴァンは穏やかな顔で寝息を立てている。
「ヴァン…どうしてこんな…」
私はヴァンの手を握りしめた。
「…マ…リア…ンヌ…」
すると苦悶の表情を浮かべて、ヴァンが絞り出すような声を発する。
「ヴァン、ヴァン!しっかりして!!」
私は必死に声を掛けた。
「リ…リー…」
「…こんなことになっても…ヴァンはリリーのことを…」
私は堪らなくなって、涙を溢した。後から後から溢れて来て止まらない。
「泣…かないで…マリ…アンヌ…」
「ヴァン?あなた、目が覚めたの?」
そう問いかけるが、ヴァンの目は開いていない。ただ苦しそうな表情で、呻くように言葉を紡ぐ。
「…リリー………つ……て…」
「!!!そんなっっ…」
私は懸命に涙を拭って——そして覚悟を決めた。
「ごめんね、ヴァン。私、あなたを絶対助けるから!!」
私はとある場所に向かって走った。
数ある作品の中からお読みいただき、ありがとうございました。
↓のブックマーク、評価ボタンを押していただけると大変励みになります。




