表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】僕の彼女は聖女様  作者: 泉川葉月
第一章 僕の彼女
1/26

第一話

 ねぇ、突然ですがそこのあなた。『聖女』って知ってますか?最近流行りの物語なんかでよく出て来るアレ、です。


 大魔法が使えたり、世界を救ったり。時には王子様と恋に落ちたり、或いは濡れ衣を着せられて追放されちゃったりする女性。それが『聖女』。


 実は僕、その『聖女』の彼氏なんです。えっ?じゃあ王子なんですかって?

 いやー残念。僕の生まれは農民。先祖代々続く、それはそれは由緒正しき平民です。


 そんな僕の彼女がどうして『聖女』なのかって?


 よかったら聞いてくれませんか?僕の話——



‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥



「おっはよーヴァン!今日も良い天気だね!」

「そうだねマリアンヌは(・・・・・・)良い天気だね」


 雨季に入った村は土砂降り。何日も続く雨で、村の中には幾つもの水溜りができ、歩くのにも一苦労だ。


 そんな大粒の雨の中。

 雨具を着込んでも全身ずぶ濡れの僕の前には、傘も差さずに佇む幼馴染のマリアンヌ。彼女の周りは雨粒ひとつ落ちておらず、髪一本すら濡れていない。むしろ柔らかな日の光が彼女の頭上から降り注ぎ、鮮やかな色の蝶が舞っている。


 僕の足元はぬかるんで靴は泥まみれだけれど、マリアンヌの足元は歩きやすそうな青々とした芝生が生い茂っている。こうして話している間にもマリアンヌの周囲には新しい花が咲き、珍しい草が生えて来ているのは、僕にとっては見慣れた光景だ。


「ヴァンは畑の見回り?」

「ううん、実はうちの牛が産気付きそうなんだ。ちょっと気になって」

「そうなの?私も行っていい?」

「いいよ。じゃあ一緒に行こうか」


 僕が手を差し出すと、マリアンヌが僕の手を繋ぐ。すると、僕の周りの雨も止んだ。湿っていた服や髪があっという間に乾き、ぽかぽかとした心地良い温度に身が包まれる。

 だけれど足元に生えてくる草はいつもの通り僕のことが嫌いらしく、食虫植物が変な粘液を飛ばして来るのは毎度の事。ちょっと痒い。



 牛舎では大きなお腹をした牛が、苦しそうに鳴き声をあげていた。もうすぐ産まれそうだ。


 僕は慌てて牛に駆け寄ると、マリアンヌにも声を掛ける。


「マリアンヌはそこで見てて!動かないで!お願いだから、何もしないでね(・・・・・・・)!!」

「わかったわ、ヴァン。お手伝いできない代わりに、お祈りをさせて!」

「ちょっ!あっ!待っ…」

「元気な子牛ちゃんが生まれますように……」


 僕が止める間も無くマリアンヌが祈りのポーズを取った途端、母牛の体がキラキラと光り輝き——


「ブモォォォォ!!」


 勇ましい鳴き声を上げる——ミノタウロスが生まれた。


「女神様の奇跡ね!」

「ソウダネ。アリガタイネ」



 マリアンヌは女神の愛し子。

 万物に愛されし聖女。


 彼女が歩けば、荒地に花が咲き。

 彼女が願えば、雨は止む。

 彼女が祈れば、神の奇跡が起き。



「前回のお馬さんの時は、ペガサスが生まれたわね」

「生まれた途端、何処かへ飛び立ったね…」

「あの時はごめんなさい!逃げてしまうと思わなくて…今回も普通の牛さんとはちょっと違う気が…」


 ピカーーン!

 ガラガラガラガラ!!

 ドカーーーーーーン!!


「うわー雷が落ちたぞー」

「煙が出てる!火を消せー!」


 村人たちの慌てふためく声が聞こえる。


「なっ、泣かないでマリアンヌ!今回はちょっと二足歩行できるだけの牛だから!手に斧を持ってるけど…きっと村の見回りとか出来るよ!!」



 彼女が悲しめば、天変地異が起きる。



数ある作品の中からお読みいただき、ありがとうございました。


↓のブックマーク、評価ボタンを押していただけると大変励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ