第九十九話 提案
鬼がここから去っていったくらいで、千尋は少しずつではあるが意識を取り戻した。
「い、祷...?あれ...どうなったの?俺、生きてんの?」
「うん!あの神様のお陰で何とか生きてるよ」
そして私は千尋が眠っている間に起こったことを分かる範囲で千尋に説明してあげた。
「・・・って感じで、私たち助かったっぽい!」
「そ、そうか。ありがとうございます、郷里さん」
「いいのいいの!ていうかみんなボロボロじゃん!誰も欠けてないみたいでむしろ良かったよ。みんなすぐに治してあげるからこっちにおいで。水式・癒しの泉」
そして、郷里さんは何やら術を発動させた。緑がかった水を吹き出す泉を出現させたのであった。
この泉は一体何なのだろう...まあでも怪しい物ではないと思い、私たち全員はその泉から噴き出す水を体中に浴びせた。
すると、水を体に浴びせるや否やさっき負った火傷が見る見るうちに洗い流されるように消えていくのであった。
それは一番重傷を負った千尋も同様であった。何年もずっと体に残るような大きな火傷痕も綺麗さっぱり元通りに回復するのであった。
「あのー、ありがとうございます!命をお救いしてくれただけでなく、手当までしてくれるだなんて...あなたはいったい何者なのでしょうか?」
「何者.........ね。いや別に感謝するほどの者じゃないさ。僕の名前は伏見郷里、これでも十二神の一柱なんだよ」
十二神…?私はそれを聞いていまいちピンとこなかった。恐らく偉い神様なのは分かったけど、その程度が分からなかったのである。仕方ないので、隣の円香に小声で聞いてみた。
「ねぇ、十二神ってなに?偉いの?」
すると、驚きを隠せない円香は私にすごいびっくりしていた。
「祷ってめっちゃ世間知らずだったの!?」
「むむむ…」
私は今までずっと世間知らずだと思っていた円香に言われて顔を膨らませた。
「十二神っていうのはね、父神様と母神様の護衛を司る十二柱の神様のことなんだよ!貴族なんかよりもよっぽど貴族って言われるレベルよ!!」
「なん...だって?そんなにお偉い神様が今目の前に…」
確かに他の神様とは違う神々しさを感じる…
郷里さんは母主様の圧死した亡骸を見て私たちに聞いていたのであった。
「で、君たちどうする?雇い主死んじゃったけど」
私たちはゴニョゴニョと話し合った。確かに、私たちこれから先どうなっちゃうんだろう…そしてみんなが話し合っているのを見て、このことを引き起こしてしまった自分が悪いと思った千尋がみんなに謝るのであった。
「ごめんみんな!後のこととかよく考えてなかったからさ...責任なら俺が取るよ!!」
「そんなこと言わないで!千尋さん!私たちはあなたのお陰で自由になれたんですよ!夢から覚まさせてくれてありがとうございます!」
千尋は私たちに謝るが、誰も彼を責めなかった。私たちをあの悪夢から解放してくれた彼を責める者は居ないのである。
それくらいみんなが今は亡き母主様に嫌気がさしていたということの表れなのかもしれない...そう考えるとなんだか私だけ、という訳でもないんだと再認識できたみたいで心がスッと軽くなった。
「分からないです…私たちは壁の外から来て、母主様に雇ってもらっていたので…もうここに住む場所はないので、元の実家にでも帰ります…」
そう言えば、泉奈さんの夢はこの城下町の中で好きな方を見つけることだったのに私のせいでこんな結末を迎えさせてしまって申し訳ない…せっかくそのために色々と耐えてきたと言っていたのに、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいであった...
私がそう落ち込んでいると、ポンッと泉奈さんは肩に手を置いて励ましてくれた。
「もうそんな話はいいんだよ。私たちは千尋に解放してもらった。私はもう田舎でいい男でも見つけることにするよ!」
そして、千尋も私に話しかけてくる。
「祷、お前が辛い思いをしていたのにすぐに駆け寄っていけなくてごめんな!お前、自分のことがどうとか言ってたけど、俺は今でもお前のこと大好きだ!だから、城の外に出て俺と一緒に過ごそう!でも、このことの責任を取るからいつになったらできるか分からないけど、それまで俺を愛していてくれるか?」
「うん!私も千尋のこと、大好きだよ!いつになってもいいから、一緒に一つ屋根の下で家庭を築きましょう!」
私と千尋はみんなが見ているが関係なしに抱き合っていると、郷里さんが私たちに向けて咳払いをしたのでとっさに我に戻った。
「ゴッホン!みなさんお取込み中のところすまないけど、住む場所ないんでしょ?だったらウチ来る?」
私たち一同はその言葉で目を丸くして、互いを確認しあった。
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