第九十二話 言いなり
「お前の体はもうお前だけの者じゃないのよ。それはお前と私の者っていう意味…誰が勝手に男を作っていいだなんて言った?まさかだけどお前、汚れてないよな?」
そう言って詰め寄って母主様は服の上から体を触ってきた。私はその手を振り解いた。
バシンッ!
「私はあなたの奴隷じゃない!私はあなたの者じゃないし、私は千尋の者だ!」
「誰だソイツ?お前のことを汚したクソ野郎のことか?まだ出会って少しだろう。どうせソイツもお前の体目的なんだよ。私みたいにね」
私は怒りとこいつが目的としていることの悍ましさに体がブルブルと震えてきた。
「違う!!千尋はそんな子じゃない!!会ってもない奴が勝手に言うなよ!!」
私が声を荒げると彼女はシィーと言って私の耳元まで顔を近づけ、何かを言うのであった。その時の顔はさっきまで怒りで歪んでいたが、何かを企んでいるような怖い顔に変わったのであった…
「ここ辞めさせてもいいんだよ?」
私はその言葉を聞いて怒りが消え、背中にゾワゾワと緊張が走った。
「えぇ…そ、それは…」
「だったら、はい接吻して。ここ辞めさせられちゃったら、城の外に追い出されちゃうね。もう千尋とか言う男と会えなくなっちゃうよー?」
「………」
絶句、私は断り切れずに母主様としてしまうことになった。そして、服の上からまた体を揉まれる。
猛烈な不快感と嫌悪感があった。でも、ここを追い出されたら千尋と会えなくなってしまう。それだけは勘弁であった…
「ふふふふふ。いい子ね。馬に乗る時は手綱を握るでしょ?私はね弱みを握るのが好きなのよ。そして、自分の意思で自由自在に動かすのよ」
「さあ、私の部屋までおいで。教え直してあげるから」
私は心が壊れそうになったが、その度に何度も千尋のことを思い出しては心を持ち直した。
そして、朝が近づいてやっと私は解放された。
私は彼女の部屋の中で号泣するしかなかった。そして、母主様は私に一つの手紙を渡した。
「読んでみなさい」
私は手をブルブルと震わせながら手紙を手に取って読んだ。そこに書いてあった内容とは…
私は怒りが込み上げて母主様の手を思い切り握りしめた。
ギュッーー!!
「ちょっとこれは一体何なんですか!!」
その手紙に書いてあった内容というのは、私と千尋が別れると言った内容の手紙であった。
「別れろって言いたいんですか!?じゃあ、私は一体何のために心を犠牲にして!!」
「ふふふ。あなたにあんな男はいらないのよ。あなたはもう私のものなんだからね。ここ辞めさせてもいいんだよ?一生会えないかもよ?」
私の心はまた揺さぶりにかけられた。そうだ。別れてしまっても、この壁の内側で暮らせられれば、いつかはまたここから自由になった時に巡り会えるかもしれない…でも、その頃には絶対に私のことなんて忘れてる…
こんなことされたなんて知ったら尚更私に興味なんてなくなっちゃう…私はどうしようかと思っていると、母主様はその手紙に手を取った。
「いいわよ別に。私がこの手紙、その泥棒猫のところまで持って行ってあげるから」
「ちょっと!それは…」
「ついでに唾でも吐きかけてこようかしら。後、祷の配偶者の私がお前の彼女にこんなことしてやりましたって言って絶望させてやろうかしら。ふふふ」
「お願いします!私に行かせてください!」
「ふふふ。いいわよ。私も鬼じゃないからね。まあ、これで彼とは最後になるから、せいぜい噛み締めなさい。勝手に男なんて作った罰よ」
「あー後それと、このことを部屋の奴らに言っちゃいけないからね。お前が人間だってこともバラしちゃうよ?」
「えっ!?な、なんでそれを…」
確かに私が隠し事をしていることはバレてはいるが、それが何であったのか…私が人間であるということは母主様にはバレていないはずなのに…
「ふふふ。図星みたいね。お前がああまでする隠し事ってなんなのかしらってやりながら考えてたんだけど、やっと気づいたわ。この味は女神の味じゃない…ていうことは、人間だってすぐに分かったわ」
私は顔面が真っ白になり、まるで自分自身の命を握りしめられたかのように震えてしまっていた。そして、母主様はさらに脅してきた。
「神界から追放させちゃってもいいんだぞ〜。そういえば人間界に戻る時には記憶ごと消えちゃうんだったっけな〜」
「ダメ…!それだけは絶対にダメ!」
もしそれが起こったら私は二度と千尋と会う機会がなくなってしまう…
「あの男と一生会えなくなっちゃうかもね〜。そうなりたくないんだったら…」
ポンポン
母主様は私の肩を軽く叩き、服を着替えて部屋を出て行った。私はその場で泣き崩れ、吐いた…
そして、いつもなら化粧やら何やらで少しでも美しくするが、今日は香水もかけずに髪もボサボサのまま彼との約束の場所まで向かった。
あの場所へ行くのがこんなに鬱になってしまったのはこれが最初で最後であった…
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