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異世界と現実の狭間で紡ぐ恋

作者: まっく

「また失敗か…」

 澄んだ青空の下、疲れ切った表情で呟くのは、若き"ドリームシェアラー"である主人公、早瀬(はやせ) (つばさ)だ。彼は現実世界で「ドリームシェアリング」という夢に介入する技術を持つ専門家として活躍していた。


 しかし、ある日のミッション中、原因不明のトラブルに巻き込まれ、気が付くと見知らぬ世界に立っていた。


「ここは…どこだ?」


 目の前に広がるのは、中世ヨーロッパを思わせる風景。

 石畳の街並み、おとぎ話に出てきそうな可愛らしい家々、そして、人々の活気あふれる声。

 翼は状況を飲み込むように辺りを見回した。


「あら、あなたは…」


 不意に話しかけられ、翼は振り向く。

 そこには金色の髪をなびかせた、美しい少女が立っていた。


「初めまして。私はこの国の第一王女、エレナ・フォン・ローゼンブルクよ」

「え?王女?」


 エレナは翼の反応を面白そうに眺めると、にっこりと微笑んだ。


「あなた、もしかして…この国のことを何も知らないのかしら?」


 翼は頷くと、自分が異世界からきたことを説明した。するとエレナは驚きの表情を浮かべる。


「まあ、夢渡りの能力者だったのね!この国ではそんなに珍しくないのだけれど…」


 エレナの言葉に、翼は自分の能力が通用することに安堵した。しかし同時に、この世界独自のルールがあることも予感したのだった。


 エレナに導かれ、王城へと向かう道中、翼は彼女から様々なことを教わった。

 この世界では、「ドリームシェアリング」は"夢渡り"と呼ばれ、それができる者は一定の地位を得られるのだという。さらに、夢の中で生み出されたものが現実に影響を及ぼす特殊なルールが存在していた。


「だから、夢渡りの力を持つあなたはきっと歓迎されるわ」


 エレナのそんな言葉に、翼は不安が和らぐのを感じた。


 王城に到着すると、早速、国王との謁見が行われた。


「ようこそ、異世界からの訪問者よ。わが国は夢渡りの力を持つ者を歓迎する」


 豪奢な玉座に腰かける国王は、厳かな口調で告げた。


「我が国では、夢渡りの力を悪用し、現実世界に影響を及ぼす者たちが問題となっておる。そなたの力を貸してほしい」

「か、かしこまりました」


 突然の依頼に戸惑いながらも、翼は引き受ける。エレナが安心したように微笑むのが見えた。


 王城での歓迎晩餐会。豪勢な料理が並ぶ中、翼はエレナと言葉を交わしていた。


「この国の夢渡りについて、もっと教えてほしい」

「ええ、喜んで」


 エレナは嬉しそうに頷くと、夢渡りの力を持つ者たちが集う「夢渡りの塔」の存在を明かした。


「あなたもきっと、すぐに一人前の夢渡りの力を手に入れられるわ」


 エレナの言葉に、翼は自信を取り戻していく。しかし、それは新たな問題の始まりに過ぎなかった。


 夢渡りの塔で修行を積む中、翼は自分と同じように現実世界から来たライバル「ルーカス」と出会う。

 彼もまた優秀な夢渡りの力を持っていたが、その目的は権力と名誉を手に入れることだった。


「君も私に協力してはどうだい?一緒に、この国を支配してみないか?」


 ルーカスに持ちかけられた翼は、即座に断る。


「私は、自分の力を人々のために使いたいんだ」


 二人の間に、修復不可能な亀裂が生まれたのだった。


 ある日、エレナが政略結婚の話を持ちかけられる。相手は隣国の王子。これにより、両国の緊張関係が和らぐというのだ。

 しかし、エレナは翼への思いを断ち切れずにいた。


「私は…あなたが好きなの」


 そう告白されて、翼も自分の気持ちに気づく。


「俺も…エレナが好きだ」


 二人は夢の中でのデートを重ねるようになる。現実では叶わない恋を、夢の中だけでも育もうとしていたのだ。

 だが、それを知ったルーカスが二人の仲を引き裂こうと画策し始める。


「ねえ、翼。夢の中で作り出したものは現実になるんでしょう?」


 ある日、エレナが翼に尋ねた。


「うん。だから、夢の力は慎重に使わないといけない」


「なら、夢の中で作り出した『指輪』も…」


 その言葉に、翼は息を呑む。もしかしたら、夢の中で結婚式を挙げることができるのかもしれない。

 そんな二人の考えを知ったルーカスは、とある人物に協力を求める。それは、夢渡りの力に不信感を抱く大臣、ジークだった。


「もし夢渡りの力で国が乱れるようなことがあれば、私はあなたの味方ですよ」


 ジークはルーカスにそう告げると、二人は手を結んだ。


 一方、エレナと翼の夢の中の結婚式は、まさに挙行されようとしていた。


 純白のドレスに身を包んだエレナは、幸せに満ちた笑顔を浮かべている。バージンロードを歩み、翼の元へ。

 指輪の交換をしたその瞬間、突如として夢が崩れ去った。


 目が覚めると、そこはルーカスたちに囚われた牢獄の中だった。


「夢の中とはいえ、王女と結婚するとは許されざる行為だ」


 ジークが冷たい目で告げる。


「私を解放して!エレナは?エレナはどこ?」


 翼が叫ぶが、ルーカスは不敵な笑みを浮かべるだけだ。

 エレナもまた、別の場所に幽閉されているという。

 絶望する翼。だが、どうしてもエレナを助けたい、彼女を幸せにしたいという思いが胸を焦がした。


 翼は牢獄の中で、自分の夢渡りの力を使おうとするが、なぜか上手くいかない。


「どうしたんだ…?力が使えない…」


 絶望感に苛まれる中、ふと壁に掛けられた絵画が目に留まった。よく見ると、その絵画は夢の世界を描いたものだったのだ。


「そうか…!夢の中なら、この牢獄も脱出できるかもしれない!」


 翼は集中し、絵画の中に意識を向ける。すると、不思議なことに絵画の中に吸い込まれるように意識が飛んでいくのを感じた。

 気がつくと、そこは絵画の中の世界。夢の世界だった。


「やった!夢渡りの力、使えたぞ!」


 喜ぶ翼。だが、この世界はルーカスたちに支配された歪んだ夢の世界だった。


 夢の世界で、翼は牢獄の鍵を見つける。そして現実世界に戻ると、その鍵を使って見事脱出に成功したのだ。


「さあ、次はエレナを助けに行くぞ!」


 夢渡りの力を使い、エレナの夢に入り込む翼。そこでエレナと出会い、彼女を現実世界に導き出すことを誓う。


「エレナ、必ず君を助け出す。一緒に、この歪んだ夢の世界を正そう」

「翼…!私も力になるわ。一緒に戦いましょう」


 二人は夢の世界で手を取り合い、固く誓い合った。


 こうして、翼とエレナは夢と現実の世界を駆け巡り、ルーカスたちの企みを阻止すべく立ち上がるのだった。

 夢渡りの力を最大限に活用し、二人は仲間たちとともに、この異世界の危機に立ち向かっていく。


 夢と現実の世界を股にかけた壮絶な戦いが繰り広げられた。翼とエレナ、そして仲間たちは、ルーカスとジークが率いる敵のドリームシェアラーたちと激突する。


「諦めろ!お前たちには夢を操る資格などない!」


 翼が叫ぶと、エレナも力強く頷く。


「私たちの夢は、私たちのものよ!」


 敵の放つ歪んだ夢の攻撃を、翼とエレナは巧みにかわしながら反撃していく。


「エレナ、今だ!」

「わかった!」


 二人は息を合わせ、ルーカスに立ち向かう。エレナが夢の中で生み出した強靭な鎧に身を包み、翼は夢の剣を振るう。


「はあああああ!」


 渾身の一撃が、ルーカスの夢を切り裂いた。


「ば、馬鹿な…!私の夢が、負けるはずが…」


 崩れ落ちるルーカス。そしてジークも、仲間たちとの戦いに敗れ、倒れていった。


「やった…!勝ったぞ、エレナ!」

「ええ、翼!私たちの夢、守れたわ!」


 歓喜に湧く二人。戦いの後、がれきの中から立ち上がり、抱き合う。


「翼、あなたが来てくれると信じていたわ…」

「ああ、エレナ。君を守る、それが俺の夢だ」


 瓦礫の中で見つめ合う二人。苦難を乗り越えて深まった絆は、もはや誰にも引き裂けないほどに強いものだった。


 戦いの後、二人は国王の前に呼ばれた。


「勇敢なるドリームシェアラーの若者たちよ。そなたたちの活躍のおかげで、我が国に平和が戻った」


 国王は感謝の言葉を述べる。そして、翼とエレナを見つめ、静かに告げるのだった。


「世界が違えど、真実の愛であれば、それを止めるものはない。そなたたちの絆を、わしは祝福しよう」


 国王の言葉に、エレナは涙を浮かべる。


「ありがとうございます、お父様…」


 そっと寄り添う翼。二人の手が、強く握り合われた。


「エレナ、ずっと君を幸せにする。夢の中でも、現実でも、君と共にあることを誓おう」

「翼…私もよ。あなたと共に、この先の人生を歩んでいきたい」


 こうして、異世界を舞台に試練と戦いを乗り越えた翼とエレナの物語は、幸せな結末を迎えたのだった。

 夢と現実を繋ぐ力を持つ二人は、これからも共に歩み続ける。

 輝ける未来を目指して、新たな夢への一歩を踏み出すのだ。

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