7 新しいおともだち
がたんごとん、というお決まりの音と共に、美空は電車に揺られていた。
「ふぁぁ…」とあくびをする美空に視線を向ける者は誰もいない。
というかこの車内に人はいない。
「さてと…もうちょいで着くかな〜?」
なんのためらいもなくひとりごとを言う美空の耳に、次は銀糸町、というアナウンスが聞こえてきた。
「はぁ…思ったより歩くんだな…」
ぜぇぜぇ、と息を荒げる恭平。その隣ではカレンが涼しい顔をして恭平へと話しかけた。
「おおげさだよぉ。10分くらいしか歩いてないじゃんかぁ。」煽るように言う。
「普段運動とかあんまりしないんだよ。それに、カレンが歩くのが速すぎんだよ」
「そんなに速度出したっけぇ?まぁいいじゃん、とりあえずはいろぉ〜!」
とてとて、と小走りで駆け出していくカレンの後ろを恭平はあいかわらずゆっくりと歩いてついていく。
カレンが向かった場所には、少し大きな看板で
イオンモール銀糸店、という看板がたてられていた。
「よぉ〜し、まずはどの店から行こうかぁ。ていうかぁ、だれかと来たの久しぶりだから楽しみだなぁ!」
しつこく思ってしまうが、どうしてあんなに元気なのだろうか。
恭平は息を少し落ち着かせ、カレンに問う。
「どこかおすすめとかない?あ、服の店で。」
「う〜ん。おすすめねぇ。どこかあったっけなぁ?」
数秒思考したカレンはいきなりパッと明るい表情を見せ、こう返した。
「それならぁ、カニクルっていうとこがおすすめだなぁ!実はそこのてんちょーさんとお友達なんだぁ。」
「なるほど。じゃあまずはそこに行ってみよう」
「おっけぇ〜!じゃあ、ついてきてぇ。」
カレンはそう言いながらもう歩きだしていた。
「あっ、ちょっ、歩くの速いんだって」
恭平はあわてて足を動かし、カレンのスピードに合わせるようについて行く。
「ところで、そのお友達の名前は?」
恭平がたずねる。
「え?なまえぇ?う〜ん。確かナグサちゃんっていうんだけどぉ…。あ、あそこのお店先に行っていいかなぁ?」
どうぞどうぞ、と恭平が言うとカレンは一目散に走り出していった。
まるで子供だな、カレンの背中を見ながらそう思った恭平はスマホをいじりはじめた。
なんの変哲もないホーム画面に突然、1通のメールが送られてきた。
もうちょいで誕生日だよね?何か欲しいものある?
そのメールに対して恭平は少し悩み、そしてこう返す。
しいて言えば耳かき棒?…と。
その返信相手は美空であった。
「…えぇ?え?えぇぇぇぇ?」
恭平からのメールを見た美空は、ついそんな素っ頓狂な声をあげてしまった。
周りの視線が美空に向く。その視線に美空は気づき、慌てて口をふさいだ。
「えぇ…耳かき棒かぁ…なんでぇぇぇ?」
やっぱりまだ理解できない。一体どんな意図があってこんなプレゼントを頼んで来たのだろう。
それとも意図なんてなくて、ただただ普通に欲しいだけなのだろうか。
美空は思考を巡らせた。そして、恭平に対しての返信を打ち、売ってる場所を探すために案内板を見に行こうとした。
その返事はただ1言、「いやなんで?」だった。
さて、と腰掛けていたベンチから立ち上がるとき、スマホがまた着信を知らせた。
返信早すぎだろ、と思いながらその返事を見る。
その返事は、シンプルながらもパンチのある1言だった。
「今度やって欲しいから…っと。」
恭平はそうつぶやきつつ、その文章をカレンへと送る。
ふぅ…と一息つきながら恭平は、
「やってくれんのかなぁ…」と、そんな願望を口にした。
「なんのはなしぃ〜?きになるなぁ〜?」
耳元からささやくような声が聞こえる。
慌てて恭平は振り返ると、そこにはいたずらっ子のような、無邪気ながらも邪気の強い笑顔のカレンが立っていた。
「別に。」恭平はぶっきらぼうに答える。
「えぇ〜?でも恭平君、やって欲しいとかなんとか1人でいってなかったぁ〜?」
「って、どこから聞いてたんだよ!?」
恭平は少し声を荒げた。
「なんかぁ、ニマニマしながらスマホを見てるところからぁ?」
全部見てるじゃねえか、と心の中でツッコミを入れる。
「だから、何もないって。」
「えぇ〜?そんなことないでしょぉ〜?まぁそう言うならしょーがないけどぉ。」
カレンは全く納得してなさそうな表情でこちらを覗き込んでいる。
「じゃあ、最初に言ってたお店にいこっかぁ。」
「らじゃ。」
そう言うと、カレンはまたアップテンポで歩き始めた。
「ちょ、だから速いって。」
多分このスピードに慣れるしかないんだろうな、そう思った。
「はいとぉちゃ〜く。いいお店でしょぉ?」
そうドヤ顔でカレンは言った。
確かにもの静かな雰囲気でいいな、と思う。
「ここは服以外でなんか売ってたりする?」
恭平が首をかしげる。
「ここはねぇ、帽子とかぁ、アクセサリーとかぁ。あ、あと最近耳かき棒も売り始めたんだってぇ。ま、そんなことよりはやく中にはいろぉ。」
耳かき棒はさっき頼んじゃってたな、そんなことを考えているとカレンは恭平の体を押して店の中に入ってしまった。
「いらっしゃいま…おっ、なんだぁ〜!カレンじゃーん!久しぶり〜!」
そう言いながらカレンを抱きしめる女の人がいた。
あれがカレンの言ってたナグサさんかな、なんて思っていると
「ところで…あれ、カレンの彼氏?彼氏なの?彼氏じゃないよね?ねぇ?」
と、先制パンチが飛び出してきた。
なるほどこれはまたヤバそうな人だぞ、と全身で感じてるその時、カレンが口を開いた。
「って思うぅ〜?」
「うっぜぇぇぇぇ!なんだこいつぅぅぅぅ!喧嘩売りに来たんかコラァ!」
窓ガラスが割れそうな勢いでナグサさんは怒鳴った。
「いや、違うって!そうじゃないって!」
あわてて恭平は間に割って入った。
「あぁ?違うって…」
「だから俺とカレンは別に付き合ってないの!」
恭平は少しムキになったように言った。
一瞬、ナグサさんの尖った目が丸くなったような気がした。
「ほんとか…?」ナグサさんはカレンに問いかける。
「いやぁ、別に付き合ってるとは言ってないじゃぁん?」カレンは相変わらずのゆったりとした口調で答える。
「そうか…そうかぁ〜!いやぁ、悪かった!早とちりしてしまって!君、名前はなんて言うんだ?」
いや2重人格か?そんなことを考えながら恭平は答える。
「佐野…恭平です。あなたの名前は?」
「あぁ。私か。私の名前はナグサ。そのままナグサって呼んでくれ。タメ口でいい。」
「わかった。よろしく、ナグサ。」
「いや距離の詰め方すご!こういうのは少し遠慮とかあるもんじゃないのか?」ナグサが驚いた表情を見せる。
「そうかな…。そうかも…。そうかな…?」
「そんなものなんじゃないのぉ?」
恭平とカレンが答える。
「そうなのか…?まぁいい、いろいろ買ってってくれ!自慢の商品を揃えてるからな!」
「え、どんなモノがあるの?」恭平はたずねる。
「そうだな…。服とか小物とかももちろんそうだが、最近はじめた耳かき棒がすごい売れ筋だぞ!この前取材来たし!」
「へぇ〜。恭平君もかえばぁ〜?耳かき棒。」
「一応知り合いに貰えるかもなんだけど…まぁいいや。見るだけ見てもいいか?」
「はいはーい!あ、試しかきできるからね!」
なんだそのボールペンみたいなの。
「ためしかきだってぇ。恭平君、やってあげようかぁ〜?」煽るようにカレンが言う。
「いや、遠慮しとく」
「えぇ〜。まぁいいじゃん〜。遠慮なんて若い子はしないほうがいいよぉ〜」
「いや、でも…」
「やっぱり付き合ってるだろぉ!!!!!その距離感、付き合ってるだろぉ!!!!」
ナグサが怒鳴る。
「いや、だから付き合ってないって…とりあえず移動しましょ」
恭平は少し呆れたような言い方をした。
「わ、わかったよ。じゃあこっちだからついてきて。」
そう言いながらナグサは歩き出した。
というか他のお客さんがいるのにあんな大声出して果たして大丈夫なのだろうか。
「はい、ここだよ!いろんなタイプのやつがあるから試してみてね!じゃ、私は接客に戻るとしようかな」
ナグサはそう言い、レジの方へと歩き出そうとした。
ふと恭平は隣を見る。
「ん?」
そこには見慣れた人物…ついさっきメールで会話を交わした人物がいた。
「どうしたんだ?」「どうしたのぉ?恭平君」
ナグサとカレンがたずねる。
そんな質問に返事する暇もなく、その人物はこちらに視線を向けた。
徐々に見えてくる顔は、やはりと言うべきか美空に似ている。というか美空であった。
「うぇ?へ…え?」美空は素っ頓狂な声を発する。
「いや…え?」恭平も変な声を出した。
「ん?知り合いか?」
そのナグサの質問に返事する脳のリソースは、今の恭平には無いようだった。
読んでいただきありがとうございます。
新生茶んです。
どのくらいでラストへ向かえばいいんかな。
わからんことが多い。
あと1話あたりにどんくらいの文字数書けばいいんやろ。
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最後まで読んでいただきありがとうございました。