1 山のとある場所にて
その夏は、いつもの夏と比べてすこし肌寒いような、そんな夏だった。
いつものように蝉のけたたましい鳴き声が響き、いつも通りのゆったりとした時が流れる中、佐野恭平は山奥へと歩みを進めていた。
理由と聞けばそれらしい理由は無い。
ただ歩いている、それだけだった。
この辺りは山に囲まれた小さな町であり、恭平は昔からよくこうやって山へと足を運んでいた。
ゲームセンターやカラオケボックスといった遊び場は当然なく、唯一ある娯楽が自転車で30分かかる本屋といった具合だ。
もちろん公園はあるが、恭平は友達が少ない。
そんな恭平が山へと足を運ぶのはむしろ自然なこととも言えた。
迷った。そう思った。
いつも歩く家から1番近い山道ではなく少し離れた所から山へ入ったからだろう。
幸いにも飲み水は持ってきている。
もう帰ろう、そう思った恭平はこの山から下ることを決意した。
恭平は水を一口、口へと運んでからまた歩みを進めた。
方向のあてはない。ただがむしゃらに下へ下へと進んでいった。
途中、何度か転びそうになっては歩みを止め、そしてまた歩き出し、そう繰り返しているうちにいつの間にか辺りは夕焼けの暖かな日差しに包まれていた。
そんな中、出口と思えるような光が一筋、恭平の目に止まった。
恭平はその方向へと走り出した。早くこの場所から出たい、その一心だった。
しかし、その歩みは期待に沿わない結果となった。
そこ一帯は円状に木々が無く、かわりにその真ん中に大きな木がたたずんでいた。
10メートルは優に超えているであろうその木の下に、何やら不思議な物が置いてあるように見えた。
「あれ、何なんだ?」
そう恭平はひとり言をつぶやきつつ、その物かげへと足を進めた。
そしてその大樹の下へとついた時、その物かげの正体がつかめた。
それは恭平にとってあまり見覚えがない、こんな場所にあるはずのないものであった。
そこには薄汚れたガシャガシャが1台、ひっそりと置かれていた。
「は?なんでこんなところに…?」
そうは言ったが、恭平はガシャを見るのは人生で2度目であった。
ずいぶんと昔に家族で旅行に行った温泉旅館のゲームコーナーで見たきりであったため、当然その形程度しか恭平は知らなかった。
しかし、このガシャは全体的に、特にカプセルの入っている部分が見えるガラスが汚れてしまっている。
本来ガシャにあるべきはずのラインナップの書かれた紙が見えなくなっており、なんとか解読できたのは
「100円」と書かれた料金表だけであった。
「100円かぁ…」
そう恭平はつぶやいた。高校生になってお小遣いに余裕が生まれたとはいえ、こんな得体のしれないものに当然お金は入れたくない、そういった思いが頭を駆け巡った。
「まあいっか、何か出たらラッキーってことで。」
ずいぶんとあっさりと決まった結論を横目に恭平は財布から100円玉を取り出し、その機体の中に入れた。錆びていてなかなかハンドルが回らないが恭平はそれも気にせず思いっきりハンドルを回した。
ガラガラガラ、という音と共にカプセルが1つ、その汚れた機体から出てきた。
「カプセルまで汚れてんのかよ、これ、いつのやつだよ」
そんな文句を誰にもなくつぶやきながら恭平はカプセルを力いっぱい開けようとした。
だがなかなか固く、すぐには開かなかった。
しばらく苦戦していると、ようやくパカ、といった独特の音とともにカプセルが開いた。
中はいったい何かな、という年柄にもないワクワクと共に中身を確認すると、それは肉っぽい柄が彫られている小さなおもちゃだった。
期待外れではあったが、そもそもしっかり中身が入っていることに驚いた。そして、僕はその玩具を纏っているビニール袋を引き裂き、中身の詳しい説明を見た。
「魔法少女シリーズ ギュータンジュット!プイキュア ギュータンピンクのキラキラ☆ミディアム変身手鏡…?あぁ、今はこんなのになったんだな、プイキュア。まぁあいつにあげればいいか。」
そう思いつつ、その手鏡をポケットへとしまい込んだ。まぁ欲しいものでは無かったが何か出ただけましだろう、そんな顔をしてその場を去ろうと恭平は足を動かした。
しかし、その背後からガサ、という変な物音が聞こえた。虫にしては大きく、クマにしては小さい、まるで人の足音のような音だと恭平は感じた。
恐る恐る後ろを振り返ると、そこには1人の長髪の少女がこちらを向いて立っていた。
それが僕らの、はじめての出会いだった。
こんにちは。新生茶んです。ここまで読んでくださりありがとうございます。
こうやって小説を書くのははじめてで、まだ拙い文章だとは思いますが、長い目で見てもらえたらなと思います。
コメント機能はあるかわかりませんが、この作品の批評、改善点などありましたらぜひご指摘ください。
次もがんばります