第一話『追放』
「俺のこのスキル絶対覚醒する奴じゃん!」
俺の名前はアトス。17歳だ。
『スキル』という神から1つ能力を与えられる世界で、『土下座』というスキルを俺は与えられた。
このスキルは文字道理『土下座』が出来るだけのスキルだ。
一応このスキルを持っているのは俺だけしか持っていないようだが、いかんせん本当に使えない自分でも認める無能スキルだ。
しかも、この世界では魔物という何故か人類を襲う存在が蔓延っている。当たり前だが、魔物に土下座をしても恰好の的になるだけだ。
今思ってもあの土下座は綺麗だったと思うんだけどな。
話が脱線した。
そして俺は現在、魔物共を狩る組織冒険者ギルドに所属している。通称冒険者だ。
何で冒険者になったかって?
だって何かカッコイイじゃん!俺も魔物を片手間で倒して、人々に称賛されたい!まあそれ以外にも。他の仕事をしたらなぜか数日でクビにされるのだ。
だが現在俺は正直雑魚だ。
他の冒険者は剣が上手くなるスキルや魔法が使えるようになるスキルがある中俺は土下座をするだけのスキルだ。
勿論それに魔物を倒す為の能力等な無く、ただ武器を力任せに叩き付ける事等しか出来ない。
正直よくパーティーに入れたなと思う。パーティーというのは簡単にいうと複数の冒険者の集まりだ。
最大五人までと定められており、その貴重な枠に俺を入れてくれたパーティーは聖人なんじゃないかと思う。戦闘能力皆無で正直申し訳ないと思っていた。だが、それもここまでだ!
何故かって?
それは、この本【雑魚スキルを理由に追放されたけど何か覚醒して最強スキルになったおかげで世界最強になりました】という本をさっきふらっと立ち寄った本屋で見つけたからだ!
この本は、何も意味の無いスキルのせいで最弱だった主人公が弱いのを理由に追放された後にそのスキルが覚醒して最強になるというないようだ。
そして俺のスキルは『土下座』という意味の無いスキル。これはもう絶対追放されたら最強になる奴じゃん!
という事で早速追放されて来ようと思う!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
パーティーメンバー全員で使っている借家に向かい、偶々一人で家に居た男に開口一番に言う。
「アラン!俺を追放してくれ!」
「は?」
彼の名前はアラン。遠くからでも分かる赤髪と、高身長が特徴だ。俺が所属している「剣の誓い」というパーティーのリーダーだ。スキルは『剣技』という剣を扱うのが上手くなるスキルを持っている。
俺と同じ年だが、戦闘能力の高さ、リーダーとしての素質を併せ持ちながら人格もまともという完璧と言っても過言ではない存在だ。
「いや、え...どういう事だ?」
「だーかーら俺をパーティーから追放して欲しいんだ。」
「いやそれが意味分からないんだよ!自分から追放してくれってどういうことだよ!」
「だって追放されたら俺のスキルは覚醒するはずなんだよ!」
「そんな事有る筈無いだろ...。」
「いーや絶対ある。この本の主人公の状態は俺と似ているしこのスキル『土下座』は絶対最強スキルになる!」
「根拠が本かよ!しかもそれ創作物じゃねーか!現実と本が区別付いてないのかよ!」
「まあそんな事どうでもいいから早く追放してよ!」
「はあ...仕方ない。」
「アトス、お前を追放する...これで満足か?」
「うん!じゃあそれじゃ!」
無事追放された!これから俺の最強スキルによるかつこいい冒険者ライフが始まるんだー!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「と、いう経緯でアトスを追放した。」
用事を終えて帰ってきたメンバーにさっきのやり取りを話す。
「うん、あいつの頭がお花畑な事が再認識出来たわ。」
呆れた顔で呟く彼女は、アリエス。珍しい青髪が特徴だ。年は同じく17歳で、『風魔法』という風属性の魔法を使えるようになるスキルを持っている。
「まあ、その事は一旦置いといて。アトスは大丈夫なのか?」
アトスの状態が不安だとばかりに言う彼は、ヴォルク。黒髪で、がっしりとした体型が特徴だ。年はこのパーティー最年長の22歳で、『盾技』という盾を使いこなすスキルを持っている。
「アトスさん大丈夫何でしょうか。」
ヴォルクと同じく不安がっている彼女は、シーナ。薄い金色の髪が特徴だ。年はこのパーティー最年少の16歳で、『回復魔法』という傷等を治す事が出来る魔法を使えるようになるスキルを持っている。
「まあ、あいつ謎に運はいいしもしかしたら本当にスキルが強くなって成功してんじゃないのか?」
ちょうどそんな事をアランが言い終えた時だった。
こんこんと家のドアを叩く音が聞こえた。
「ん?こんな時間に誰だ?」
もう、時間は午後5時を過ぎている。誰か来る予定も無い。
「もしかして、アトスさんでしょうか?」
「まあいい俺が出てくる。」
そう言いながらアランがドアを開く。
だが、そこには誰もいない。
いたずらか何かかとドアを閉めようとした時に足元に何か居ることに気付いた。
そこには...
「この度は、本当に申し訳ありませんでした!」
綺麗な土下座をしているアトスが居るのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「で、一体何があったんだ?」
土下座を続けるアトスをアランは取り敢えず家の中に入れと言い事情を聴きだす。
「実は...」
「ふんふんふん。なるほどダンジョンに入って死にかけるといいのか。」
スキルを覚醒させるためにはダンジョンに入って死にかければいいらしい。
ダンジョンというのは、ざっくり言うと空間が歪んだ場所で何故か魔物が自然発生する場所だ。
洞窟や森みたいな空間の時もあれば、明らかに人口物的な空間のダンジョンもある。
ダンジョンの中には宝箱が出現したりすることがあり、アイテムや装備が出てきたりする。特に、深い場所からは希少な物が出て来る事が多く、命をチップに奥へ進んで行く冒険者も多い。
他にも、ダンジョンによっては希少な素材になる魔物が出現したりと人類にたくさんのメリットをもたらしてきたのだ。
それに、何故か魔物はダンジョンから出てこないので入らない限り安全と良い事ずくめと言ってもいい。
話を戻そう、この街ノストロの付近にはダンジョンが一つある。
そこへ俺は、スキルが覚醒する未来に胸を躍らせながら向かうのだった。
やばいやばいやばいやばい。
最初ら辺は、数体の魔物とかだったので何とか処理出来ていた。
これじゃ覚醒何てしない、と思いダンジョンの奥へ進むという今思えば馬鹿な事をしてしまった。
結果、10体程の魔物に囲まれ絶体絶命のピンチ状態になっている。
何とか壁を背に襲ってきた魔物に剣を振りかぶり追い払っているが、倒すのは勿論、逃げる事も出来そうにない。
じゃあ、こんな状況まさしくスキルが覚醒して逆転の場面じゃないか!と思うかも知れないが、スキルが覚醒なんていう事は一向に起きない。
今思えばあんな創作上な事現実で起きる筈無いじゃないか。過去の俺の馬鹿!
だが、自分で自分を罵っても状況は変わる筈無く。息が絶え絶えの中何とか体を無理矢理動かしている状態だった。
腕が動かす度痛い、足ももう限界、でも動かさなければ死ぬ。
ああもう自分が嫌になる。『土下座』とかいう無能スキルが覚醒するかもとかいういつまでも現実を直視しない自分が、そんな自分を受け入れてくれたパーティーを訳の分からん理由で抜けた自分が。
そんな自己嫌悪に近い考え事をしていたからだろう、ダンジョンの凸凹に足を取られてつまずいてしまった。
戦っていた狼型の魔物がその隙を逃さず襲い掛かってくる。
(ああ、俺の人生もここまでか。いま思えば本当にアホだったな...。)
そう思い諦めて最後の時を待った。
「ファイアーボール!」
その声と共に、俺に今にも食いつこうとした魔物に火の塊が襲い掛かった。
「大丈夫ですか!」
「酷い怪我、今治しますね。ヒール!」
それを合図に剣士らしきし青年が俺の安否を確認してから魔物の殲滅に行き、回復魔法の使い手らしき少女が俺の傍に来て怪我を治してくれた。
他にも、大きな盾を持った男性とと槍を持った女性もやって来て、魔物はすぐに殲滅された。
「本当に、本当にありがとうございましたー!」
俺は何とか生きていた喜びで涙と鼻水を垂れ流しながら助けてくれた全員にお礼を言うのだった。
「間に合って本当に良かったです」
一通り俺が泣き終えた時を見計らって、剣士がゆっくりと俺に話しかけてくる。
「ロイが嫌な予感がするって言うからこっちに来たけどまさか当たるとはねー」
魔法使いの少女が剣士に続けて言う。
「命に別状は無くて本当に良かったです...。」
回復魔法使いの少女が俺が無事だったことにほっとする。
「それで?どうして一人でこんな所に居たんですか?」
剣士の青年が聞いてきたので、包み隠さず説明する。
「こんな事を初対面の方に言うのもあれですが...馬鹿ですか?」
馬鹿ですよ?と言いたくなるほどに今思えば自分が馬鹿だったと本当に思う。
「ま、まあ取り敢えず地上に戻りましょう。」
そんな回復魔法使いの子の提案で俺達は地上に戻るのだった。
「それで、アトスさんはどうするんですか?」
道中にロイが話しかけてきた。
どういう事だ?後は地上に戻るだけじゃないのか?
「いや、その言葉は悪いですが...もしまた一人で魔物とまともに戦ったら死にそうで...。」
「俺はパーティーに所...あっ...。」
そうじゃん、俺パーティー抜けちゃったじゃん。
もう終わりだ。俺一人じゃ冒険者として生きていけるわけないじゃないか!
流石にパーティーに再度入れて貰える訳が無い...。
はあ、いい加減に夢を見るのは...
「もう...終わりだ。」
「急にどうしたんですか?」
俺がこぼした言葉にロイが反応する。
俺は、ロイにもう俺が冒険者として生きていくのは難しそうである事を言う。
「うーん...どうでしょうか?」
ロイが何ともし難い顔をする。
どうしたんだ?もう俺に冒険者生活は出来ないぞ
「アトスさんをずっとパーティーに入れてくれていた位なんだし、案外謝れば大丈夫なんじゃないですか?」
「え?」
いやいやそんな無理...いや、まてよ。そもそも俺って居ない方がいいレベルの活躍しかしていなかった...なのに、パーティーを辞めさせられる事はなかった位みんな優しい。
それに、アランは呆れた感じで俺を追放したし、案外謝れば許してくれるんじゃないか!
「そうだな!よし、もう一度パーティーに入れて貰えるよう頼みに行くよ!」
「そ...そうですか頑張って下さい。」
その後俺は、道中にロイ達に後日お礼を言うためにパーティーの名前と所在だけを聞いて、俺はダンジョンを後にしたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ざっとこんな感じかな。」
「...そのパーティーに感謝だな。後日全員でお礼に行こう。」
「本当に謎に運だけはいいわね。」
「まあ、アトスが無事で良かった。」
「無事で何よりです。」
無事で良かったという言葉をアトスに投げかける。
だが、まだ本題が残っている。
そう、アトスは一応パーティーを抜けては居るのだ。
またパーティーに入れて貰えるかはパーティーメンバー次第だ。
「お願いします!俺を再びこのパーティーに入れて下さい!」
また土下座の姿勢になりながら決死の覚悟でパーティーメンバーに頼み込む。
「俺は別にいいぞ。みんなはどうだ?」
「まあ、別にいいんじゃない?このパーティーこの四人で戦うので今の所行けるし。」
「俺もいいぞ。アトスが居ないとこのパーティーの雰囲気が暗くなりそうだ。」
「私も、アトスさんが居た方が楽しいです。」
だが、そんなアトスの決死の覚悟に反してあっさりとパーティーに入れた。
「え?みんな...本当に良いの?」
アトスが全員に本当に良いのかと問う。
「ああ、これからもよろしくな!」
「まあ、これからもよろしくね。」
「これからもよろしく頼むぜ!」
「これからもよろしくお願いします!」
「うう...みんな...ありがとう。」
再び顔を涙でぐちゃぐちゃにしながらも何度も何度もありがとうとアトスは繰り返した。
その後は全員でメンバー加入祝いと称して豪勢な食事を取った。
なお、事の発端となった本は古本屋に後日売り払われるのであった。