王子
「くだらねえなぁ・・・・」
つい先日、晴れ舞台として使われた謁見の間で今はこれかと溜息が漏れる。
そもそもが反省しろという周囲の視線が煩わしい。
たかだかゴミを処理した程度で何故、俺はこんな目にあわないといけないんだ。
糾弾するべく集まられた面々を見てから尚更そう思う。
そもそもがお前等のせいで俺が出張るはめになってんだろうってな。
「はぁ・・・・王子・・・・それでも貴方はこの国の勇者なのですか? そんな事では他国に示しが付きませんぞ。そもそも国宝の使用許可じたいが異例なのです。本来であればそのような装備を持ち出す事など国家間の緊張を招く恐れも・・・・」
きれいごとの御託をつらつらと述べるのは俺の嫌いな文官連中ときたもんだ。
俺が言うのもなんだが王は俺以上の馬鹿野郎。建国の始祖だかなんだか知らんが最初の王様が力で支配した国だし仕方ねえ。つまり始祖からきずかれた力馬鹿の国がこの国だってのに、文官どもは俺に行儀よくしろと言いやがる。
俺だって多少は分かってるさ。だが、そんなつまらん事よりも重要なことがあるだろう。
そもそも俺の場合馬鹿は馬鹿なりに自分が馬鹿だと認識してるし、その分俺の方がまだましだ。
俺に文句を言う前に馬鹿なのに分かった振舞いをして政治のまねごとを始めた親父殿に言ってやれってんだ。
「・・・・だからそれがくだらないって言ってんだ! 俺は何だ? 武力だろ? そんな俺が頭を使うのが間違えてんだよ。そんな事に能力をさくぐらいなら力を求めた方がましだろうが? そもそも考えて止めるのがお前等の仕事であって武力である俺が必要になる時点で終わりだろ。手前らの不甲斐なさを尻ぬぐいできないなら偉そうに語るんじゃねえよ」
『・・・・・・・・』
反論ができなければ途端に口を閉じるのも気に入らねえが、ぐだぐだと文句を言われるよりはだいぶんとまし。腹の探り合いなんてものをするつもりもねえ。他の奴等からどんな見え方だとか知った事もねえし、落としどころとして親父に対して頭を下げてやる。
「・・・・これでいいだろ」
「・・・・はぁ」
対面的に頭だけ下げた俺に思うところもあるんだろうが、そんな事は知るか。
勝手な思惑で行けと言われたメンツを見て思ったのは漫遊ってやつだ。
どう見ても俺の優秀な血が欲しいであろう面々。優秀な後継を得るべく差し出された受け皿。
あいつら個々をとっても上等なのだろうが女ばかりというのが見え透いてる。
そもそもこの国で一番強力なクラスとスキルを持つ者は王族であり、上位貴族もそれに続く。
建国からして力で支配した国であり、戦う能力がある者達が上位連中に名を連ねているのは当然といえば当然。結果、強者の力で無理やり結束したのが今のこの国で、強い後継者を作るのが義務な訳で、女だらけのパーティーってのはつまりそういう事だ。
「・・・・思惑が透けて見えすぎなんだよ」
優秀な素質を持つ俺の子は優秀だろうという気持ちのわるい考え。
まぁ、王家の家系に優秀なクラスとスキルが発現するのは本当で、それと同時に無駄な奴は裏でなかった者として切り捨てられているんだが・・・・・。
ただまあ、俺は当たりだったんでそこらを知る事もなかったが、相当に悲惨なものらしいが。
「・・・・本当にくだらねえ」
「何という態度ですか!」
「此処は無駄に人材を浪費した事に対する謝罪の場ですぞ!」
「これだから・・・・」
揚げ足取りに必死な奴等。少しでも動けばこの始末じゃやってられん。
流石にそろそろ切り上げるべきかと、切り札をきってやる。
「・・・・・知ってるんだぜ。お前等揃いも揃ってエルフ女に手を出したってよ」
「何を!?」
「その様な絵空事! 逃れる為とはいえ許しませんぞ!」
「恥を知りなさい!」
などと分かりやすい反応に俺も笑みがこぼれる。
痛いところをつかれた人間ほど声を荒げるもので。軽く小耳に挟んだ程度で、精々数人関与しているだろうという噂程度。しかしながら予想に反して釣れた魚は多すぎたようで・・・・・。
「おいおい、そう慌てんなよ。ってか二人か三人ぐらいかと思ったってのにお前等全員かよ」
弾劾の場として選ばれた謁見の前に居並ぶ王族ならびに上位貴族連中。
そのどれもが渋い顔をするのを見てまだ俺の方がましだと我ながら思う。
まぁ、人間という種族的特徴を考えると仕方ねえ。
俺等が亜人と蔑んで呼称する奴等の方が肉体的には優秀だ。
あいつらは俺達よりも成長限界が遅い。肉体の強度、頭のできも俺等とは違う。
当然、そのままじゃ俺等は勝てねえが、俺等には専用のクラスとスキルってもんがある。
だが、人ってもんは考える・・・・・。
その両方があればどうなんだ? 強い素体に強いクラスとスキル。
自ずと導き出されるのは配合実験って訳だ。
「そもそもお前等はお前等で俺の知らないところで俺の知らない優秀な後継者を作ろうとしてたって事だろ? 逆にお前等が俺に対して謝罪をする場面なんじゃねえか?」
「・・・・そ、それは」
「し、しかしながら見て分かりますように結果は伴わなかった訳で・・・・」
「件のエルフも既に亡くなっておりますし・・・・」
「そ、その通り! やはり人は汚らしい亜人などに手を出すなという神の教えなのです」
なんてことを王族のエルフを殺した奴等がのたまう。
そもそもお前等のせいだろうと言いたくはなるが、悲しいかなこんな奴等でもこの国の中枢であり、俺に戦ってこいと命令を下せるだけの権利をもってやがる。
何とも頭の痛い連中だが、此処で逆らうよりも面従腹背。
多少なりとも頭を使えば甘い汁が吸えるのもこいつらの助力あっての事なので、従わざる負えない。
こいつらも俺に釘を刺そうとしたんだろうが、俺の持ち札の方が強かったのか、しどろもどろ。
このまま俺が出て言ってもせいぜい陰口をたたかれるぐらいだろうと判断して、俺はその場で踵をかえして謁見の間に背を向ける。
「・・・・・精々楽しませてもらうとするか」
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