仲間
「記憶に靄がかかったみたいな感覚はあるだろうけど、これも君を守る為だと理解してくれると助かる」
高位エルフであったのであれば教育はそれ相応なのだろう。
自らの現状から推察して何があったのかを理解し、首を縦に振る。
「目覚めた時から衣服を身に着けてませんでしたから何となくは分かっております」
「それは助かる。まぁ、酷い事があったんだろうけど死んだ後は関係ないし、そもそも今はエルフじゃないからね君」
「・・・・・耳と視界にちらつくこれで何となくは分かっていましたが、そうですか」
素材に使った割合として人間が多いのだからさもありなん。
エルフ要素なんてものはほぼほぼ使い物にならなかったので、色々と合成した結果が今の姿。
エルフ特有のとがった耳は人のそれであり、薄い体躯は男好きのする色香が多分に含まれており、青少年であれば歪んでしまうのではと思える程。
サキュバスなんてものがこの世界に居るのか知らないが、居たらそんな風に呼ばれるのだろうなと思える様な夜の蝶への変貌に対してどう謝っておくべきかと考えていたが・・・。
「大きい事は良い事です」
「・・・・ん?」
聞き間違えたのか知らないが、俺の耳には想像したのとは違う言葉が飛び込んできた。
「・・・・満足してらっしゃる?」
「大変に」
「・・・そうですか」
本人はご満悦であったのか、ぼろ布にくるまった自らの肉体を触っては笑みを浮かべて気味が悪い。如何やらエルフの凹凸の無さに退屈とでも呼べるような感情を抱いていたのか反応は新鮮そのもの。まぁ、どこもかしこも同じ様な見た目でみんながみんな長命であれば飽きもするかと納得はしてしまう。
「それに、この姿であれば国とも縁が切れるでしょうから」
記憶に靄がかかっているとはいえ軽度な場所までは思い出せてしまうもの。
自らが死んだ原因までの過程に母国の現状が関係しているのだろうとその言葉だけで知れた。
「・・・・・休戦からの人質交換?」
身分を考えれば直近の政治事情を考えればそこらが妥当。
大方、次代の後継を考えての結果かもしくはただただ欲に目がくらんだだけか・・・・。
だが、結果として彼女は亡くなっている訳で、そうした計画なのか事件なのかは急にわき出した勇者一行につながるのかと想像が出来てしまった。
「あぁ・・・・なるほど・・・・・貴女が亡くなったことが今回の件に繋がるのか・・・そしてそれを有耶無耶にしたいが為に王は無理やり送り出したんだな」
自作自演と言うかやけっぱちと言うべきか。
己の犯罪行為を免れる為に国相手に戦争を再開するなど国主としては最低最悪だが、この国の現状を見れば簡単に納得できてしまう。
国力の要である食料、軍事の二柱を全てクラスとスキルに頼り切っており、それ以外の者は効率が悪いと切り捨てた結果、双方に人が足りていない。
馬鹿げた話なのだが、スキルとクラスが合っていなければ何もできない者だと判断してしまっている為、何にもなれない者達がうまれ廃棄されている馬鹿げた国家。
普通に考えれば数こそが重要なのだが、そんな事を許せば強いクラスとスキルによって支えられた王家ならびに貴族連中の権威が失われてしまう。
当然、彼等にそんな決断が下せる訳も無く、この国は根底から腐り落ちようとしている訳だ。
「・・・・・それで強い種と強い能力をかけ合わせようとでも思ったのか。馬鹿げてるな」
「多分そう」
俺の悪い点だ。独自解釈で独り言を呟いてしまった結果、知らなくてもいい事を彼女に強制してしまった。不味い事をしたなと我ながら酷い顔をしているだろう表情を無理やり手で覆い隠し、頭を下げ非礼を詫びる。
「申し訳ない。その・・・俺にも余裕がなかった」
「・・・・・いえ、何処か別の人という感じですので謝罪は不要ですよ」
強がりでは無くそう呟く彼女の姿にこれ以上は失礼かと顔をあげると俺はこれからの計画を彼女に打ち明けた。
「何となくお互いの素性も知れたと思う。俺はまぁ、変わった力をもっていて、知られると面倒なんでそれを防ぐ手立てと戦力として貴女を蘇らせた。何とも身勝手な話だけどここまでは良いかな?」
そこまで語ると彼女も首を縦に振る。
「続けるが、貴女の体を作る際に色々と機能をつけさせてもらった。そもそも種族もエルフからよくわからん新人類的な枠組みになってるし、能力も一般的な人と比べると異常。保持しているスキルの量もクラスも多分この世界では初だと思うし、鑑定能力を持っている奴等が君を見たとしても脅威だとしか表示されないと思うんだよね」
「・・・・・・・」
「俺としては一々門番に止められたり、脅威対象として排除されたり、日々怯えながら過ごすなんてのはまっぴらだからこそ君の助けが必要なのさ」
「・・・・具体的には?」
「鑑定を使ってお互いを認識しましょうって感じかな」
「・・・・・・?」
何故、今更そんなスキルの話が出てくるのかと彼女も思ったのか表情は訝しげ。
さながらクーリングオフ手前の顧客の様だが、必要なのは適切な説明と解決法。
俺としてもこのまま押し返されては交渉札が無いので何としても押し切ろうと内心冷や汗を垂らしつつ、言葉を繋ぐ。
「長く生きてるであろう君であるからこそ自然に捉えていたいんだろうが、物の相場やら効能やらが分かるのがそもそもおかしいだろ?」
「・・・・でもあれはそういうもの」
当然、彼女の返答は予想通り。この世界ではこうした認識が普通であり、生まれた頃から存在するのだから疑う事こそ間違い。水はそこにあるもので空気も同じく。太陽は暖かく雪は冷たい。鑑定という能力は物の詳細を知る事が可能であり、能力の向上によって知る事のできる情報量も増えていく。これがこの世界の常識。
「こっちの考えだとスキルやクラスも神が与えたものなのだから神が管理していると思ってるんだろうが、あれは別枠さ。簡単に言うと集団的無意識による情報網であり、詳細情報などが分かってくるってのは単に脳の処理能力向上みたいな話だ。つまり人は見聞きした情報を上げる為の端末みたいなもんで、能力がある奴はそこに繋がる権利を持ってるって事だな」
などと語って努めてにこやかに笑みを貼り付ける。
言ってはみたが胡散臭過ぎる。過去の俺なら話すだけ無駄だと席を立つが、これが本当の事だから仕方ない。だがしかしこれを信じるかどうかは彼女次第。
内心、心臓が跳ね上がりそうだが、そこは安心強化済み。
心臓麻痺だけで死ぬことはないと安心しつつも場の空気に頬をかく。
「・・・・理解した。曲解した理解を私達双方で集団無意識とやらに書き込むのか」
「おぉ・・・・」
素晴らしい洞察力。我ながら良い選択をしたものだと褒めたくはなるが、敵に回られると厄介ではある。素材が潤沢であった事と肉体的に優秀であったエルフという素体をベースにした為か、肉体のスペックは当社比1,5倍程。素晴らしい! けど敵になると困るんだよね~あぁ後悔。
流石に俺の人生もここまでかと神に祈ろうとしたのだが・・・・。
「素晴らしい見解だ。これから連れ添うのであれば問題は無いな。宜しく頼む」
「・・・・よ、よろしく」
そんなこんなで俺はこうして交渉の末、逃亡手段と戦力を手に入れたという訳で。
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