勇者の独白
「・・・・気持ちわりぃ・・・・・何でこんなに気分が悪いんだよ・・・・人を切っただけだろうが・・・・・たかだか人を切っただけだってのに・・・・・何でだよ」
手に残る人を殺した感触。聖剣の切れ味はまさに奇跡の剣と呼ぶに相応しく、まるでチーズでも切ったかの様に暗殺者の連中を切り捨てたが、それだけに気持ちが悪い。視覚から入ってくる情報も吐き気を助長するだけで、奴等は死の間際まで笑みを浮かべて、真っ二つに断たれようとも漏れるのは狂気じみた笑い声のみ。人が壊れた末路があれなのだと言われても納得はできるが、それだけにあの様にはなりたくはない。
「・・・・・・だが、こっちの暗部も似たようなものか」
数度、王城内で見かけた程度だが、生気の無い表情は人形と呼ぶに相応しい有様であり、人であるにも関わらず命令にただ従う姿は前世のロボットを思い出す。まるで感情というデータを抜き出した人であった者のなれ果て。
人としての最低限の機能を有した操り人形であり、この国が有する最大戦力たる元転生者達。分不相応に能力を求め、転生チートを夢想し、魂に無理やりクラスとスキルを過積載に過積載を重ねて産み落とされた愚か者。
魂に限界があると言われたにも関わらず、俺の様に分をわきまえなかった者の末路。世界を渡った自らを過大に評価し、前世の損失を埋め合わせる様に、何もかも手に入れようとあがいたのだろうが、愚かにも己の精神すら未来への投資として投げうつ事もあるまいに。
「・・・・能力なんてものは奪うだけにすれば良いものを」
上の兄が持っていた『勇者』というクラスを手に入れた頃は、今思えば俺の人生において唯一華やかな時代だったのだろう。追い落とされた兄を見て笑う事も過去の人生を思えば爽快そのもの。常に奪われ、虐げられ、命の危険と餓えを友とするそんな人生からすればあの頃はバラ色そのもの。勇者という称号を得た事で次代の王としての道を得た俺に敵など存在せず、ただ順風満帆な生活が待っていると、信じていたのだから。
「今思えば転生なんてものに夢を見た時点で末路は決まっていたのにな」
次代の王候補として教育を受ける内にこの国の闇が自然と顔を覗かせた。
元よりクラスや能力第一主義だと理解はしていたが、本当のところ国の重役であっても神が盤上で戦う為の駒に過ぎず、壊れれば次が用意されるだけの役に過ぎない。元からクラスという鋳型に魂を流し込んで作り出すシステムである為、どれもこれも魂の総量による差でしか無く、それを全てクラスやスキルに使い切れば感情の無い暗部の様に成り果てるだけの話。
つまり、それだけ強いクラスや能力を手に入れれば魂の死・・・・感情が死ぬ未来が早まるという事。
「・・・・・この気持ちの悪さがスキルを使わない正常な俺の強さって事か。勇者だかなんだか知らねえけど、精神耐性スキルを使わなければ当たり前だよな。俺は元から奪われて死んだだけの間抜けなんだからよ・・・・・」
酷い前世から逃れて、今生ぐらい楽しく生きようとして何が悪いのか・・・・。
女神から魂の話を聞いて、最初に頭に浮かんだのは他者から奪う事。
貶められて、奪われて、殺された俺には今生こそは奪う権利があるのは当然の事。転生先に既に『勇者』などの席は無く、望むべき人生が得られないと理解しているなら尚の事、奪ってでもその席を手に入れようとするのは悪いことなのだろうか? 常に奪われ、人としての喜びすら摩耗した俺の最後を思い返せば良心なんてものは足枷である事は一度死んで理解してしまったのだから。
「・・・・・奪った結果がこれってのは何の冗談だ・・・・・・現代人の俺に剣を持って戦えとか普通じゃない・・・・・人を殺すのは・・・・犯罪だろ・・・・」
スキルで覆いに覆った勇者としての殻なんてものを脱ぎ捨てれば殺人という行為に手が震えてしまう。
「普通に生きたいと思うのは罪なのかよ・・・・」
自然と神への怨嗟が漏れるが、俺の悩みなど大きなうねりの前では飲み込まれるだけなのか、周囲の怒号に意識は覚醒し、見覚えのある鎧を纏った一団を聖剣で切り伏せていた。
「・・・・・聖女! 裏切りは高くつくぞ!」
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