蚊帳の外
「あそこに敵の指揮官が居ます、夜襲を仕掛けてきなさい」
「・・・・・・・はっ・・・・・えっ?」
当然、レギオンの反応はこうなる。
レギオンは確かに強いが、それでも数の暴力を覆すだけの力は無い。
夜襲で姿が見えにくいとはいえ、松明の火もあれば、魔道具もある為、視覚的なアドバンテージはほとんど得られないにもかかわらず、特攻しろとは無茶が過ぎる。流石にこれは止めた方がいいのかと思案してしまうが、クロがただ無謀な突撃を命じる筈も無いかと事態を見守っていると・・・・。
「聡明なシロ様はやはりお前達とは違い、気づいている様子。何時もながら動じない御姿には感服する思いですが、理解の及ばないお前達にも理解できるように噛み砕いて説明致しましょう」
「・・・・・おぉ」
レギオンが謎の視線をこちらに向けてくるが、憧れにも似た視線を向けられては否定する事も出来ずに沈黙を貫いてしまう。
流石に、これは不味いのでは無いかと思ったのだが、此処で否定すれば色々と多方面に敵を作りそうなので沈黙は金という事で黙って事態を眺めておいた。
「まず、大将首・・・・こちらで表すならばシロ様を狙われたとすれば、レギオン・・・貴様はどうする?」
何かのひっかけ問題なのかそんな問いをレギオンに投げ掛けるが。
「勿論、この身を盾にするべく馳せ参じます」
「・・・・・ふむ。正解ではある」
どうやら正解だったのか、クロがレギオンの言葉に頷き返すのだが、どうやら一部訂正するべき場所があったのか、口を再度開いた。
「だが、それは真に相手を守る意思がある者に限った話だと理解すると見え方も変わってくるものだ」
「・・・・・・成程、人間としての性質・・・・政争というものでしょうか?」
急に戦争から政治的な話に切り替わって俺としては何の話という具合なのだが、どうやら的を射た話だったようで、クロの反応も上々だ。
「なかなか理解が早くて結構。我等、シロ様を王と崇める支配体制には縁のない話だが、この国では貴族という身分が存在し、上の位に位置する者は上等なクラスと地位が同じく高いという訳だ。まぁ、ここらは女神が関与しているのだろうし、国の運営を意図したものであればクラスを簒奪する方法などもあるのだろうが・・・・今はそんな話はする必要もないので要点を言うと、大将とて全幅の信頼を捧げられる存在では無いという事だ」
自分が所属していた国の詳細をエルフであったクロに教えられるのは不思議な話だが、クラスとスキル第一主義であった事は痛感していたので、今更という感じもしないでは無い。レギオンにしても人から吸収した知識で、そこらの事柄は把握していたのか、クロからの情報を吸収して、導き出した答えを述べた。
「・・・・つまり、大将を襲うのは見せかけであり、それによって反応する部下たちの動きを確認するのが目的・・・・でしょうか?」
何でそんな結論になるのか俺には理解不能だが、言葉を向けられたクロは再度首を縦に振ると、悪くないとばかりに微笑で表情を彩った。
「ほぼほぼ正解と言っても良いな。加えてお前の能力を想定した上での話だとも理解しているだろうから話を続けるが、大将を襲った際に一番動きが鈍い者こそが肝心・・・・元より反骨心を露骨に示している証拠であり、大将からしても獅子身中の虫。お前がなり替わるならば適任と言えるだろう」
クロが何を言っているかさっぱりなのだが、レギオンは話を理解したのか、困惑していた表情は色を取り戻すと。
「では、行ってまいります!」
などと急に宣言するなり街の外壁を飛び降り、敵の大将目掛けて数十人もの分身と共に駆けていった。
◆
「誰だ! 止まれ!」
夕暮れ時、日の光が世界を赤く染めるのと同時に接敵した敵が何やら静止するべく言葉を飛ばしてくるが、愚か。
「・・・・・・誰だもあるか、敵だよ」
騒ぎを起こす事が重要である為、くだらない問答に返答をしつつも、そこらで拾った石を魔力で補強し、兵士数人に対して投げつけておく。
「───おぁッ!」
「ぐッ!」
「あがッ!」
所々で痛々しい悲鳴と、当たり所が悪かった者の息絶える音が聞こえて来たのが少しばかり以外。クロ様との訓練で多少は強くなった自負はあったのだが、常にクロ様と手合わせしている為か、実感という実感が得られなかったのだが、小手先の技でさえそこらの兵であれば殺せるぐらいの実力は身についているようで、シロ様の役には立てそうだと安堵してしまう・・・・・が、今は作戦中の為、気を引き締めて将が居並ぶ陣営へと突撃を継続する。
「侵入者だ!」
「敵は少数! 暗殺者数名! 灯りを灯せ!」




