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自由気ままに生きてみる  作者: 紅龍
旅の始まり
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走馬灯4

なんて事を思っていたのも幾星霜。


ポーション作りに忙殺されつつも、自己強化する事数年。


何というかもう強いのでは? と思えるぐらいには色々と強化してしまった。


なんという事でしょう、あれほどもやしっ子であった肉体は見た目もやしにも関わらず戦士級の力を超え、今では上級職並み。魔力に関しても自己魔力へ変換する魔力器官の性能を上げまくり、人には不可能な5個積みの違法改造によって魔力を使う端から製造できるせいでだいたいの魔法はノーコストで使用可能というチートっぷり。魔力の貯蔵についても常人が魔力酔いを起こす程の異常な濃度であろうとも普通に取りこめてしまう辺り人間であるとも言いにくい。


個人的にそろそろ此処を抜け出て冒険へ・・・・となるのだが・・・・・。


「契約とか聞いてないんだが」


俺最強! さて抜けるかと思った矢先に何故か国に帰りたくなるみたいな意味不明な帰巣本能と言うべきか、はたまたホームシックと言うべきか? 何度か決行した脱出劇はそうした不思議な感覚に妨げられ、今もなおこの場所に縛り付けられており、色々と調べた結果辿り着いたのが契約とかいうものだったのだ。


「酷い話だよなぁ、ここに売られる時に書いたあれだとは思うが、契約に神とやらが介在するとか聞いてないんだけど」


感覚として上位存在のようなのが居るというのは感じていたが、まさかそれが簡単な契約にさえ介入してくるとは思わんて。口約束とか簡単な信用が横行してた軽めな契約を前世気分で軽く考えたところのこれ。契約とか守る為にあるんだよ~みたいな強引なの知りませんよ。


契約とはそれ程重要なのですよ、みたいなの孤児院でも教えてもらえなかったんだけど。


何てことを怒り心頭で思い返していたが、貴族や王族にとって民草を自由にできる権利なんてものを重要に教えるかって言われると、教えんわなぁ・・・・・という結論に至って内心唸る。


契約の約款に色々書いて納得したよね、みたいな過去よりもこの世界の契約は重要なのだと知れたという事は良い事なのか? でもまあ死ぬまで働けとかじゃなかったしまだ良い事なのかなあとぐるぐると思考を巡らせては思考迷路に陥るばかり。


「ポーション300個! 武器と防具の補修は終わってんだろうな!」


傍から見て茫然としていた俺を見てか、何時ものハゲが無理難題を言いつつ心臓に悪い勢いで牢屋の扉を蹴飛ばすが、俺としては慣れたもの。


部屋の隅を指で指し示し、ハゲに溜息を漏らす。


「見えるだろ」


乱雑に積み上げておいた塊を見て、ハゲがぷるぷると震えて顔を赤く染めるが、俺には知ったこっちゃない。そもそも此処のノルマのほぼ全てをやらされているのは知っている訳で、ノルマ以外を他の奴等に作らせてこいつが儲けているのも黙っているのだから文句を言われる筋合いは無い。以前の俺であればハゲの力に怯えていただろうが、今はそんな事も無い。


リドが居なくなってすぐ何を思ったかこのハゲは俺に襲い掛かってきた。


ハゲにしても悪い事だという自覚があったのか、皆が寝静まった夜であった為、他に知られる事は無かったが、結果として俺は容赦もせずボコボコにしてやった。


言い訳としては暗闇で誰か分からなかったというものだが、当然俺には暗視可能な目がある。


部屋に違和感を覚えるなりばっちり目のあったハゲ野郎が俺の胸をまさぐるのに合わせて手を掴み、捻り上げ逆マウントでもってボコボコに・・・・・。


その後は日頃のストレスを発散するべく悲鳴を上げないように喉を潰し、執拗に骨を折り、体を壊して上級戦士であるハゲ野郎にどの程度通用するのかを実験したが、結果として問題は無かった。


ものの数分で男の意識は無くなり、死ぬ寸前。


慌てて男の口に作りかけの上級ポーションを流し込み、事なきを得た。


まぁ、そんな事があったせいかそれからは肉体的な嫌がらせは極端に無くなり、今となっては激務でもっての嫌がらせが主流となっていた。


当然そんな事があったのでハゲにしても手は出せず、不承不承とばかりに子分共にそれらを運ばせていた。


「・・・・覚えてろよ」


雑魚が雑魚らしい台詞を吐きつつ、何処かへ行くのを傍目に契約をどうしたものかと考えていると、何時の間にか季節は過ぎ・・・・気づいた頃には勇者一行とかいう意味不明なパーティーに駆り出されていたのだった。勘弁してくれ・・・・・。




「・・・・・王子よ、お前達の双肩に世界の命運はかかっておる。人々を助け、悪を滅し、人の世に平穏を・・・・・」


煌びやかな衣装を身にまとった小太りのおっさんがRPGよろしく玉座に腰掛け何やらたらたらと語り出す事数十分。学校の校長よろしくどうしてこういう奴等は語るのが好きなのかと思考を巡らせる事で欠伸を飲み込み、眠らないように拝謁姿のまま伏した顔で奥歯を噛み締める。


朝、起きるなり聖職者総出で体にこびりついた垢やらを『浄化』やら『回復』やらで滅殺されたときは何事かと思ったが、考えれば分かり切った事か。着た事も無い様な上等な衣服でぐるぐる巻きにされ、最低限にメイクを施された顔は平均的。鏡に映ったのを見た自分の評価もザ・平均。


完璧な出来栄えに鼻息も荒くなり、かけた眼鏡を何度もくいくいとインテリポーズでもって自慢したくなるが、俺の評価とは対照的それを見た周囲の者達は何やら残念そうに息を吐く。


まぁ、俺にしても他人事なら彼等に同意するが、俺の視線の先、栄光と賛美を受けるべく、立ち上がった男の噂を聞けば残念という感想が出てくる訳が無い。


「王よ! 全て私にお任せ下さい! 民に平穏を! そして我等に永劫の繁栄を!」


豪奢な金の鎧を身に着け、聖なる剣を手にし、舞台役者の如く大げさに身振り手振りで謁見の間を支配する男。多数の王侯貴族の視線をものともせず、世界は俺のものだとばかりに猛々しいその姿に、王すらも霞む。英雄色を好むという言葉を体現するかの如く、まいた種は果てしない。


城を歩けばお手付きに当たるとばかりに手をつけたせいで、側室候補だけでも野球チームが何個作れるのか分かった物ではない。当然、その感性が身分卑しいなどというもので止まる筈も無く、俺が居る部署にまで平然と現れる始末。流石に男に掘られるのは折れない心でも折れてしまうので、早々に作り出したのがこの眼鏡。なずけて『友情愛情無縁君』


仲間意識程度ならば良いが、それ以上に発展しそうになるとセーブする機能を持っており、身に着けた者の容姿すら平均以下に調整する優れもの。げんに常時発情王子の目線は俺では無く、横に居並ぶ貴族の娘達に向かっており、自然と口から安堵の吐息が漏れる。


「しかしながら王よ、一人この場には相応しく無い者が居る様に思えるのですが?」


安堵したのも束の間。王子の目線は俺を射貫き、晒しものにすべくその口は侮蔑の言葉を発しようと再度開く・・・・・が。


「王子よ、お前のいう事はもっとも・・・・しかし、そやつが道具として優秀なのも事実」


「・・・まことですか?」


汚物でも見る様な視線でもって疑問を浮かべる王子に対し、王は言わんでもいい俺の功績を語り出した。


「休戦以降、戦争は表向き終了したが、小競り合いは頻発しておるのは知っておろう」


「・・・・・はぁ」


対外的に国の為なんて事を言っているが本心ではどうでもいいのだと分かる相槌だったが、王にとってもそれは同じか、気にすることも無く言葉は紡がれる。


「次の戦争の為の休戦とは言え削り合いを含んでいるのは何時もの事。常日頃であればこちらも手酷い消耗を被っていたが、こやつはポーションの数だけは相当でな。低級ではあるが戦線と維持するには充分。装備やその他消耗品も補修程度には使えるのだ」


「・・・・つまり、我々では至らぬ雑務に使えると?」


「その通り、武具の性能を維持するのにも必要であろうから契約をお前に譲ろうとな」


王から出てきた契約という言葉に俺は内心前のめり。流石に想像では無くそのまま興味深々としていたら不味いので、奥歯を噛み締めて無関心を装った。


そうした行為に少しは意味もあったのか、王子は王に近づくなり小声で何か呟き合う。


当然、周りの俺達には聞こえない・・・・なんて事は無く、聴力もばっちり強化済みの俺には問題無く聞こえており、要約するとこの国が保持していた俺の契約を王子にあげちゃいますよ~そしてその契約は王子が俺を殺そうとしない限り切れませんよ~なんていう非人道的なもの。


死ぬギリギリまで不当に扱っても問題は無く、反抗的であれば体罰も可。


最低限の扱いでこき使えるやばい契約だって事が王から王子に告げられており、王子の表情もそれにつられて嗜虐的に変化していく訳で・・・・。


俺の心はその表情と反比例して萎えていくが、元からこの国に愛国心なんてものを抱いてはいない。逆に脱出の為に動いていたのは間違いでは無いと確信するに至り、俺は色々と方策を練りに練って・・・・・。

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