万屋
「・・・・・神々の剣以外であればワーウルフのダンジョンへ侵入した者達に数名程」
意図を察してか、関係性の少ない者達の情報がオモイカネへと送られて来る。
「申し訳ないけど、クロには新しいギルドのギルド長を任せる事になるけど」
「問題ございません」
描いた未来図は曖昧だが、クロが後押ししてくれるならば怖気づく選択肢は存在しない。
「それじゃあ、新しいギルドを作るとしますか」
◆
「う~~~~何で料理をつくる事に・・・・」
壊滅した冒険者ギルドでギルド申請が不可能であった為、仕方なく商業ギルドで新規ギルドをシロとクロ名義で作ったところ、カレー好きの公爵家に捕まったのが運の尽き。
あれよあれよという間にカレー関連の具材を巻き上げられたかと思っていたら、何処で聞いたのやら他にもあるのではないかとつめられ・・・・・。
「食堂を開く事になるなんてねぇ・・・・・」
一々聞かれて答えるのも面倒だったのもあるけれど、あまり会いたくはないのも事実。料理の工程なども見られる訳にもいかないので、それなら店でも作った方が楽かと折れたのがこの結末。
場所についてはダンジョンを店に偽装すればいいだけなので初期費用もタダ。
店を出す敷地にしても先の戦いで廃墟だらけである為、選びたい放題。
当然、そこまで人が来られても面倒なので街の端に店を構えたのだが、立地などお構いなし。珍しい品物を販売しているという噂は瞬く間に広がったのか、宣伝をする事無く満員御礼。
正直、物は売れるし料理も馬鹿みたいに売れるので文句は無いのだが、これでいいのか疑問も残る・・・・。
「でもまぁ、売上やら貢献度でギルドランクが上がるらしいし、仕方ないか」
実際この街を壊した元凶は俺達であって、意図したものでは無かったけれど、俺の発言が原因であるのは言うまでも無い。
「色々と責任をとらなきゃいけないのは本当の事だしなぁ」
暴走した神の剣による爆発が起こしたことだが、俺達が戦いに向かわなければ怒らなかった訳で・・・・・。
「少しはこの街に還元しないと流石に寝覚めが悪いし」
金をただ落とすのにも限界があるので、この街の復興がてら他の街から人を呼び込むべきかと新作料理を作っていたりするのだが。
「ラーメン3、炒飯2に餃子3お願いします」
「・・・・・へい」
人に化けたレギオン達が所狭しと駆けまわるが、それにしても手が足りない。
簡略化を目指して作り置きも可能なメニューに絞ってみたものの作った端から消費されてしまい休まる暇もなし。
「何だかなぁ・・・・・」
想像していた逃亡生活とは違った華の無さに絶望しつつも。
「うめえ! なんだこのつるつるしたやつ!」
「汁もうまいぞ! 普通の米につけて食べるとそれだけで飯になる」
「餃子というのもおいしい。この味でこの値段は嬉しい限りね」
低価格に設定しておいたお陰か、街の大衆食堂の様に店は繁盛しており、席があくなり満員御礼。
レギオンをフルで動員しているにも関わらず手が足りない状況に、溜息も漏れるというもの。
「・・・・・まぁ、こういうのもあり・・・・か」
自らから招いた厄災であり、この世界基準でいうならば売られた喧嘩を買っただけのまっとうな結末なのだが、多少は心苦しかったのも事実。
この街に還元するならば正統な理由にもなる訳で。
「さてさて午後も頑張るかね」
途切れることのない長蛇の列に溜息を漏らしつつも皆の腹を満たすために腕を振るう。
◆
「・・・・・・ここが万屋か」
「このルドリアという街の崩壊と共に現れた新興ギルドの様ですね頭」
副官のレイスが目の前の食事処を見てそんな事を言ってくるが、どうにも胡散臭い。長蛇の列をなす光景は繁盛している事を物語っているが、それがどうしてレジスタンス活動に結びつくのだろうか。そもそも俺達がなそうとしている事は、この国を打倒する事であって、現体制に与する者達と手を組むことでは無い筈なのだが。
「現状でさえ儲けている奴等に話を持って行ってどうするのかと言いたいんだが、そこは大丈夫なのか?」
見当違いをしていないかと、初老にさしかかったレイスという男へ問い掛けるが、どうやら根回しは済んでいるのか。
「問題御座いません。確実に決定を頂いた訳では御座いませんが、内密には話は済んでおります。武器ならびに食料の供与につきましても影ながら既に助力頂いております」
そもそもそんな所まで踏み込まれているとはついぞ知らず、勝手なことをしているなと頭も痛くなってくるが、それだけ逼迫しているのも事実。
藁にも縋るという言葉を転生者たちから聞いた事もあるが、まさにそんな状況である為、十中八九転生者であろう万屋の主人に更なる助力を得るためにこの街へ訪れたのが事の次第な訳だが・・・・。
「会合をするにしても食事処というのは場所としてどうなんだ?」
「まぁ、そこについては自分としても思うところではありますが、郷に入っては郷に従えとも転生者の方々が仰っていましたし、選択できる立場でも御座いませんから」
レイスが事実だけを述べてくるが、確かにその通り。
何も持たずに死んだ筈の人間に出来る事は助力を願う事のみ。
今となっては『勇者』としての力も弟に奪われ、愛すべき許嫁さえも守れなかった愚かな俺に出来る事などたかが知れている。
「・・・・すまないなレイス。下らない問答に時間をとらせた」
「いえいえ、滅相も御座いません。さぁ、こちらへ」
店の正面では無く裏口へとレイスに促されるまま進んで行くと、目の前に現れたのは妖艶な美女。
「お待ちしておりましたリド様」
「その名前で呼ぶのは止めてくれ、呼ぶならリチャードと」
「申し訳ございません、リチャード様」
レイス以外知る事のない本名が知られている時点で相手が持つ諜報能力も侮れない事は確定的。後ろに控えるレイスでさえ一瞬驚いている事からも裏切りという線は無いとなれば手を組む相手としては最上か。
「良ければ、貴女様のお名前を伺っても?」
このままこちらばかり追い込まれるのは立場じょう面白く無いので、正しい情報が返ってくるとは思えないが、嫌味を込めて切り返す。
「申し遅れました。万屋にてギルド長を勤めますクロと申します。以後お見知りおきを」
「・・・・・・・・」
まさかまともな答えが返ってくるとは思わず、思考が停止してしまう。
自らの行いの子供っぽさが急に恥ずかしくなり、顔が赤くなるそうだが、そんな姿を見せる訳にもいかず、片手で顔を押さえて溜息を吐く。




