探索
「ワーウルフの洞窟を確認してこいとか、人使い荒過ぎない?」
後ろを歩く小娘の魔法使いがそんな事を言ってくるが、怖いのは前を歩く俺なんだがな。
「上の連中には逆らえないだろ?」
横並びに前衛をつとめる年配のおっさん剣士がそうやって俺を加勢してくれるのだが、希少クラスである後衛の面々は納得できないようで不満のようだ。
「聞いた話では、近隣の村への被害も無くなったそうじゃないですか? だとしたらやはり、ダンジョンの活動じたい治まったと考えるべきでは?」
眼鏡をかけた頭のよさそうな僧侶の小僧がそんな事を言ってくるが、予想と現実は往々にして違うものであり、それを確認し、違ったならば修正するのが俺達の仕事の筈なのだが・・・・。
「・・・・それを確認するのが今回の仕事だ。危険な事も承知しているが、誰かさんのおこぼれに預かるだけでは対面も悪いと上も考えているんだろう」
「盗賊のドルグさんにしてはまともな考えをしてらっしゃるんですね」
僧侶が俺のクラスを指してそんな事を言ってくるが、別に俺自身がこのクラスを望んだ訳では無い。ただ単純に手先が器用で、人の事をそれほど信用できない生まれをしただけの事。生きていく為には盗みをしなければならなかった事は認めるが、それだけで盗賊になるとは誰が想像できるものか。
「別に俺のクラスを悪く言うのは構わんが、罠が張り巡らされたダンジョンの中を安全に移動できるのは誰のお陰か、再認識してもらう事になるが?」
「・・・・わ、分かっておりますよ」
既にダンジョンの中ほどまで到達しており、此処までに回避した罠の数も両手で数えても足りない程。俺としてもこんな脅し文句は使いたくは無いが、希少クラスを黙らせるにはこの手が効果的である為、何度となく使ってきた脅しを若造に聞かせて黙らせておく。
「それにしても弱いワーウルフだらけだな。これなら俺達でもダンジョンを潰せるのになっ!」
残りの一人、弓使いの若い男が闇に潜むワーウルフを仕留めて軽口を叩くが、分からなくも無い。実際に出てくるワーウルフは若い個体であり、能力もまだまだ低く、俺達のパーティーであれば対応は難しくは無い。
「まぁ、剣士の女とは違ってこっちに向かったのは小さい方だったんだろ?同じ剣士としてもあいつは強いとは思うが、小さい奴からは強者の気配も魔力の強さも感じなかったから死んでてもおかしくはないだろ」
剣士がそんな感想を述べるが、それについては俺も同じ。
盗賊として培ってきた勘も背の小さな女を脅威であるとは認識しておらず、顔すら曖昧で覚えてすらいないのだから。
「だからこそ心配になった上の連中が俺達ベテランを送り込んでるんだろう」
そろそろ温くなった感覚を引き締めるべきかと意識を割いてみるが、目の前に現れたのは先程と同じく低級のワーウルフが数体。
『ガッウォオオオ』
「おぉ~怖い怖い。そんなに吠えられたら小便ちびっちまうぜ」
弓使いが軽口を叩くが、周囲を取り囲む気配には気づいたようで、油を染み込ませた布をまいた矢を光源として気配のする方向へと射かける。
「右と左に2体ずつ、中央に複数」
弓使いが気配察知スキルに反応した敵をあぶり出し、剣士は後衛を守るために前方へと駆け抜け、壁を作る。
「おっさん、それ以上は進むな」
「チッ、罠か」
こちらを罠に嵌めるだけの知能がある事に驚いたが、やる事は変わらない。
地面に手を当て、『罠感知』を発動。脳裏に描かれるマップを俯瞰で覗き、周囲の罠を暴いていく。
「右と左、そいつらの前にも罠があるぞ。くそっ、誘い込まれたか」
不味い状況に悪態が漏れるが、やる事は変わらない。
呆けていた後衛の若造たちに激を飛ばすべく口を開く。
「出番だぞ学校出の小僧ども!」
「・・・・言われなくとも!」
「盗賊如きが舐めた口聞かないでよね!」
些か意地悪な言い方だったが、恐怖よりも怒りの方が今はまし。
震える心に火がともったのか、堅かった表情は羞恥と怒りで赤くなっていた。
「震えて役立たないよりはだいぶましってな」
発破をかけた手前、俺自身も頑張るべきかと焦りに煮えそうになった思考を冷やし、周囲を観察する。




