教練
「しっかし、ゴブリンに殺されるたぁ、馬鹿な奴等もいたもんだな」
ギルドの副リーダーとして付き合いの長いジルが若い奴等の失態をさかなに酒をかっくらう。俺としてもゴブリン程度にやられる若造には退場してもらった方がいいとは思うが、それにしても死に過ぎていた。
「ゴブリンに足をすくわれるなんて新人のする事だろうに、多すぎるとは思わないか?」
当然、俺はジルに疑問をぶつけるが、答えはどうやら単純なようで。
「そりゃそうだろ。遠征やら討伐で街から離れているお前が知らないのも無理はないが、薬草採取だけでも稼げるんだから危険を冒すわけがねえ。年数だけが長い冒険者ってのがお前が知らないだけで下にはいっぱいいるのさ」
「・・・・・・・聞くんじゃなかったぜ」
戦争に駆り出されていた者達が帰還し、傷病者を癒す目的で薬草の価値が上がっているとは聞いていたが、それだけで若い冒険者が食っていける程度に潤うとは思ってもみなかった。そもそも簡単な仕事でも困らないのであれば危険を冒す必要も無く、魔物を倒す為にダンジョンに潜ることも無い。
結果、ワーウルフのダンジョンは溢れ、戦う事の出来ない冒険者はゴブリンに殺されたという訳だ。
「まったくもってくだらねえ」
冒険者とは危険を冒し、富と名声を得る者じゃなかったのかと言おうとしたが、腰に下げた神の金属たるオリハルコンの剣を見て溜息が漏れる。
「・・・・・転生者様とやらの寝込みを襲っただけの俺達にしてみれば上々か」
俺達だって転生者と呼ばれる餓鬼どもの寝首をかいて、武器を奪った卑怯者に過ぎず、されど魔族の王達に戦いを挑むこともできない臆病者。彼等が人属の希望であるなんて事は若かった俺達には知る由も無く、無防備に寝ていた奴等をその武器でもって簡単に殺せてしまった事が問題であり、俺達に非がある筈も無い・・・・・。
「あいつらは選ばれてなかっただけなんだ。俺がこの剣を手に入れたのは当然だ・・・・当然・・・・そうだろ、ジル?」
ジルにそう声を掛けてみるが。
「酒の飲みすぎだ。少しばかり若手が居なくなったが、二人組が終わらせた高難易度依頼は神々の剣が達成した事になっている。俺達のギルドは揺るぎわしない。そもそも、転生者とやらを殺した俺達が生きていくにはこれしか方法は無いさ。この街を実際に守っているのは俺達だし、誰も文句を言う筈もない」
「・・・・その通り、その通りだよな」
色々と考えたところで全ては運否天賦。
若造たちが死に、神々の剣がこの手にあるのも全ては定められた運命に過ぎない。
「だったら尚更、神に選ばれたであろう二人組のおこぼれに与るのもまた運命という奴だろ・・・・・なぁ?」
「そうだな・・・・・本当にそうだ」
ジルは何やら苦々しい表情を浮かべていたが、今更すぎる。
転生者を嬉々として犯し、殺し、奪った奴がする顔か?
家族の話をする陰で、お前が何人の愛人を文字通り切り捨てた?
そんな血に濡れた手で孫を抱く資格があると思っているのか?
言いたいことは色々と湧いてでるがその全てが・・・・・。
「・・・・・・くだらねえな」
本当に、本当に・・・・・くだらない。
◆
「そこ、死ぬならもっと端で死になさい。拳を捨て身で当てようとするならば、手段を選ぶな・・・・そこ! 距離が遠いから安全などと安易な考えは捨てろ!」
気の抜けた矢を飛ばしたレギオンへ手にした小石でもって頭を打ち抜き、温い現状を思い知らせてやる。
『ギャガァ!』『ヒギュ!』
指弾でもって次々に赤い花を咲かせるレギオンども。
命に限りがないからと死に慣れ過ぎてしまったのではないかと、我ながら方向性を間違えてしまったかもしれない。
「・・・・破ッ!」
至極単純な一撃を叩き込む。相手との戦力差がなければ容易に防がれてしまう攻撃だが、レギオンにしてみれば必殺の一撃。
前方へ防御壁のように数匹が立ち向かい、肉の壁を形成し、死と共に攻撃を防ぎつつ、被害を免れた者達が・・・・。
『斬撃』『強射』『炎弾』『強打』
などとクラスの違う技を放つ。
どれもこれもまだまだ低級な技であったが、それでも人程度であれば殺しきる技の冴え。防御に転じる必要もあるのだろうが・・・・。
くだらない技を披露されてしまっては抑えることも叶わない。
少々矯正が必要だろうと、右足に力を込め・・・・・。
「一撃が・・・弱い!」
無造作に振りぬいた。
『・・・ッギ』
返って来たのは弱々しい悲鳴。
拳とは違い、威力の高い足技をこの体で試せばこうなるのは必然。
極大化された風の鎌でもって拳とは比較にならぬ大鎌が、居並ぶレギオン達を狩りつくしてしまった。
「・・・・・・チッ! やり過ぎた」
狂姫などと呼ばれていた過去を思い出してしまうが・・・・。
「問題ありません。直ぐに生産可能ですから」
などと、新たに生まれたレギオンが声を掛けてきた辺りで、悩むのを止めた。
「・・・・そういえば、そうだったな」
安堵と共に息を吐き出し、現状を再度確認していく。
「多少でも生き残れば同じ個体が生まれてくるとは、つくづく変な奴だなお前は」
「お褒め頂き光栄です。私が褒められるという事は即ち、シロ様への賛美に他なりませんから」
「・・・・そう思えば、悪くないな」
「仰る通りかと」
殺された相手と呑気に会話する辺り、異常性は見て取れたが今更か。
疑似的とはいえ不死に近いせいか、こちらとしても命が軽くなってしまう事を危惧したが・・・・。
「それも今更だな」
手にかけた命の数など恐らくは国単位。
命の尊さを語るなど、我ながらおこがましい。
「ご指導よろしくお願いいたします」
「・・・・・やはりお前は大したものだ」
主の作り出した化け物へと向き直り、私は再び拳を握りしめた。
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