ワーウルフの王
『私から私へ報告。前方に人と思わしき反応あり』
レギオンがレギオンへとそんな事を言ってきます。
そもそも私は私であり、私なので情報伝達も必要ないといえば無いのですが、私はシロ様に寵愛された特別なレギオンですので、レギオンの中でも輝いているのは言うまでもありません。皆が羨望の眼差しを向けてくるのも当然ではありますが、そもそも皆も私なのですから嫉妬するのもおかしな話。
寵愛を受けた際に発生する喜びの感情も皆に共有している為、責められるいわれは無いのですが。「不公平」「色違い?」「角でもはやしている?」などなど意味不明な事を言われる次第。そんな事は無いと思うのですが、やはり優越感という感情は湧いてしまいます。
『愉悦に浸るのは後でしろ』
『不愉快』
『私が主様に仕えるべきでは?』
『それは無い』『不快』『遺憾の意』
などなど、勝手気ままに騒ぎ出すが、ワーウルフどもを殲滅している辺りさすがは私。主様に頂いたレギオンによる並列思考は十全に機能を発揮しており、ただのゴブリンでしかなかった我々は、一個の巨大な生物へと進化していた。
「・・・・・ですが群体であるのに個性があるというのも不思議なものですね」
下らない会話を続けてはいたが、そろそろ私も仕事に戻るべきかと、命令を下す。
「主様の命は立ちふさがる者の殲滅。索敵にて周囲を警戒し、仲間がいないようなら餌にして構いません」
そう、私が宣言するや否や、小隊の一部が生物的に動き出し・・・・・短い悲鳴と共に索敵からは人の反応が消えうせた。
「入口は問題ないようですね。では、先へ進みましょう」
周囲の犬達も同様に駆逐されており、獲物を喰らうという元からの本能に、強化するというレギオンの能力が合わさり、現在ワーウルフの因子を獲得中。
完全に駆逐する頃には、レギオンの宿主もゴブリンから上位の種へと変化する事でしょう。
「・・・・魔石は食べてはいけませんよ。全て献上するのですから」
『問題無い』『オモイカネ様が召喚の際にパスを繋いでくれた』『回収用の転移魔法もオモイカネ様よりダウンロード済み』『回収部隊も編成完了している、私はとても優秀』『そんな事をアピールしても褒められるのは私』
各々が成果報告と共に、私情を挟んで来ますが、全ての手柄は勿論、私のもの。お前達の成果は私の物、私の成果は私のものなのですよ。
『邪悪な思考を検知』『性根の腐った奴』『これは擁護不可能』
「・・・・冗談ですよ、私・・・・ほんの冗談です」
少々失態を冒してしまいましたが、問題ありません。
王の道とは血と暴虐に彩られるべきなのですから・・・・・。
◆
「・・・・・うわぁ」
左を見ても右を見ても血と臓物の海。
洞窟を模したダンジョン内は、スプラッタホラーの殺戮現場さながら。
折れない心が無ければ、途中で気持ち悪くなったであろう胸やけのする光景を見て、少し落ち込みそうになった。
だが、しかし・・・・これも俺が下した『立ちはだかる全てを駆逐しろ』なんて事を調子に乗って言ってしまった為なので、注意もしずらい。
「さぁさぁ、前へ前へ・・・・この先にダンジョンの主が居ります」
俺とは打って変わってレギオンは満面の笑み。
君と同じ感じの子がそこでもりもりワーウルフ食ってますけど!?
なんてことを言いたかったけれど怖いので言わない。
うわぁ・・・・・踊り食いだ・・・・・・。
『ギャウンッ!』
ワーウルフの中でも強い個体なのか活きが良い個体などはレギオン数体で貪られており、何とも無残。
まだ生きている個体が許しを乞うように見つめてくるが、レギオン達に容赦という言葉は無いのか、こちらと視線があった者など悲惨な末路を辿り、獲物として貪られてしまい、最後は微かな血の跡だけが残るのみ。
「・・・・わぁ」
意図した訳では無いが、そんな声が自然と漏れてしまう。
「ややや、申し訳御座いません。シロ様に目線を合わせるなど、あってはならぬ事。不手際をお詫び致します」
レギオンは焦った表情で俺にそんな事を言ってくるが、そこでワーウルフをもりもり食べているのも、殺戮を行っているのも君の筈なんだけどね・・・・・。
「どうか致しましたか?」
純真無垢と称するのが適切な瞳を向けて、レギオンがそんな事を言ってくるのが、何とも不気味に思えた。
「・・・・・さて、ダンジョンの主とやらを狩るか」
「ははぁ!」
こんな場所に長居はしたくないので、無理やり気持ちを切り替えて主が待つボスエリアへと通じる扉を開いた。
『ゴブリン共、手土産を持ってくるならもう少し喰いでのあるものが良かったが』
ボスエリアに突入するなり、ワーウルフと思しき巨大な人狼がそんな事をこちらに対して言ってきた。
「・・・・・シロ様、大変申し訳ございません。可能であればあの者を譲って頂ければ・・・・・」
そんな事をレギオンは呟くと、門の入口からはわらわらと無数のレギオン達が大挙して押しかけてきた。
『成程、その娘を罠にかけたという事か。我が配下を喰らった事は許せんが、貴様らの強さも充分知れた。個々の力は矮小であるが、集団の力は・・・・まぁ、悪くはない。これならば大目にみて同盟を結ぶには値するだろうよ』
態度のでかいワン公がそんな事を言い出すが・・・・。
「知能の足りない馬鹿はこれだから困る」
レギオンへの交渉材料とは為り得なかったのか、冷え冷えとする声色でもって小さな国の王たる人狼を睨んで吠える。
『・・・・・後悔する事になるぞ』
人狼がそう宣言し、横に居並ぶレギオン達が身構え・・・・た。
「貴様を───」
勇猛果敢。殺意という意思を表象する一体のレギオンは言葉を告げるまも無く、赤い霧へと姿を変えた。
何事かと視線を向けた先には、腕を振り下ろした人狼の姿。
恐らくはスキルによる能力の発現。
一瞬にしてレギオンを血と肉片へと変貌させる一撃に、警戒心は否応も無く増していく・・・・が。
「・・・・・言葉は最後まで聞いてください」
後方からそんな声がしたかと思うと、それは前へ前へと進み。
「貴様を殺します。駄犬」
そうやって冷たく宣言すると、身を屈め、人狼達へと突撃を敢行する。
『くそっ! あいつは王じゃなかったのか! ならば次は貴様だ!』
油断させた上で殺しにかかる人狼の魂胆に微かながら勝利に対する貪欲さを感じるが、それは俺が作ったレギオンのあり方とは対照的。
全てが王であり兵であるレギオンにとっては王手などといった概念は無く、全てが王の力をもった一兵卒に過ぎず、どれもこれも替えの利く部品でしか無い。
つまりは、多少の損害など全体でみればかすり傷程度。
「・・・・・多分、ダンジョンの外にだすとほんとやばいんだよなこいつ」
そんな俺の感想のままにレギオン達は一体、また一体と削られてはいくが、そんな事などお構いなしに次から次へと傷ついた人狼へと殺到し。
『ぐがぁ! いだぃ、止めろ! 食べるな!』
上位の人狼達の制止も構わず貪られており、精神的なダメージはいかほどか。
自己が無い為に恐怖という感情に乏しいレギオンにしてみれば、恐怖の感情に支配される上位種など手玉にとるのは容易な事か。
「・・・・・はっはは」
などとレギオンが笑みを浮かべて肉を啜れば、理解できぬと狂喜に陥る始末。
最早、統率の取れない集団は半ば瓦解しており。
『立て! 人狼の誇りはどうした! ゴブリン如きに舐められてたまるか!』
どれだけ吠えたところで形成が逆転する筈も無く、おぞましいスプラッタホラーな映像が数分垂れ流されたところで、弱々しくすすり泣く声だけが漏れるのみ。
『・・・・・俺は・・・・王なんだぞ・・・・・・これからだったんだ・・・・・これから俺が、この世界の王になる・・・・・筈だったんだ・・・・・・』
部屋の隅で仲間が食われていくのをガタガタと震えて見ることしか出来ないこの世界の王様は、唯一汚れていない俺を見るなり尻尾を振って歪んだ笑みを浮かべて・・・・・。
『全てを・・・・全てを差し上げます・・・・ですから、どうか・・・どうか命ばかりは』
既に精神も壊れているのか、鑑定に表示されているのは精神の異常性。
ワーウルフの王と呼ばれる者の最後としては虚しいが、王というのはこんなものかと、ほほ笑んでやると、彼も少しは救われたのか笑みを浮かべたまま頭の半分をレギオンに割られ、血の海に沈んでいった。
「諸行無常って奴かねぇ」
虚しい気持ちのまま、レギオンが差し出した王たる人狼の魔石を噛み砕き、飲み干し、言われたままに差し出された全てを貰い受けた。
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