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自由気ままに生きてみる  作者: 紅龍
ギルドの利用方法?
30/53

悩み

「・・・・・はぁ。主様と同衾するにはどうすれば良いのでしょうか」

街を抜けて一人になったせいで、悩み事が自然と漏れてしまう。

私としては精一杯のアピールのつもりなのだが、数千年恋愛などに興味が無かったせいか、どうにも恋愛下手。

頑張って恋愛小説なるものにも手を出してみたが、男と女の物が大半であり、どうのも参考にならない。

結局の話、肉体でもって迫ってみるが、恋愛上手なあの方にはあしらわれてしまいこの始末。もっと恋愛とやらを勉強するべきだったと後悔しても今更。

「そろそろ衣装を変えてみるのもありかもしれませんね」

やはり使うべきはこの肉体かと、悩んでいたところ、何時の間にか目的の場所へと辿り着いたのか、周囲の木々からは獰猛な殺気が立ち込めていた。


『ギギァガアアア!』

『ウォウオゥウォ!』

木々の間を高速で飛翔する化け物の咆哮。

強化された肉体には欠伸がでる程だが、そこらの冒険者にすれば脅威。

見てくれは猿に近い姿をしているが、魔力を有するこれらは魔獣であり、魔法を使う怪物達であり、人を容易に殺す殺戮者でもある。

現に、私をつけていた者達など恐れおののき、後方で糞尿をまき散らす程。

情けない有様に、頭が痛くなる。

「風下でなくて良かった。あいつらの糞尿なんて匂いたくも無い」

せめてもの救いはそんなものだが、へたり込んでいるならば上々。

風の魔力を右手に集め、竜巻を呼ぶべく吠える。

「・・・・風よ! 巻き上がれ!」

詠唱と呼ぶには強引な魔法の発動。

強力な魔力による法則の捻じ曲げを無理やり敢行し、周囲のマナは命令に逆らえず、自然現象として竜巻を発生させる。

「な、何も・・・・見えない」

「お、おい! 何処だ!」

大気を攪拌した影響で発生した霧も相まって、視界を喪失した追手達。

時間にして一分も無い状況だろうが、私にしてみれば充分。

地龍の爪によって強化されたグローブに魔力を込めると、それは淡く怪しい光を放つ。

「・・・・シッ」

軽く左拳を熱源に向けて振るうと。

『ゲヒッ』

などと品性の欠片も無い悲鳴が返って来た。

『ヒギュギュアアア!』

仲間がその一撃で気絶した事を悟ったのか、恐らくは逃げろと訴えかけた悲鳴をあげる化け物達。脅威に対して逃げる事は彼等にとって臆病では無く、純粋な生存戦略。今の今まで生きてきたのにはこうした理由があるのだと、納得するが、逃がす理由には為り得ない。

『・・・・標的25体、固定完了』

主様から貰い受けた『加具土命』と命名されたサポートシステムとやらが熱感知した標的を視界へ共有。

込めるべき魔力量までスムーズに配分されており、私が実行する事といえば、拳で魔力を発射するぐらいなもの。

些か単純過ぎる作業に欠伸が漏れそうになるが、主様の喜ぶ顔を思えば退屈も紛れる。

「眠れ」

一撃に25分割の魔力を込めて発射された魔拳は狙い違わず猿の魔獣の意識を刈り取った。


「・・・・・素材としても使えないな。なら、魔石だけ引き抜くか」

倒したのは良いが残念な事に鑑定に表示されるのはどれも不要な素材ばかり。

恐らくは集団で人を喰らっていた事から依頼ランクがあがっていたのだろうが、個々の能力で見ればオークよりも下。

精々使い物になるのは魔石ぐらいなもの。

これ以上雑魚に構っている暇は無いので、『龍牙』と名付けられた手袋の力を利用し、気絶した猿どもの胸部へと腕を突き入れ、心臓の辺りにある魔石を掌でつつみ、魔石だけをダンジョンへと飛ばす。

「何とも呆気ない・・・・作動状況には何も問題はなし、さすがは主様が作られた武具。見事な性能です」

危険性もなく問題無く発動した次元切断能力に対し、主様が作った一品とはいえ絵空事だと考えていた過去の自分を殴りたい気分だった。

確かに『収納袋』や『収納鞄』など外見と容量の違うダンジョン産のアイテムは現実とは思えぬ性能を持つ物もあったが、それにも制限が存在していた。

当然にこの様に任意の対象を別の場所へと消し飛ばすなど恐ろしい能力である筈も無いのだが、現実として自分の手を覆うのは摩訶不思議な道具そのもの。違和感とでも言うべきか、何とも奇妙な感情が湧きおこるが、このような感情こそ不敬の証。

そもそも主様にとっては恐らくこの程度児戯に等しいのか。

「そうそう、これを使えば物とかこっちに運ぶときに使えるから」

などと、次元切断能力を、物を運ぶ程度にしか考えない辺り器が違う。

恐るべき存在に相対した時とは想像することもできないのだなと、実感しつつも新たな獲物を求めて猿共の巣穴へと急ぐ。


『と・・ま、れ』

不意に聞こえてきた人とは思えぬ声色に一瞬期待し、足を止めるが、目視した光景が詰まらなかった為に溜息が漏れてしまう。

「・・・・大きいだけの猿か」

鑑定の結果も先程の猿達が進化した先の姿だと明示しており、名称に王という名がついている事からも支配者のクラスか。

『どう・・ぞくをころす・・・のは、なぜだ」

見たところ低レベルだが言語理解というスキルを持っているようで、そのお陰か会話も多少は成立するようだ。

「・・・・・依頼だ」

『なる・・・ほど』

本当は依頼などでは無いのだが、冒険者であれば依頼を受けて討伐するのは至極当然な行為。騙す必要は無いのだが、相手の出方を見るべきかとでまかせを口にしてみる。

すると、多少は効果があったのか・・・・。

『なら・・ば・・・・いらいよりも・・・・かねをはらえば・・・・いいのだろ』

拙い言葉であったが、先方は交渉を望んでいる様子。

こちらとしては、魔石が欲しいので殺す事は確定しているのだが、土産は多ければ多いほど良い。

「さすがは王のクラス。話が早いな・・・・だがしかし、現物の確認が出来なければこちらとしても応じるのは無理だな」

一応、脅しておくかと拳を構えると、意外に素直なのか相手方は部下の猿共に命令を下し、部下共はどこから奪ったのか知れぬ金銀財宝を手に戻ってきた。

『これで・・・・どう・・だ・・・・・これが・・・・すべて・・だ』

人の機微を理解しているのだろう。頭を下げて泣きそうな顔で訴える様はなかなかどうして真に迫るもの。敵対していたであろう相手でさえも心を許してしまう程に惨めな様は、心にくるものがあるのだろうが・・・・・。

「・・・・・悲しいかな、微塵も感じないな」

何時も心の琴線を弾くのは主様。

それ以外はただの害虫に過ぎないのだから、鳴いたところで気持ち悪いだけ。

多少は何か感じるのかと期待してみたが、結果は変わらず無心で殺せるなと確信しただけの事。

さてさて少しは抵抗してくれれば良いなと思い、拳を弓なりに引き絞る。

『・・・なんの・・・・まね・・・だ』

いまだに猿芝居が意味をなすのだと信じているのか、猿の王はそんな事を言うが、甘い思考だと落胆してしまう。

死ぬか生きるか二者択一。そんな世界で生きていたのでは無いかと、思っていたのだが、王というクラスがそうさせたのか、何とも温い。

「理由など分るだろう。それとも本当に分からないのならば、潔く死ね」

『ッガガガガアガ!』

猿の王が咆哮するが、漏れた殺気は微風。

些かも死を連想させぬ気配に、憤ってこの程度かと溜息が漏れそうになったが、最後ぐらいは勇猛な死でもって彩ってやるべきかと、戦士を称えるべく口を一文字に結び、こちらも殺気を飛ばす。

『ギッ!?』

心臓でも止まったかの様な呻きを上げるが、知った事か。

周囲から襲い来る猿共は先程の要領でカグツチに任せ、振るうのはただ一撃。

『・・・・・・・』

一瞬にして刈り取った百近い獣の気配。

先に見せた部下たちはブラフでしか無く、背後から迫るこいつらが本命であった事は明確。あちらも交渉とみせた策だったのだろうが、熱を感知するカグツチの前では策にすらなっていない。

そもそもこの能力を下さった主様いわく。

「クロのカグツチには火の魔法を補助するだけじゃなくて、熱を感知するサーモグラフィーみたいな面白い性能もあるから、慣れると色々使えるよ」

と簡単に語っておられたが、使ってみれば異常な性能に舌を巻くばかり。

こんなものがあれば、ゲリラ戦が得意なエルフ達は全滅するのでは無いかと、思うのだが、あの方にとってはそんなもの。

これはさすがに考えすぎかと思っていたが、現に似たような戦術を行う猿共には最悪な結果をもたらしており、夢想が現実になることは言うまでもなかった。


『なん・・だ・・・その・・ちから・・・・は』

理解不能な現象に猿の王は地団駄を踏む。

こちらとしても理解できないのは同様なので、申し訳ないとは思いつつも。

「相手が悪かったな」

とだけ宣言しておいた。

『・・・・そんな・・・・こと・・で!!』

「納得はできんだろうな」

狂乱しながらも最後の抵抗と、迫りくる猿の王へこちらは前へ掲げた左腕で応じる。

『ギィイイイ!』

絶叫と共に右腕を振るうが、龍牙にとってそれは障害になりえない。

まるで溶けたチーズの様に溶解していく化け物の右腕。

手刀の型で応じてみたものの、敵として戦うことすら許されない戦力差に哀れみすら感じてしまう。

『ば、ば・・・かな』

策に溺れた王の末路としてはこんなものなのだろうが。

「最後は虚しいものだな」

せめてもの手向けとして魔石をむしりとるなり、首を跳ね飛ばす。


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