神々の剣
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「お嬢ちゃん達、そんなに掲示板を見て何してんの?」
「色々依頼があるんだなと、思っただけですからご心配なく」
新参ものの癖に冒険者ギルドに入るなり掲示板を眺めていたせいで、奇妙に思われたのか、そんな事を言われてしまったけれども俺にとっては必要な情報を集めているだけなんだが。
「紙の質と古ぼけた感じがするのが塩漬け依頼ってやつかな?」
「恐らくはその通りかと。銅であれば粗悪な紙に書かれた薬草採取にゴブリン退治程度のようですね」
「・・・・やっぱりそうなるよね」
この街に来たところで銅ライセンス程度で狩れる魔獣程度では目当ての魔石には到底届かない。かといって銀や金など上級ライセンスが必要な依頼を受けようにもギルドへの貢献度と年数が必要らしいので、これも現実的では無い。
まぁ、結局のところ依頼内容を記憶して、そこに出没するであろう強い魔物を倒す方が色々と考えた結果、楽だという事に今更至っただけの事なのだが。
「そもそも、冒険者ギルドから馬鹿みたいに依頼を受ける必要が無いって事を気づくのが遅すぎたんだよね」
「確かに言われてみれば仰る通り。地道に探していた過去の自分に言ってあげたいものですね」
「・・・・ほんとにね」
全ては冒険者になれば直ぐにランクを上げれると思っていた事に起因しているのだろうが、クロの容姿も原因の一つなのだと理解してほしい。
前の街での騒動もそうだが、この街へ来るまで街道を歩いていた際も声を掛けられる事など両手の指でも足りない程。
偽装用の眼鏡を身に着けている筈なのに、美のステータスカンストの力は偉大なのか、偽装限界を突き抜けてもはや尊厳破壊レベル。
ここまでの道中ですら、三組程のパーティーがクロを巡って争い、崩壊する程。
なまめかしい動きだけでも魅了する辺り、ギルドでパーティーを組む事など夢のまた夢であり、今も偽装眼鏡とローブの二重防御で何とかなっはいるが、ローブが少しでもはだけたらどうなるものか・・・・。
「・・・・・はぁ」
索敵で周囲を探ってみればそこら中にこちらを伺う男の視線。
俺としても溜息しかでないのだが、元から容姿に優れていた彼女にとっては何時もの事なのかお構いなし。
結局、こういう手しかないのだなと、諦めるのも当然の帰結な訳で。
「んじゃまぁ、近場にあるのからこなしていこうか」
「畏まりました。ここからですと、東西に分かれてしまいますが・・・・」
「そうだねぇ、効率重視で二手に別れようか」
「・・・・・不承不承ですが、了承致します」
少しばかり不機嫌な気もしたが、考えてみれば当然か。
きっとこちらを見つめる連中からクロは追われる事になるのだろうし、不機嫌になるのも道理。
俺としても同行してやりたいが、さすがに目立つわけにもいかないので、ここはクロに泥を被ってもらうしか無い。
「帰ったら何か美味しい物でも作ってあげるから」
紅葉のようにこれで機嫌が治ればいいなと、思ってみたのだが・・・・。
「・・・・・一緒に寝てくれれば許します」
などと俺の気も知らずにそんな事を言われて、心臓が止まるかと思った。
恐らくは女子会的なのりなのだろうが、元おっさんには酷な話。
朝起きて目の前にこんな美人が居たら、それだけで頭が茹で上がる。
どうしたものかと躊躇していたのだが、クロとしても冗談だったのだろう。
「・・・・・はぁ。美味しい料理で許して差し上げます」
と、俺をからかって逃げる様に駆けて行った。
「本気にするところだった、まずいまずい・・・・・」
こういうところがおっさんである根っこなんだなと思ってしまうが、正解の選択肢を引き当てたぞと、意気揚々。
シュミレーションゲームであれば好感度の維持は最優先。
変なフラグを引いてしまえばバッドエンドもありえる訳で、元おっさんにとって女子とのスキンシップは地雷が一杯、危険も一杯。
やり遂げた達成感に『ふぅ~~~』と、息を吐いて目的の場所へと歩み出す。
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「おい、見て見ろよ凄えぞ」
不意にそんな事をパーティーメンバーの一人が呟いた。
何がそんなに凄いのかと思ってしまうが、視線を向けた先には凄いとしか良いようの無い美の化身が立っていた。
「・・・・何だあれ。馬鹿らしい程の美人だな」
無遠慮に下から上へと視線を向けておいて何だが、体のラインは素晴らしいとしか言いようがない。破廉恥なほどに熟れた胸と尻は極上の女である事を示していながら、匂い立つ武の気配がそれらを荒々しく装飾しており、一見して奇妙としか言いようの無いバランスであったが、それが何処か美しい。
まるで一匹の危険な魔物でも見つめている様な感覚さえ覚えるが、きっとこの感想は間違いでは無いのだろう。
「・・・・見てみるか」
違和感を覚えた俺は向けていた視線に力を込め、鑑定を起動する。
すると、何とも模範的な剣士の能力と、最低限のスキルの羅列が見て取れた。
「パーティーなら順当な能力だが、あの感じは他人の力に頼る雰囲気じゃないな。どちらかと言えば上級クラスの上澄みって感じだな」
以前、何度か見た事のある転生者などと呼ばれていた者達に近い雰囲気を感じてしまう。確かに彼等も強者の気配を纏っており、選ばれた人類だとか意味不明な事を言っていたが、実力は本物だった。
事実、塩漬けにされていた高難易度の依頼を片っ端から片づけたのは彼等であり、まさに英雄と呼ぶにふさわしい偉業を為した者達。
故に、彼女がその再来であるならば利用価値も相応に高いという事だ。
「・・・・・力の隠し方が下手なんだろうな。あの身のこなし、上級の剣術スキルかもしくは格闘スキルのどれかか・・・・・能力に関しては身に着けてるローブが怪しいな」
転生者曰く、転生特典とよばれるものがあるらしい。
ある者は地位を得たり、ある者は強い装備。
恐らく、あのローブもその一つ。能力を偽る装備なのだろうが、お世辞にも優秀とは言い難いようだ。
「英雄の再来で、世間知らず・・・・・これは利用するしかないな」
彼女の目線を辿れば目的は一目瞭然。
塩漬け依頼を片っ端からこなして金を稼ぐのだろうが、表示されるランクは銅ランク。パーティーの片方も同じく銅とくれば受ける事はできずに、精々できることは討伐ぐらいなもの。
と、なれば依頼報酬などは放置される訳で・・・・・。
「美味い汁ってのはこう吸うもんだな」
二人がギルドから出ていくのを見計らって、目線の先にあった依頼を紙ごと剥がして受付へとなだれ込む。
「・・・・この二つの依頼、『神々の剣』が受けるぜ」
そう言って暇そうに油を売る受付嬢へと叩きつけた。
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