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自由気ままに生きてみる  作者: 紅龍
旅の始まり
25/53

異文化

「・・・・何となく分かりました」

「では!?」

「・・・・明日で良ければお譲りします」

ずけずけと来るものだとさすがにこれには舌を巻く。

生まれながらにして全てを持っていた者の感覚なのだろう。しかしながらこちらにしてもありがたい。

大量に買ってくれるなら取引の回数を減らすこともできるし、相手を一つに搾ればボロが出る可能性も減る。そもそも金が無ければ魔石を買う事も不可能なので、金稼ぎは急務。

作りたい物を作る為にものむべきかと簡単な交渉の後、街の外で受け渡しをする事になった。


「しかし、何時までカレー作ればいいんだ?」

聖女様が離れてからもカレー屋台には長蛇の列。

カレーの作り方を覚えたクロが常人5人分ぐらいの仕事量でカレーを作っていても常に枯渇気味。

次第に面倒になって土鍋錬成からの販売でテイクアウト販売に舵を切ったが、それでも列は切れる事無く端は正門まで続いており、泣けてくる。

「・・・・シロ様。これは早々にカレー粉などの販売を任せた方が宜しいですね」

「食が貧困な上に、飢えてるからなぁ・・・・一発目がカレーってのはインパクトがでかすぎたか」

前世のポトフに近い料理があったのだからカレーが流行る下地はあった。

ただただ調味料のレパートリーが塩ぐらいだったのだからスパイスの味は喜ばれるのは当然の事。

少々早まったかと思ったが、カレー粉と顆粒コンソメさえ売れれば楽をできるのだから、デモンストレーションとして割り切るべきかと今を堪えしのぐ・・・・・。


「・・・・・終わった」

「終わりましたね」

途中見知った門番のおっちゃんとかも訪れる程に売れに売れて朝から作り続けて深夜まで。

この街で食べた事が無いやつは居ないんじゃないかと思う程に売れたおかげもあって懐は暖かい。

明日には適当に聖女様へカレー粉とコンソメを売りつける事ができるので出店は終了。

勝って行った奴からは惜しむ声も多々聞こえたが、一々作って売るより材料を卸した方が楽だから仕方ない。野菜ならダンジョンの中でゴブリン共が世話をしてくれるのだし、カレー粉とコンソメについても小さな魔石で作れる訳で販売する旨味が無い。


「さすがに出店はもうこりごりだな」

疲れを感じつつ、ばれないように森の中からダンジョンへと戻り、俺はそう吐露してしまった。

これにはクロも同じ思いだったのか。

「・・・・確かに、気持ちの悪い視線だらけで殺意を抑えるのが大変でした」

と、相槌を打ってくれたが、その原因はまた別の要因が含まれている事は確か。

「そうだろうね・・・・」

俺は曖昧に返答するが、内容は明らか。そもそも偽装眼鏡を着けていようともにじみ出る格の違いがそうさせるのだろうと、何となく察してしまった。

クロの場合生物的な格もそうだが、元から美しいエルフという種族が下地にあるせいか、簡単に偽装した程度では隠しきれぬオーラとでも言うべきものが溢れていた。

加えて圧倒的な体のラインがどうしようも無く煽情的であり、鍛えられた肉体による動きは本人の意図とは別に注目を集めてしまうのも当然といえば当然の事。

これについては今更言うのも不躾なので、黙っておくべきかと感想を閉まって意識を切り替える。


「さてと、後は明日の用意をしますかね~~」

「小娘の為に働くのは不本意ですが、致し方ありませんね」

面倒ではあったが錬金術を使わなければ出来ない事だったので気持ちを切り替え作業を行う。

まずもって作るのは容器。最初は透明なガラス瓶にでも入れるかと思ったのだが、さすがにそんなに巨大なガラス瓶は珍しいという事で却下。ならばワインを入れたりする樽ならばどうかとクロに聞いてみると、珍しくは無いとの事だったので、大きな樽を製造中。

「樽を作っていくからどんどん粉とか入れちゃって~」

「畏まりました」

要求される量が分からないので一応多めに作っておくかと樽にして各、五十個。

合計百個ものカレー粉とコンソメ顆粒を作成して、精も魂尽きてしまった。

魔力量にはそこそこ自信もあったのだが多量すぎた。

さすがに一気に作るものではないなと反省しつつ、寝床へと潜り込んだ。


「・・・・それで、こうなると」

指定していた郊外に集まったのは公爵家が運営する商会の方々。

商人が使うようの荷馬車とそれを護衛する者達をのせる馬車とで構成されており、物々しい雰囲気。これだけ大所帯であれば統率も乱れるものだが、機敏に動く様はまるで軍隊のよう。

試しに優秀そうな者達を『鑑定』してみたところ出るわ出るわぞろぞろ・・・と。

「・・・・やばい奴等だらけじゃねえか」

まるで空気のような風貌をした奴ほど強いのか、数値も勇者より高い者までちらほら。

俺としても嵌められたかと警戒してしまうが、聖女様はその事を知らないのか自然体。

こちらへと駆け寄ってきては、にこやかに手を振っており、どうやら罠にはめたという事は無さそうだ。

「お待たせいたしました」

「・・・・いえ、こちらも先程着いたばかりですから」

「お気遣い感謝致します」

始めて会った頃とは真逆な態度に面食らうが、対等な立場であればこんなものなのだろう。

そもそも最初の印象が悪かったのかも知れない。俺としても面倒な奴等に使いつぶされるのは遠慮したかったし、契約を切る為には死を偽装しなければならなかったので、友好的になる筈も無い。

今回の取引にしても本来ならば誰でもよかったのだが、安易に聖女の顔を潰す訳にもいかないので、渋々こうなってしまっていた。

「では、早速ですが・・・・ご希望の品、各五十、合計百樽ご用意致しました」

「百樽も? あぁ、感謝致します!」

俺としても多すぎたかと思ったが、先方にしてみれば多ければ多いほど良かったのか、感謝を述べるなり従者の様な方々が大きな袋を手に歩み寄ってきた。

「ご確認下さい」

手渡された袋を覗いて見ると、そこには額の違う金貨の山。

簡単に数えても金貨で千枚程。前世で貰っていた年収の二倍程をぽんと渡されて戸惑ってしまう。

俺としてはこのまま黙って貰っておきたいが、契約が仕込まれているなんて事になれば後々面倒。

これ以上契約に縛られる人生はまっぴらごめんなので、何の意図があるのか聞いてみる。

「・・・・金額が多いようだが?」

俺の声に聖女はびくりと肩を揺らすが、それも瞬きの間。

息を整えるなり・・・・・。

「お願い申し上げます! どうか、わたくしどもにこちらの品を優先的に販売頂けないでしょうか!?」

などと何とも綺麗な土下座からの大声でもって言い放った。

こちらにも土下座があるんだな、なんて事を呑気に考えてしまったが、思えば聖女に土下座をさせているかっこうであり、不味い状況であると理解して、混乱は強まった。

「・・・・ええっ?」

高飛車という言葉が似合うお嬢様にあるまじき姿に、まったく理解が追いつかない。

助けを求めるべく公爵家ゆかりの者達に目配せするが・・・・。

「どうか! どうか!」

「もう、華麗なくして我等は生きていけません!」

「唯一の楽しみなのです!」

「あれがあれば旅の食事に困らないのです!」

「是非!」

「何卒!」

こちらも助けにはならないようで、聖女にならい平服する者達。

強者の方ならそんな事はないだろうと、勇者より高スペックな方々へ目線をやるが、どいつもこいつも平服しており、役には立たない。

どうしたものかと考えてみるが、結局の話、この世界の食が原因か。

商会として交易を生業にしている彼等にとって、食事が占めるウェイトを甘く見過ぎていた。

大航海時代とまで言わないが、流通に重きをおく商会ならば移動が生活の大部分であろう事は簡単に予想できた筈なのだが、前世の記憶が邪魔をしていた。

この世界ではいまだ常温保存が常識であり、肉や野菜は状態の悪いものを食べるのが日常。

反面調味料と言えば塩と簡単な香草程度。香草にしてもスパイスとまで進化しておらず、生のままあえるのが精々。当然、そんな世界にカレー粉と顆粒スープを持ち込めばこうもなる。

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