カレー
面倒な事になった。
そもそも、こうしてカレーを振舞っているのも想定外。
ダンジョンが無くなった事で機能しなくなった街を見て、ダンジョン産の野菜とか売れるんじゃないか? なんて事を思ったのだが、思いつくまま前世の野菜ばかりを作ったせいか、野菜単品では食べ物だと認識されず飢えている奴等も眺めるばかり。
どうしたもんかと悩んでいると、人に擬態した紅葉が空気を読まずに腹が減ったとうるさかったので、カレーを食べさせてやった結果・・・・・。
「美味いのですなぁ! シチューとはまた別なのですな。パンとよく合うですな」
紅葉には想定外に好評だったのか、周囲に聞こえる程アピールしやがった。
俺としてもこの程度なら慌てるまでも無いかと思っていたのだが、紅葉が食べる事で害は無いと認識したのか、はたまた見知らぬ食べ物だろうと飢えという最高のスパイスには抗えなかったのか、遠巻きに見つめていた奴等も続々と紅葉に続けと口をつけた瞬間・・・・。
「う、うまい・・・・」
「なんだこの味わいは」
「腐った色からは想像がつかない美味さだ」
などなど大絶賛。国民的大人気食品なのだから当然と言えば当然なのだが、食が貧相なこの国では圧倒的。早々に完食した奴等が我先にと群がるさまは餓鬼の群れ。
さすがに撤退すべきかと逃げ出す隙を探っている最中、見知った貴族様が現れ今に至る。
本当にどうしたものかと悩んでしまったが、何故か先方は俺にカレーの作り方を教えてくれと言ってきた。もしやこれは逃げるチャンスなのでは? たしかこの子は貴族の中でも高位の公爵だった筈。ならば作り過ぎた野菜にカレーの粉、ついでにブイヨンやら諸々売りつければ良いのでは? などと頭の中でそろばんを弾いてみる・・・・・もしやこれは最高の計画なのでは?
目立ちたくない俺と目立ちたい彼女。逆に功績など邪魔なだけだし、欲しいのは金。
最高の結果かもしれない。いや、もうこれしか無いなと結論ずけて返答してやる。
「・・・・まぁ、 別に教えるのは構いませんよ」
傍から見ても含みが多量に含有されているだろう胡散臭さだが、聖女様にはバレなかったのか、謎に良い笑顔で・・・・。
「感謝致します!」
と、言われてしまい少々、心が苛まれる。
でもまあ、悪い事をしている訳では無い・・・・無い筈なので問題は無いかと諦めた。
「では、カレー作りを始めていきます」
「か、華麗? 見た目からは華麗とはほど遠いように思いますが、華麗という名前なのですね」
「・・・・ん? まぁ、カレーですね」
「・・・・成る程。それほど華麗という名前が重要なのですね。畏まりました」
やはり異文化なのかカレーという名称に抵抗があるきがしたが、納得はしたようなので進めていく。
「申し訳ありません、不躾ではありますが今だけ先生と呼ばせて頂きますが、宜しいでしょうか?」
「勿論、構いませんよ」
こちらとしても名前を明かしたくはないので、その提案には進んで賛成とばかりに頷き返す。
すると、相手も気を良くしたのか目線をコンロに向けて頭に疑問符を浮かべたようす。
「失礼かと存じますが、こちらは何なのでしょうか?」
一応眼鏡と同じく偽装済みとはいえ、この世界では存在しない魔力コンロを見られてしまいどうしたものかと一瞬悩むが。
「これはダンジョンより手に入れた魔道具でして、魔力を糧に火の魔法が使えるのですよ」
と、もっともらしい言い訳を展開してやった。
一応、ダンジョンで俺が作ったのは本当だし、それに近い魔道具とやらも紅葉のダンジョンにはあったそうなので嘘では無い。
「・・・・そうだったのですね。確かに似たような物を何処かで見た記憶があります」
内心『ほっ』と安堵の溜息を吐いて心を落ち着かせつつ作業を再開する。
「ではでは、作っていきますね。まずこの野菜はタマネギと言いまして、これをこの様に細かく刻んで油で焼いてやると甘味がますんですよ」
「・・・・見た事の無い野菜です。やはり、普段食用に使っていないものしかないのですね」
聖女様は些か曲解しているのか、どう答えるべきか悩んだが、素直に前世の野菜ですなどと言える訳も無く、他国だと普通に食べますよと言いくるめた方が今は楽かと難しい設定を諦める。
「いえいえ、これは普通に食用ですよ。ただ、こちらの国ではめったに見ません。私も旅の途中に他国で仕入れた物ですので、当然この国だとまったく売れないもので・・・・まぁ、ですから大量に安く提供できた次第です」
少々無理があるかと思ったが、相手は世間知らずの聖女様。
出された物をただ漫然と口にいれていたのだろうか、疑うことなく。
「それはそれは、幸運と言うべきでしょうか」
と、幸せそうな笑を浮かべており、俺としてもしてやったりと言葉を返す。
「そう言って頂けると助かります。普段であれば口にする機会も無かったでしょうから」
「・・・・そうかも知れません」
思っていた事を口に出した訳では無いが、何となく察してしまったのか些か意気消沈気味。
話題も無いので逃げる様にタマネギを手に刻んでいると何故か包丁に興味があるのか謎の視線を感じた。
「その刃物ですが・・・・これも何処かで見た事があるような・・・・・」
「まぁ、包丁はどこも似たようなものですから」
「いえ、金属の色と言えばいいのでしょうか? でもあの金属だとしたら包丁に使う筈無いわよね」
錆びず折れず曲がらないという魔法の万能包丁。
やはりというか特殊な金属らしく聖女の歯切れも悪く感じる。
材料の金属に関してはクロがダンジョンから出てきたと言っていたので見た事があるというのは気のせいだろうが、高価な魔法金属を何でもかんでも使うのは注意するべきかと認識を改める。
鑑定からしても相当貴重な鉱物であった事は明白なので、それを包丁に使うなどクロを馬鹿にしも同然だったのでは無いかと今更ながらに反省し、認識阻害眼鏡をかけた当の本人に視線を向けたが・・・・。
「・・・・・あわわわわ」
などと言いながら眼鏡がずり落ちそうになる程、肩をガタガタと怒らせ、カレーをかき混ぜる恐ろしい姿が・・・・。
予想通りと言うべきか、聖女の発言に怒りを思い出したのか鋭い殺気を感じるほど。
これ以上は俺の心が耐えきれはしない。
そう、決して逃げる訳では無いが、謝るにしても今では無いかと視線を次なる野菜へと向ける。
「さ、さてさて次はニンジンという野菜をきっていきますよ~~これも焼くと甘くなるんですよ~~」
「こちらも見た事の無い野菜ですね。でも似たような野菜は常用の物であったような気もします」
「基本的にはポルトでしたっけ、野菜の煮物にカレースパイスなんかを入れたら大まかには完成なんですけどね」
「華麗スパイスですか? 成る程、成る程。それは簡単ですばらしい事ですね」
そんな事を語りつつ手早く炒めて水を張り、煮詰める事10分。
「野菜も柔らかくなったのでカレーの元を入れていきます」
そう言ってカレールーを手にしたのだが、向けられるのは危険だと知らせるような視線ばかり。
何となく原因は分かってはいるが・・・・・。
っていうかそもそもお前等食べてるだろうがと言いたくはなった。
「問題は無いのでその表情は止めて下さいね」
「・・・・・分かりました・・・・・・これも神の試練なのですね」
急に悲壮感出すの止めてもらっていいですか? 急激に気持ちが萎えるのを感じるが、色々と面倒なので強引にルーをぶち込み、混ぜていく。
鍋底を焦がさないように追加で10分煮ておけば・・・・・。
「カレーの完成です。どうです、簡単でしょう?」
「・・・・確かに。ほとんど焼いて煮るだけなんですね。それにこれなら冒険者の方々にも飛ぶように売れてしまいますわ」
「そうなんですよね。ですのでこの国で広めようと思っているのですが・・・・・」
本当はそんな気は無いのだが、一応そう言っておくかと社交辞令的に声に出したのだが・・・・。
「・・・・・買います。買わせてください・・・・・あるだけ全部!」
「・・・・はい?」
殺気と見紛うばかりの空気感に些か引いてしまうが、聖女の決意は本物のようで決断を渋っているのを見抜いたのか・・・・・。
「身分を隠しておりましたが、わたくしはこの国の次期公爵ですの。ここで話すのも本来あってはならない事ですが、信用の証としてお話致します。公爵家は代々聖女のクラスを輩出する名門でして、聖女には特性として困窮する人々の願いを知るという能力が御座いますの」
「・・・・・はぁ」
「言い方を変えれば、どの地域で何を欲しているかが分かるという事です。つまり必要な物を高値で売りつける事ができてしまうという事です。我ながら恥ずかしい話ですが、そうした能力を使い、公爵へと成り上がった末裔がわたくしたち。元より商機には目が無いのです。この華麗スパイスなるものはわたくしの人生において出会った事の無いほどに商機に満ちた商材ですの。これ程に素晴らしいものがあったでしょうか? いえいえ、御座いません。わたくしの聖女としての能力が訴えております。限界まで買いなさいと・・・・」
「・・・・あぁ・・・・はい」
何とも残念と言いたくはなったが、公爵家がこの国で最高の商会を持つに至った理由を知って納得してしまったのも事実。恐らくはこれも『鑑定』に近い能力であり、感じているのは統計学みたいなもの。恐らくは人々が何を欲しているのかを未来まで含めた上で直感的に認識する能力。
民を導く為政者にとっては喉から手が出る程に欲する力であり、公爵という地位まで昇りつめる程には重要視されているのも当然といえば当然の事か。
能力の使い方としては褒められたものでは無く、些か卑怯な使い方だと思うが、国防を最優先に考えれば国を守る聖女と言えなくもないのか?




