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自由気ままに生きてみる  作者: 紅龍
旅の始まり
22/53

準備

「それじゃあ食べようか」

そんな言葉を皮切りに待ってましたとリス野郎が大慌てでシチューを頬張る。

「・・・・熱いですなぁ」

まぁ、そうなるよな。粘度高めのシチューをリスが口いっぱいに頬張れば熱いのは当然。

最初は警戒してパンにつけながら食べればいいものを我慢できなかったのか無警戒に口に入れるのは信頼の証と解釈すべきか? 何にせよ元から化け物である事には変わりないので、熱いと言いつつもダメージは皆無。途中からパンと一緒にガツガツと喰い散らかしながら空いた皿をこちらに差し出し・・・。

「もっとくれですな」

と、ご好評な様子。手慰み程度、褒められた料理の腕では無いが、純粋に喜んでくれるのは嬉しいもの。寸胴なべ一杯に作ったシチューをせっせと皿に盛ってやる。


「やっぱり美味いものは幸せだね」

紅葉程では無いが、シチューへの感動はひとしお。

こっちに来てからというもの、ちゃんとした飯を食べた記憶すら無い。

そもそもの話、奴隷の身分で美味い飯を食える訳も無いのだが、それにしても酷すぎる。

紅葉と同じく無言でシチューを喰らうクロを見てもそうだが、この世界は戦う事に重点を置きすぎているのだと尚更感じてしまう。


やはりこれはエルフの国に行っても食事は期待できないなと感じつつも、それなら作れば良いかと諦めを通り越して達観してしまった。


「・・・・お腹一杯で苦しいですなぁ」

リスから大福へとフォルムチェンジした紅葉が地面に転がりながらそんな言葉を呟いていた。

それだけ食えば当然だろうと言いたくなったが、一応はダンジョンの主なので文句は控えておく。


「・・・・色々と試してみたいが、これ以上は魔石が足りないな」

「魔獣から取り出すにしても魔石が大きくなるまでは時間がかかるものですからなぁ」

「そうなんだよなぁ・・・・」

単純に魔力を固めれば魔石が作れるのかと思っていたが、ダンジョンの場合そう簡単では無いらしく、魔獣が産まれても使える魔石が育つまでは相応の時間が必要なのだと判明した。

新しい錬金術を行使するにあたって魔石は必要不可欠。これから先の事を考えれば圧倒的に数が少ない。元から想定していた供給量を賄うにはここから出なければならず、当初だらだらと生活するつもりが、早々に悠々自適な生活は破綻しかけており、その事が俺を悩ませていた。

そもそもの悩みの種はダンジョンの主との約束。

美味い飯を作ってやると確約したのだが、魔石が無ければ新しい食事を振舞う事は不可能。

簡単に作れる肉を塩で焼いただけのものはここ数週間で食いつくされており、新たな調味料が無ければ契約の破綻を意味する。

本来、俺としてはだらだらと生活できれば良かったのだが、そこは人間の性と言うべきか一度楽な生活になれてしまうともっと楽をしたいもの。

前世の快適さを知っているだけに悶々としてしまうのも本当の事。


「どうしたもんかなぁ。そろそろ外に出ないと魔石が枯渇しちゃうんだよなぁ」

自身の成長もそうだが、前世の生活水準を取り戻すにはまだまだ色々と足りないものだらけ。

結局のところこもりっぱなしで魔石が出来るのを待つよりも外に出た方が圧倒的に楽なのもので、選択肢ですら無いのだが・・・・クロがどう思うか。

民主的な合議制などと今更だが、強権政治などもってのほか。

まだまだ死にたくないので、どう伝えるべきかと悩んでいたところ・・・・。

「・・・・・具申、宜しいでしょうか?」

俺の顔を見てか、シチューを食べ終えたクロが唐突に手を上げていた。

俺としても意見があるならば聞いてみたいと思っていたところ。

首を縦に振り、先を促してやると、疑問に対する答えとばかりにすらすらと言葉を述べた。

「当初の目標通りダンジョンの主懐柔計画は完了されたかと思われます。ならば頃合いをみて予定通り外に進出なさるべきかと・・・・」

「・・・・おぉ?」

農作物を育てたり、牛や豚を育てるスローライフ。のんびり牧場生活は長いタイムスケールを持つエルフにとってはここでの生活は本意だろうと思っていたが、渡りに船。

元はクロを強引に納得させるためについた嘘。

架空の計画ではあったが、今ならばその全てが合致するかと考えてみると・・・・。

丁度いいんじゃないか? これ以外のタイミングは無い気がする。

だが、忘れていた言い訳はどうする? 色々な言い訳を思いついては死ぬ未来が見えて慌てて取り消す。これでも無い、あれでも無い・・・・・どうしたものかと考えている間にクロの怪訝な顔を見て、最低最悪な言い訳が口から洩れた・・・・。


「・・・・・そ、そうだね。クロも回復したし、そろそろかなって思ってたんだよね」

やってしまった・・・・。

さすがに苦し紛れな言い訳すぎるし、この選択は無いだろうと、内心冷や汗も垂れる・・・・が。

「大変申し訳御座いませんでした。矮小なわたくしの身を案じての事だとは露知らず・・・・・」

などと解釈してくれたらしく、俺は隠れて安堵の吐息を吐き捨てた。


「んじゃまぁ、変換炉からの魔力供給も充分だし、外部端末の素体としては地龍の体を使えば解決するっぽいので問題無し。これにより予想よりもかなり簡略化に成功したっぽいので、後は紅葉次第だけど・・・・」

「僕は問題なしですな。外にでて美味という美味を食いつくすのですな! 早くやれですなぁ」

貧困な食のレパートリーに飢えていたせいか、優先順位は何時もそれ。

説得が容易だと喜ぶべきかは置いておいて、最大の障害は既に無いかと安堵する。

「それじゃあ、やってみますか」

目の前に鎮座する地龍に手をかざし、紅葉の形そのままに同一化させていく。

「おおおおぉおお? 体が引っ張られるですな!」

紅葉はそんな軽口を吐くが、こっちはそんな余裕は無い。

規模的に人とは違う巨大な構造物であり、脳に流れてくる情報は膨大。

リスっぽく馬鹿みたいな風に見えても中身は怪物。クロに比べても数倍に及ぶ情報量に脳が悲鳴をあげるが、そこは事前に準備済み。

「思金神、情報並列処理開始」

起動言語でもって呼び起こしたのは魔石の解析により生まれた疑似仮想人格。

前世風に言うならば情報用OS。その本体は第二の脳とでも呼ぶべきか、独自精製した魔石を体内に埋め込み、無理やり構築させたでっちあげPC。理論などあったものでは無いので、都度都度調整は必要だが、動くぶんには問題は無し。多少強引ではあったが、脳が破裂して死ぬよりはましなので諸々諦めて魔力を回す。


『・・・・・情報体構築率70・・・・80・・・・90・・・・・』

仮想人格思金神が情報を読み上げるのと同調して地龍と紅葉の体は粒子へと変換。

再度、粒子が集まった先には残念な見た目の紅葉だけが構成されており、カッコイイ地龍はどこへやら。

『・・・・・100。構築完了』

完成形であると示された先には案の定、緩い顔で此方を見つめる紅葉の姿。

どうしたものかと悩んでいると・・・・。

「うぉおおおおおおおお。力が・・・満ちあふれてくるですな」

まったく何処のバトル漫画だと言いたくはなったが、紅葉にそんな知識がある筈も無いので、素直な感想なのだろう。

「・・・・・これが主様の仰っていた武者震いですか」

同意するクロの姿にのりが良いなと呆れるばかりだが、如何やらこちらも率直な感想か、頭が痛い。

「ふっふふふふ・・・・僕の時代がやってきたのですな! 愚民どもよ、ひれ伏すのですなぁ」

小動物が何を言っているのかと頭痛が増していくが、『鑑定』で見たところ数値は確認できていた地龍よりも上なのかエラー表示。馬鹿げた話だが力が溢れるというのは本当の事のようだった。

「楽しんでいるところ申し訳ないが、外に出ても大丈夫そうか?」

「・・・・問題ないですなぁ」

返答は軽いものだが問題があれば中止すればいいかと考えるのを放棄しつつ、紅葉経由で外への扉を開くべく力を込める・・・・と。

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