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自由気ままに生きてみる  作者: 紅龍
旅の始まり
19/53

約束

「・・・・・・・・・」

予想通り美味しそうな肉。クロが押し黙ったのも当然の事で、人は美食の前では等しく口を閉じるもの。道中見つけた岩塩をゴリゴリと削って振りかけてやればそれだけで鉄板ステーキの出来上がり。本当は醤油やにんにくでもあればいう事は無いのだが、塩だけでも格別。

元が良いせいで油さえも最高のアクセント。

ジュウジュウと音を立てる牛肉にクロの視線は突き刺さる。

「中まで火を通すのもいいけど、レアでもいけそうだし、もう食べてもいいぞ」

そう言うや否や、差し出したフォークを掴むと肉を頬張るクロ。

「・・・・・おむみぃです」

多分、美味しいとかそういう言葉なのだろうが、脳内を駆け巡る美味に対応できないのか支離滅裂。

咀嚼するというよりも飲み込んでいるというのが正しい光景に対し、どんどんと肉を焼いていくが、追いつく訳も無い。途中からはほぼほぼ生肉を齧り出す辺り、この世界の住人なのだと思い知らされるが、まともに飯を食べたのも久しぶりだったかと思い出す。

「無理がきくせいで忘れてた」

食わずとも耐えられるせいで忘れていたが、元よりこの体はカロリーを消費する。

そもそも巨大生物やらモンスターやらに真っ向勝負を挑むのだからエネルギー消費は跳ね上がる。

今までは恐らく、マナとやらを無意識に食っていたのだろうが、ここはダンジョン。

ダンジョン内のマナなど恐らくはダンジョンが取り込んだものに限られるのだろう。

つまり外界から遮断されたこのダンジョンと呼ばれる箱庭では思う様にマナで肉体を保持するという離れ業は不可能であり、結果として食で補おうとしているのだろうと、予想がついた。

「それで腹が急にへったのか」

ステーキに成り下がった牛肉を鑑定で凝視すれば一目瞭然。

保持する魔力量が記載されており、魔力をエネルギーとする俺達にとっては必要不可欠。

ダンジョンも化け物を無から産み出している訳では無く、ちゃんとしたエネルギーを生物に変換しているのだろう。当然、ダンジョン側はそのままでは回収が不可能なので煙の様に変化させて回収しているのだろうが、切り離してしまえばこちらの物。ダンジョンの体内で俺達が化け物共をもりもり食ってやれば、自ずとダンジョン側のリソースは枯渇する。

「・・・・・・・割と簡単に倒せるかもな」

途方もなく強大な敵かと思っていたが、現実的。

火を燃やせば酸素が消費されるように、ダンジョン内を二人で暴れ回れば殺せてしまうなと結論が出てしまった。

「この調子だと二日あれば倒せるね」

「・・・・・肉は美味しいです」

今まで処理された肉を食ったことが無いのか、減っていく肉を前にクロが悲しそうにそんな言葉を漏らすが、仕方ない。

「だってねぇ。あっちは殺す気だし、会話も出来ないとなると倒さないと・・・・ねぇ?」

「味わって食べます・・・・」

何処となくかみ合わない会話。こちらとしては早々にけりをつけたいのだが、何故だか惜しむ声。

涙ぐみながら一口一口食べるクロ。何処となく哀愁を漂わせるが、これも俺が生きる為。

この世界には無いであろう肉の熟成技術。肉はその場で殺して食うのが一般的な世界で保存とは劣化と同じ。腐らぬように低温で熟成させるなど冷蔵技術が発展してからの話。

血抜きすら行っていなかったことから焼いて食うのが精々。

俺も何度か肉を食ったことがあったが、そのどれもが血生臭くて食えたものでは無かった。

つまるところ美食とはほど遠く、美味とは素材そのままの味でしか無い。

「そうだね、次はいつ食べられるか分からないからな」

「・・・・・・はい」

そう、これこそが美食の力。美味かろう、次も食べたいだろう、俺を殺す事は止めようと思うだろう。

美食を味わった者は不幸である。今まで食に興味がなかったであろうクロにとってはまさにそれ。

俺にとっては殺されない為の布石であったが、かなり効果があったようで内心もろ手を上げて大喜び。胃袋を掴むのが勝利の鍵と何処かで聞いた事があった気がするが、皆が皆食文化が乏しい世界で良かった。

肉を低温で熟成したり血を抜いたりは戦いに不要みたいな思考で本当に良かった。

もしや王都だけが食に貧困なのかと常々思っていたが、この街に来た事で確信した。

この世界の食事は不味いんだと。

これならば勝てる! 俺には多種多様な調味料が作れる。

クロの胃袋を掴んで、食の奴隷にしてやれば俺の命は安泰。

これこそが俺の導き出した生存への方程式。

「・・・・・次も食べたいです」

あれ程あった肉を平らげたにも関わらず、次も食べたいと要求する姿に俺は確信する。

落ちたな・・・・と。

「はっはははは。次は鶏肉を焼いてやろう」

「・・・・鶏肉、こちらも美味しすぎます」

「そうだろう、そうだろう」

ダンジョン内で馬鹿げたバーベキューパーティーだが、腹が減っては戦はできぬ。

もりもり食べて英気を養い・・・・・当然、眠る・・・・・。


「餌の分際で僕を食おうだなんて許せんのですな。何が美味しいのですか、僕が作った魔獣ですよ、食べ物では無いのですな・・・・・」

変な二人組が離れた場所で寝静まるのを確認して、ダンジョンたる僕は切り刻まれた配下(肉)に手を合わせるてみます。

「こんな姿になって・・・・何とも・・・・そう、美味しいとか言ってたやつなのですなぁ。美味しそうなのですな。人ばっかり食べてたですから違う肉に興味ありますな。焼けた匂いは生肉とは違うのですな? 塩っていうのも前に冒険者がもってた塊なのですな。何に使うのか分からないです岩塩とやらにして放置してたのですが、食べ物に使うですな?」

何だか良くわからないですが、二人組が使っていた剣の上に肉を置いて、肉に振りかけて焼いてみます。

「匂い良いですな!」

生とは違う焼けた匂い。火の魔法で焼けた人間とは違う美味な匂いに鼻がひくひくします。

「食べるです・・・・・・・なっ? これは毒ですな? 食べた事ないですな。口から汁が溢れる、人間の味、食べ物じゃないですな・・・・・酷いです・・・・・・泣けてきますですなああぁ」

人間を食べろと言われてたのにこの肉は美味しいのですな。

これを食べた後に、あんなゴミを食べるのは拷問ですな。目から汁が出るのです、食べたくないですな。

「・・・・・もっと美味しいとやらの肉食べたいのですな! どうすれば食べれるです? もっともっと食べたいですな・・・・・」

美味しいという事しか考えたくないのです。もうそれ以上はどうでもいいのですな。

ダンジョンとして成長する為に人を食うなんてもう耐えられんですなぁ。

美味しいものだけを好きなだけ食べたい・・・・・食べたい食べたい食べたい・・・・・。

「・・・・・あぁ、僕は壊れてしまったのですな」


「面白い程に引っかかったな」

ダンジョン内の会話はあちらに筒抜けだろうと警戒心を煽った結果、ダンジョンの主であろう者が早々に現れた。こちらとしては相手の戦力を消耗させてから釣り上げるつもりだったか、予想よりも早く終わりそうだと拍子抜けしてしまう。

触れれば弄れる俺としては、弱点だらけのダンジョンなどすぐさま攻略可能だったが、意思があるならばもう一つの可能性も生まれてくる。

「・・・・本当に、仲間になさるのですか?」

焚火を挟んで向かい合うクロが小声で心配そうに問い掛けるが、出来る事なら仲間にしたい。

このダンジョンとやらを見れば分かる通り、次元の違う場所に作られた一つの異界だ。

大きな通路や、洞窟のような場所、休憩所のように不自然に開けた歪な作り。

そのどれもが他者の意思を感じさせるものであり、自然の造形としては不自然。

つまるところ主により手が加えられた世界であり、逆を言えば手を加えられる世界だという事。

「勿論。移動式の住宅とか誰もが欲しいからね」

「・・・・シロ様の力ならばあの者を土地に縛られたダンジョンから昇華する事が可能だと?」

「鑑定で見た感じだと不可能では無いかな。それにはあの子の協力とクロ、君の協力も不可欠だけどね」

「・・・・成る程、それ程に魔力リソースが足りませんか」

「まぁ、規模が規模だけにね」

元よりあちらの協力があったとしても魔力不足。クロを作ったときも思った事だが存在の器と言うべきか、化け物クラスを生まれ変わらせるとなるとこちらもそれ相応にリスクを負う。

今まで倒してきた冒険者やそこらの奴等とは根底からして違う異質な存在。

生物として認識するのかすら危ういダンジョンと呼ばれる怪物に対して、二人で当たったとしても賭けになるだろうと予想がついた。

「それに毎日、警戒しながら寝るとか楽しくないしね」

「・・・・・承知致しました」

渋々承諾を得たことで腹の内は決まった、ならば後は動くのみ。

相手を警戒させない為にもゆっくりと起き上がり、未だにむしゃむしゃと肉を頬張るリスの如き生物に対して、声をかける。

「やぁ、美味しいかい?」

「っぶ!?」

気管にでも詰まったんじゃないかと思う程にむせる小動物。

捨てれば良いのに肉は渡すまいと両手で抱える姿からは強者としての風格は感じられず、口内に含んだ肉を咀嚼する様は緊張感の欠片すら感じさせない。

「に、肉はやらんですな! この美味は僕のですな!」

必死の形相と言うべきなのだろうが、動物の表情は分からない。

殺気のようなものは感じるが、それにしては緩い。恐らくは意識の大半を肉に向けているのでは無いかと思えるが・・・・それでいいのかダンジョンの主。

「・・・・美味いだろ?」

予想外な食いつきを見せつけられて、俺は笑みを浮かべて声をかける。

「う、美味い・・・美味いです・・・・な」

カリカリカリカリと肉を頬張りつつ答える様子はペットに近い。

基本的にあいつらは食事が最優先。飼い主の言葉なんかは二の次、三の次。

邪魔者扱いされる訳では無く、会話が成立している辺り、理性も高そうだと懸念材料が一つ減ったことに胸を撫でおろす。

「なら・・・・もっと美味いものを食いたくないか?」

俺の問い掛けに対してそれは唐突に頬張る事を止め、理解不能と動きを止めた。

「・・・・・もっと・・・美味い・・・・ですな?」

熟成されたステーキ肉に思考のほとんどを破壊された上にこの仕打ち。

ストレスで動きを止めるハムスターの如く茫然と固まったそれは、暫く停止した後・・・・・。

「・・・・聞いた事があるのですなぁ。もしや貴女が神ですな?」

などと意味不明な結論を叩きだし、平服し始めた。

「もう人間とかいう不味いの食べたくないですな。美味いの嬉しい、喜びですな!」

こいつがどれ程の時間、そんな事を繰り返してきたのか知らないが、食べ物を人に限定されればそうもなる。人間を食べ、人間を糧とし、自己を強化するという存在定義など破壊するのは容易い事。知性があるならば他と比べるのは当然であり、決着としては想定通りと言うべきか。

「ふむ、良かろう。貴様に食を提供しよう・・・・だが、その代わり」

「・・・・ですな?」

「俺の部下になれ」

「・・・・・部下・・・ですな?」

またもや意味不明と固まってしまったが、こちらに関しては説明は簡単。

「俺の旅について来ればいい」

「・・・・・そうは言っても僕はダンジョンですな? 動けないですな神様」

「そこは任せろ。何とかなる・・・・で、どうする?」

当然、考えてもみなかった事態に首を傾げて悶々と唸りを上げる・・・が。

「それなら、僕の中で一番強い子に勝ったらついていくですな!」

単純明快。強者に従うならば本望とリスっぽい主は提案するが、こちらも予想済み。

提案に対して軽く頷き、最恐の手札へと命令を下す。

「交渉は問題なく完了した。後は、任せても?」

「・・・・お任せください、我が主様」


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