プライド
「誰だ!」
気配を絶っていようとも声を上げればばれてしまうのは当然の事。
普段であれば瞬時に身を隠すこともできただろうが、物思いに耽っていた為にこの結果。
とはいえ認識阻害のローブを身に着けている為、人かそうでは無いのかすら認識できてはいない筈。これ以上の失態はしなくてすむかと内心安堵の吐息を漏らす・・・が。
「気をつけて下さい。あのグローブから感じるのはミノタウロスと同じ魔力波長。先程の者と無関係な筈がありません。それに素晴らしいという発言、実験であったかと」
「・・・・実験? ならば魔族の魔物使いか?そしてあれが触媒か・・・・」
「であれば近距離は不得手」
「光よ!」
各々が即断即決。此方を敵として認識するなり攻撃に移るまで一瞬。
流石にそれはどうなのかと思ってしまうが、人族が悠長に構えるなど自殺にひとしい。
種族的に優秀なクラスとスキルを得ていても肉体としての基礎能力は魔獣には敵わない。
当然ながら泰然と構える余裕などあるわけが無く、戦い方として教わるのは甘えを消せという事。
弱い種族であり、数に頼った戦い方でもって工夫するのが人族の戦いであり、敵とみなせば全力でもってこれに当たるのが一般的。
つまるところ、彼等の行為は誰の目にも一般的な行為である為、主の行為に慣れてしまっていた自分自身が間違えていたのだと再認識する・・・・が。
「遅すぎる」
戦闘状態へと気持ちを切り替えるなり発動する思考加速。
主様の手によって化け物へと作り変えられた最高の一品であるこの身に宿る力の一端。
音速に近い速度で迫る、光の爆発に対して構えた右手でもって軽く振りぬく。
「・・・嘘」
それだけで光の塊は粒子となって儚く消え去る。
「っち! 近接も得意ってか」
苦々しく勇者とやらがそんな言葉を投げ掛けつつも剣を横薙ぎに振り払う。
「聖剣よ! 俺に力を!」
斬撃に遅れてやってきたのは眩い光。
触れる者を焼き尽くさんとする熱量を発する斬撃に対して、どうしたものかと瞬きにも満たぬ間考えてしまうが。
「・・・・防御膜で受けるか」
この体になる前であれば選択肢にすら上らないが、今は別。
怪我を負ったところで死ぬ事も無し。自らの防御力に対して疑問を持つよりもどれ程であれば無視できるのかを知る方が有意義かと目を閉じ腕を組み・・・・棒立ちを選択する。
「馬鹿が!」
何とも酷い言われようだが・・・・はたして・・・・・。
「・・・・・馬鹿な」
漏らした言葉は似た言葉だが、込められた意味は真逆。
目を開いた先には剣を横薙ぎに握りしめた勇者の姿。
予想通りというべきか、勇者の剣は腕組みした胴体では無く、防御の薄い首筋へと当てられており、些か冷たい金属の感触が肌を刺す。
「弱点を狙うのは良いが、これ程の硬さとは予想外だ。浅く切られるぐらいは覚悟していたがまったく問題なし・・・か」
結果だけみれば上々だったが、無敵であるという事は予想外に相手の精神を壊すものか。
「っひぃ・・・・・・っひぃいいい」
手にした剣をガタガタと震わせ後ろへと後退する勇者。
勇気の名を冠する割にお粗末だと笑ってしまうが、仕方がない。
元より攻撃力こそが彼にとっての自信だったのだろうが、真っ向からへし折られた為、この醜態。
他の者達も瞬時に考え方を勝利よりも撤退へと切り替えたのか、物理的にも後ろへさがる。
「・・・・・ご提案があるのですが」
「賢者殿、何を!?」
賢者と呼ばれた者がそう発言し前にでる。勿論、こうした行いに対して前衛であろう女は制止を促すが、賢者にとってはそれこそ邪魔か、前に出ようとした女を遮るなり提案とやらを発した。
「先程、貴方様は素晴らしいと仰られました。然るに実験の結果はもう出ていらっしゃると推察致します。我々が死ねばライセンスを通して国にその結末が知られてしまいます。必然、貴方様の実験場は荒らされる事となるでしょう。そうなれば双方共に少なくない犠牲を払う事になるのは目に見えております・・・・どうかここは我々を見逃しては頂けませんでしょうか?」
ぺらぺらと良くしゃべるものだと関心してしまうが、ライセンスの件は本当の事だろう。
恐らくは我々が持つ銅のライセンスなどとは比較にならない程高価なもの。
然るに機能としても何があるのかは不明。ここでこいつらを殺すのは簡単だが、それを行った場合のメリットなど皆無であり、デメリットは目を覆いたくなる程。
つまりは考えるまでも無いのだが、このまま逃がすのもそれはそれで要らぬ誤解を招く。
「・・・・・貴様達の命、ならば幾らだ?」
「貴様、金を寄越せと言うのか!」
馬鹿なのか、剣を佩いた黒髪の女が未だにそんな事を口にするが、後衛二人は震えたまま。
残りの勇者でさえもそんな光景を眩しく眺めているが・・・・。
「眠れ」
左拳を軽く顎に当ててやればこの通り。
面白いように意識を刈り取られた剣士風の女はその場で崩れ落ち、辺りは静寂を取り戻した。
「・・・・それで?」
問い掛けと同時に何処かで水滴が落ちる音が聞こえたが、無視をして話を続ける。
「な、仲間の無作法・・・も、申し訳ご、ございませ、せ・・・ん」
「お、お許しを」
「っひぃいいいいい」
三者三様の有様に溜息が漏れそうになるが、仕方ない。
回復までまってやるかと勇者とやらを睨んでいると・・・・。
「こ、これ! これ、さ、差し上げます! ど、どうか命ばかりは」
などと意味不明な言葉を放ちながら金の鎧を脱ぎ始め、こちらに向かって差し出した。
「何だこれは?」
恐らくは魔法の金属で作られた鎧なのだろうが、暗闇で光るなど馬鹿の極み。
自ら狙ってくださいと言っているものであり、これを作った奴は頭がどうかしている。
こんな物を渡すなど舐めているのかと拳を握ると・・・・。
「あ、貴方様にとってはさぞ愚かに見えるでしょうが、元は魔法金属。多種多様な実験にもご使用頂けますし、何より溶かしてしまえばそれだけで価値も御座います。何分、一番高価な装備ですので、ご容赦の程を・・・何卒」
賢者とやらの必死の訴えにそういうものかと納得してやる。
そもそも殺す前に手打ちにするつもりであったし、戦果も充分となればこれ以上は面倒。
主様との繋がりも徐々に強くなっている事から、発覚したときの言い訳を考えれば頭の痛い話。
構うだけ時間の無駄かとローブを翻して、その場を離脱した。
◆
「ッハハハハハハハハハハッ! 何なんだあれはっ! 想定外にも程があるだろが」
壊れたかの様に笑う勇者の姿に、私も生きているのだと心臓は高鳴る。
「・・・・・切り抜けた。もう、あんなギリギリの交渉はしたくありません」
そもそも最初は簡単な仕事であった筈なのだ。
研究資金を得る為に参加しただけにすぎず、元より公爵家とは遠縁であり、不出来な跡継ぎに代って金で雇われただけ。道中、勇者の子供でも身籠れば手当が増える契約であり、研究ができれば問題は無い私にとっては文句なし。とても良い旅路になる筈がこの有様。
「何なんですか・・・・・あの魔力量、信じられません。人の身であれ程の魔力を捻出すればそれだけで死んでしまう筈。人では無いとしてもどの種族に可能なのか? 仮に出せたとして、マナをどれ程取り込めば・・・・・そもそもそんな事をすればマナ中毒で体は腐りだす筈です・・・・・」
あり得ない現象に私にできたのは頭を抱える事のみ。
答えを導きだそうと思考は回転するが、どうにも空回りしている感覚が拭えない。
思考の出口を探ろうと横にへたり込む聖女へ目配せする・・・が。
「生きているのですから、宜しいのでは? それに私は今まさに神の存在を強く感じています」
などと王城を出立した時とはまるで別人。命の瀬戸際で輝く生命が目の前に居ると言い表すべきか、命の尊さを賛美する誠の聖女に成り上がった女は目に気持ちの悪い光を発して宣言しだした。
「・・・・・気持ちが悪い」
「っははははは! 確かにな!」
一人、気を失っている剣聖だけが幸せ者か。
そんな事を考えつつも、地獄から抜け出そうと高価な小瓶のような帰還用装備を手にする。
保険として渡された物だが、破損することで発動する使い切り。
古代遺産の一つであり、数十個はある為、国宝とは言わないがそれなりに高価。
結果、安易に使えるものでは無いが、私の意見は決まっている。
当然、後は委ねるだけかと勇者に聞いてみる。
「勇者・・・・これ潰しても?」
微かに理性の残る勇者はそれに何を見たのか、涙を流して頷いた。
「・・・・糞ったれ」
まったくもって散々であったが、他派閥の依頼は完了か。
勇者のプライドを折れという難儀な命令だったが、臨時ボーナスは嬉しいものだ。
◆




