追手
「日も落ちたねぇ」
「そうですね」
傍からみてどこの老夫婦だ。何て言葉が飛んできそうなのんびりとした会話だが、流石にそろそろ襲ってもらわないと面倒なので、そろそろいいんじゃないでしょうかと呟いてみた次第。
これ以上離れてしまうと彼等の安全がそもそも危うい。
極力穏便にするつもりだが、穏便過ぎるとリアリティに欠けてしまう。
ほどほどに演出するにもやはり犠牲は必要かと考えていた最中・・・・。
「・・・・失礼致します」
横にいた彼女がそう言うや否やそこに居た痕跡すら残さず消え去り、次に見つけた時には武器屋で買ったボロい剣が獲物を一匹二匹とスプラッタな産物へと変えていった。
「・・・・・うわぁ」
意識せずに漏れてしまった感想。人間、唐突に起こった事には対応できないんだな何て事を他人事の様に感じてしまうが、どうやら相手方は違ったようで。
ギルドの方達はこんな状況であるにも関わらず、悲鳴も上げずに散り散りに逃げよう踵を返す。
即断即決。能力に頼らない地頭による判断は大変素晴らしいと賛辞を送りたくなるが、残念。
「・・・・・シッ」
荒い一呼吸の後、残像すら残さず動いたそれ。五人ばらばらに逃げた筈の足跡に対して悲鳴が2つ。次いで引きずるような鈍い音が俺の方へと響く。
「普通にホラーじゃん」
引きずられて来たのは案の定、悲鳴を上げた二人のみ。
恐らくは残りの3人については悲鳴を上げる暇もなくお亡くなりになったのだろう。
「・・・・・逃げられたので残りは潰しました」
何処となく晴れやかに笑う彼女に俺は『えへへ』と愛想笑いを浮かべておいて首を縦に振る。
「それなら仕方ないよね」
「仕方ありません」
そりゃそうだよね。だって俺より強く強化しちゃったもんね・・・・・俺は何も悪くない。
怖くて眠れないかもしれないと思いつつも、残った二人の記憶をいじってる辺り、他人の事は言えないなあ何て自己嫌悪。
「ごめんね。これも君達が深入りしすぎたからなんだ」
「や、やべろ! あ、あひゃまが!」
「なんで此処に・・・・俺は誰? お前は誰?」
肉体改造の過程で出来た記憶操作(捏造)でもって脳の海馬を良い具合にいじっていくと、土気色だった顔色は見る見る間に何事も無かったかの様に変わっていく。
俺もこうやって綺麗さっぱり忘れた方が幸せなのでは? などと一瞬思ってしまったが、それはそれで見ないようにしているだけかと悟って憂鬱になってしまう。
「はい終わり。君達はこれから王都に帰って残りの連中は運悪く魔獣にやられたと報告する様に。追っていた二人についてはその途中で見失ったってちゃんと言うんだよ?」
「・・・・・はい」
「・・・・わかりました」
問い掛けに首肯するとまるでゾンビみたいな男達はそれだけ呟くと来た道をふらふらと歩き出した。
「大丈夫かな?」
些か不安な足取りに疑問符を浮かべていると、元エルフ様は。
「不安ですので門まで影ながら護衛致しましょう」
などと言ってくる。いやいや貴女がばらばらにしたんでしょうが、嬉々として。
なんて正論を言ってやりたいが、命が惜しいので胸の内に止め、護衛する事一時間程。
松明の灯りが灯る正門に何とか辿り着いた男達二人。一見して代り映えのない姿だが、道中それはもう色々な事があった。
「これ、どうしましょう?」
なんて事をエルフさんが言うぐらいに中古の剣は原型を止めておらず、それは相応に振るわれたという事実だけがそこに存在し、呪いの装備と呼んでも差し支えないそれに対して、俺は一も二も無く言い放つ。
「ポイしなさい」
「そうですか・・・・名残惜しいですが、さようなら」
呪いの装備に何が名残惜しいのか分からないが、血塗られた鉄塊をそこらに捨てて踵を返す。
「次は目立たなければいいんだけどなあ」
「いっその事、魔法剣士から剣士に変えておくのはどうでしょう?」
ライセンスについても情報元は鑑定と同じである為、偽装は簡単。
元から銅板は前世でいうところのICタグみたいな物で記載は無く、ランクも素材による判別である為、特別差異は無い。一々死ぬ奴等の名前やらを彫るのも大変だろうからこれが一般的であり、普及の観点からもそれが手軽であるのも事実なので、しょうがない。
上のランクになれば何か特別な措置がとられたりするのかも知れないが、目立つことを避ける旅路には必要も無いのでそこは省いておく。
そもそも一般的に彫刻でもって偽装する方が簡単であって、集団的無意識へと書き込む方が桁違いに難しいのだから俺達がやっている行為は埒外。
今後、その様な方法が一般化すれば対策もとられるだろうが、それまではこの方法で楽もできるかと魔法剣士であったクラスを剣士に書き換えておいた。
「早速、剣士にしておいたから大丈夫だと思う」
「今回の件ですが早々に失敗する事が出来たと思うしかありませんね」
「確かにね。俺達の存在が周知された後だと大変だったからね。魔法剣士だった事を知っているのも数人ぐらいだろうし、他の街でなら噂にも上らない程度ですむね」
旅を続けるにこうした情報は値千金。順風満帆だと思って行動していたら、底なし沼を歩いていたなんて事にならない為にも軽度の失敗は喜ぶべきだろうと再認識した。
「んじゃまあ気持ちを切り替えて次の街へと行きますか」
「そう致しましょう」
血風吹きすさぶ死地を作りあげておいて呑気なものだが、人間大切なものは自分ともう一人ぐらいなもの。まだまだ他者を気づかう余裕も無いので無視を決め込む。
そもそもこういった事は考え込んだところで心が腐るだけ。
前世と今生で悟った安い悟りだが、自ら悟った人生の摂理であり、暗い気持ちで世を生きるよりは明るく生きる方が人生ハッピーというもの。
もろもろに区切りをつけて・・・・もとい忘却して街道を次の街へと進んだ。
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