勇者パーティーはこりごりです
「お前に教わる事は何もない! 二度は言わんぞ、この場から去れ! 顔も見たくないわ!」
金髪キラキラないかにも偉いですと言わんばかりの青年が体を震わせながら怒声を上げた。
見なくても分かるほどに苛々とした気配をまき散らし、場の雰囲気を台無しにする悪辣さだが、それが許されているのか周りに彼の行いを諫める者は無く、同意する者まで出る始末。
見ているだけで溜息が漏れそうになるのを堪えて、私・・・・いや俺は再び口を開く。
「重ねての発言ご容赦を、王子におかれましては事の重要性を理解していらっしゃらないかと思われます。貴方がたは王国の希望であり、人々の注目を集める存在・・・万が一があっては遅いのだと理解をされて・・・」
「黙れと言っている! これは王族としての決定だ! 我らが国にお前は不要! 下賤の血はこれだから嫌いなのだ・・・頭も悪く才能にも恵まれん。当然、会話にもついていけないのだろうが、能力があるのだと言うから訓練に参加させてやったが、初級の魔法から勉強しなおすだと? 馬鹿にするのもいい加減にしろ! 俺は既に上級の魔法もマスターし、剣技は騎士団長をも凌駕している。特級冒険者達からも是非にと参加を乞われる程だぞ! それを理解しているのか?」
あからさまに苛ついた様子で己の力を誇示する王子に対して、俺の心はだんだんと冷えていく。
我ながらなんとも子供じみたものだと自己嫌悪に陥るが、順調に事は進んでいるのだから内心笑うべきなのだろうと、笑みを浮かべる・・・・が。
「何を笑っている! 下賤な者はやはり性根すら腐っているのか? 尊き御方に言葉をかけていただいたならば涙を浮かべ、額を地に擦りつけるべきであろうに!」
俺の態度が気に入らなかったのか王子の横に侍っている者の一人が声を荒げた。
「・・・・聖女様」
俺が目の前の人物を再度確認すべく世間一般での呼称を口にする。
だが、それも目の前の人物と乖離が激しい為、自己認識を兼ねてのことではあった。
そう、俺の眼前に立ちふさがるのは聖女と言うにはなんとも派手過ぎて言葉と姿が真逆と言うしかない存在に、そう認識する事を脳が聖女という言葉に疑問符を浮かべる。
目の前の王子にも言える事だが、この聖女と呼ばれる者も同じく高貴な血筋であろう事は疑いなく、身に着ける物はそれだけで城でも買えるような代物で、装備の質だけでいえば最高位。
常時防御魔法に包まれているかの様な代物で、並の攻撃は通さず、自身の力は増幅されるというインチキ性能。雑兵の大群の中に放置しても一日は耐えるであろう馬鹿げた装備を身に着けた者が彼等の言う下賤の者である筈も無く、大層尊き御方なのだろうと知れた・・・・が、塗りたくった香水の匂いはきつく鼻をつき、吐き気すらもよおす程。そもそも戦闘において匂いなど一番注意する事だろうに、頭が痛くなってくる。何処に自らの居場所を知らして歩く馬鹿がいるのかと言いたくなるが、それを言ったところこの始末。確かにそれだけの装備があればそこらの者達では手も足も出ないだろうが、それは装備の力であってこいつらの力では無い。
「貴女も同じ考えですか? 剣聖様?」
微かな希望を言葉にのせ、王子の後方に控える黒髪の少女に問い掛けるが・・・・。
「・・・・当然ではありませんか? 私達は国の代表なのです。恐れる事無く突き進み、存在を示し、喧伝する義務があります。こそこそと、それこそお前と同じく暗部の者の如く動く事は恥だと理解しなさい!」
己が信念に一切の迷いは無いとばかりに少女は剣を抜き、俺に向かって宣言する。
見た目の清楚さとはかけ離れた筋力馬鹿っぷりに胸やけを感じて俺は奥歯を噛み締める。
本当にこいつらは何なんだ? 馬鹿しかいないのか? いや、流石に一人ぐらいは使える奴が残っているはずだと、最後の望みを残りの一人に向けるが。
「・・・・私も同意する。魔法とは力の象徴であり、破壊そのもの。攻撃魔法では無く、隠蔽魔法を主に使うなど貴族が使う魔法では無い。その様な小手先の技は魔力が低く、血に恵まれなかった者達が使う卑劣な技に過ぎない。私達貴族の力であればそんな事をしなくても相手を殲滅する事など造作もない」
少女はそういうと杖を振りかぶり、王宮の鍛錬所を赤々と照らす程大きな炎の玉を作り出した。
「これが血の力・・・・理解した?」
鍛錬所に居並ぶ兵士たちはその光景に腰を抜かし、ある者は炎を見つめ小便を漏らし、またある者は胎児の如く頭を抱えて血に伏せた。
「素晴らしい御力です。流石は賢者様・・・ですが、その魔法は何回撃てますか?」
「・・・・力を持たぬくせに減らず口を・・・・いいでしょう答えましょう・・・・5回は軽いでしょうね」
炎を見つめながら言葉を返されるとは思っていなかったのか、憎々し気に顔を歪めつつも賢者はそう答えた。そう、これにて彼女の実力の程がそれで判明してしまったのだ・・・・悲しい事に。
「やはり貴方達には訓練が必要です。これでは早々にと死ぬ事になるでしょうから」
「何だと貴様!」「言わせておけば!」「切り捨てる!」「いえ、燃やすべきです!」
王子以下、少女達は憎悪の炎を燃やし、俺の顔を見つめるが、結果は変わらない。
彼等本来の力は見たところ2割程度。残りの8割は装備によってブーストされているに過ぎず、その力は雑兵に毛が生えた程度。魔力消費軽減の装備をこれでもかと身に着けているにも関わらず、あの程度の炎を5回しか撃てない時点で詰み。そもそも余程距離が離れているぐらいでなければこの手の魔法は撃てない訳で、乱戦となれば活躍するのは隠蔽や匂い消し、透明な魔力弾による牽制と止めの一撃。つまり使い勝手の良い魔法は派手さに欠けるのだが、それらを理解していないからこその訓練だったのだが、蝶よ花よと育てられた尊き方々には通じないようで、この有様。
「再度進言致しますが、殺し合いに派手さは不要です。王子・・・いえ、勇者様が身に着けていらっしゃるような金の装飾を施した鎧や剣など不要の極みだと理解して頂きたい」
「っな! 何を言っているのか分かっているのか!? これは王家に伝わる伝説の武具。そこらの凡百な装備と訳が違う! この剣と打ち合えば相手の剣は半ばから断ち切れ、鎧など無意味も同然。鎧にしても並の攻撃など弾き、魔法さえも防ぐ! まさに神が創造された武具! 勇者という苦難を乗り越える者にこそ相応しい装備ではないか!」
『その通り』
少女達も勇者の言葉に同意と声を上げ非難するが、俺としては至極まっとうな指摘でしかないのだが、どうにも理解され無い様で・・・・。
「・・・ですがその鎧、暗闇でも光んですよね? あとその剣も」
「当然だ! 絶対なる加護を宿す武具だぞ、常に俺が何処に居るかなども示さずどうする? そもそも王族が身に着ける物だぞ、民は我の光輝く姿に高揚し、その身を盾とするのが道理。玉体を隠すなど王族のなおれ」
勇者の言葉で頭痛が増していくが、この言葉が決定的。
それ、絶対に大規模戦闘とかで使う様に与えられたものだろう・・・・と。
思い返せば彼等の装備はどれも広域戦闘向けのものばかり。
大量の兵達でもって前線を膠着させてからの一撃に特化しており、少数戦闘向きでは無い事は明らか。装備の質は特級なのだろうが、いかんせんこれからの戦闘には不向き。
「良いですか? これから俺・・・私達が向かうのはダンジョンです。薄暗く時折狭く、暗所からは不意打ちが常に付きまとう」
「だからこそだろう、常に光っているのだから灯りは減らせるという事だ。簡単な話ではないか」
「・・・・・はぁ」
頭痛が痛いという言葉が口から漏れそうになる程に頭の痛い状況に溜息も尽きない。
馬鹿というのは心底何も考えていないのだと念入りにに理解したが、馬鹿と権力が合わさればこれほどに手に負えないのかと尚更理解も深まった。
「・・・で、あれば敵の攻撃は全て勇者様に集中することになりますが、それでも宜しいので?」
「・・・っ」
有象無象に這いよられる光景を思い浮かべたのか微かに顔を引きつらせて言い淀む。
黄金の鎧を獣達の臓腑で汚すさまは彼の美的センスとしては無しだったのだろうが、それを置いても俺の言い分が気に入らないのか視線は強まっていく。
「たかが錬金術師の癖に大層な事を!」
彼の言葉に頷くように後方に控える御三方も首を振り、同意を示した。
「・・・・・はぁ」
残念な結果に止めどなく溜息も漏れるがどうしようも無い。
最後の最後に望みがあるのかと思ってしまったのがそもそもの間違い。
「だから馬鹿は嫌いなんだ」
『・・・・っな!』
俺の言い放った侮蔑に対して四人の行動は烈火の如く。
連携などと言うにはあまりにも合一した動き。まさしく一人の人間が行動するかの如き動作でもって必殺の攻撃が繰り出された。
「死をもって償え!」
勇者の怒号でもって繰り出される剣風、そしてそれに合わせた剣聖のなぎ払い。
賢者と聖女もそれに続き、先程の炎と竜巻でもって炎の威力を倍化させていく。
どう見ても必殺のそれを俺は何処か他人事の様に眺めつつ、一瞬フラッシュバックする走馬灯とやらを体験していた。
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