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04 気になる特徴


 学校での休み時間。


 隣には気品を身に纏った氷乃(ひの)が窓の外を眺めている。


 それだけで画になるというか、説得力がある。


 あたしが同じことをしてもボーっとしているだけにしか見られないだろうけど、彼女がするとそこに意味があるように見えるのだ。


 ……まあ、その頭の中身は恋愛脳のメルヘン少女なんだけど。


 実際のところ、何を考えているのか気になる所ではある。


 だが普段の彼女は人との接触を拒む孤高の美少女なので、あたしは口を噤む。


「考えてみたのだけれど、仲良くなるにしても壁ドンはあまりに早すぎるのじゃないかしら?」


「っ!?」


 まさかの氷乃が喋りかけてきた。


 ていうか、考えてることはそれなのかいっ。


 画と内容に解離がありすぎて一瞬わけが分からなくなる。


「え、えと……」


「なに口をパクパクしているの?」


「いや、氷乃が普段も話しをしてくると思わなくて……」


 てっきり放課後、誰も見ていない時限定の関係だと思っていたから驚いた。


 ……なんか、いやらしい言い方だったな今。


「何を言ってるの。あなたは私の小説のモデルになると誓ったはずよ」


 誓った覚えはない。


 半ば強制で、脅されていてやってるだけだ。


「おい、氷乃さんが喋ってるぞ……?」


「しかも、相手は犬猿の仲だった朝日(あさひ)じゃないか?」


 いつの間にか犬猿の仲になっていたらしい。


 まあ、仲は決して良くはないから間違ってはいないか。


「とにかく何であの二人が話し始めてんだ……?」


「さ、さあ……?」


 氷乃が休み時間に声を発することが珍しすぎてクラスに動揺が走っている。


「氷乃……何か目立ってるけど」


「本当ね。これはどういうことかしら」


「氷乃が急に話し始めるからでしょ」


「あなたね。私にだって言葉を発する権利くらいはあるはずよ」


 そうだけど、問題はそこじゃなくて……。


「とにかく、ここで話すには目立ちすぎる」


「……どうしろと言うの」


 そこであたしは考える。


 とにかく、人目につく教室で話を続けるのは悪手だろう。


 となれば。


「場所を変えよう」


 氷乃にとっても小説のことは秘密だから、この提案は聞く耳を持つはずだ。


「……分かったわ」


 案の定、快諾した。


 とりあえず、クラスを襲った休み時間の動揺は“氷乃さんの気の迷い”ということで終息を迎えるのだった。


 それなら孤高の美少女と会話をしたあたしにもっと興味を持ってくれても良くないか、クラスメイトの皆よ。



        ◇◇◇



「……意外ね」


「なにが?」


 氷乃は相変わらず抑揚のないトーンで意外でもなさそうに話し掛けてくる。


「あなたがこんな場所を選ぶだなんて」


 訪れたのは放課後の図書室。


 ここなら、上級生の図書委員の方しかいない。


 話を聞かれるリスクはかなり減らせるだろう。


「図書室の何が意外?」


「あなたがこんな知的な空間を選ぶとは思わなくて」


「……氷乃、あたしのことバカだと思ってるだろ」


「馬鹿かどうかはともかく。補欠合格ということは知ってるわ」


 やっぱりバカだと思ってるってことだねぇ?


「あれ、でもどうしてそんなことを氷乃が知ってるんだ?」


「……たまたま知っていたのよ」


 そんなピンポイントな情報をたまたま知ることある……?


 追及しようにも、氷乃はこれ以上は口を割らないぞオーラが凄い。


「はっ。もしかして、クラスのみんなにもう知れ渡ってるとか!?」


 “補欠合格のアホ朝日とは近づくな”、とか噂になって今のわたしのぼっちが形成されているとか?


 それを知らせまいと氷乃は口を割らないようにしているとか?


「いえ、クラスの人があなたの話をしているのは聞いたことがないから安心なさい」


「……そうかよ」


 それはそれで傷ついたけど。


 しょぼんと肩を落としながら、一番隅っこの席につく。


 ここなら小さい声で話せば、誰にも聞かれることはないだろう。


「それで休み時間の話に戻るけど……」


「ええ。やはり主人公とヒロインの距離を近づけるのに、いきなり壁ドンはどうかと思うの。あれってもう少し親密度が高まってから起きて意味があるとイベントだと思うのね」


「まあ……言われて見ればそうかもしれないけど」


「まず、一番最初だと思うのよ」


「と、言うと?」


「初めて好意を持つ瞬間が大事だと思うのよ。それっていつだと思う?」


 ええ……いつ好意を持つかなんて、人それぞれな気がするんですけど……。


「あなたの話でいいのよ」


「あたし、かぁ……?」


「気になる人が現れた時、その瞬間ってどんな時だった?」


 気になる人、かぁ……。


 とは言え、あたしも彼氏いない歴=年齢だ。


 誰かなぁ……と思って、パッと思いついたのは氷乃を初めて見た時のことだった。


 恋愛とは違うけど、その存在を目にした時に気を惹かれたのは間違いない。


「気になる人は、一目見た瞬間から気になるんじゃないか?」


「……そう。じゃあ、あなたの気になる人とそうじゃない人の差ってなんなのかしら?」


「また難しいことを聞くなよ」


「その魅力の差を知ることで、登場人物が生きてくると思うの」


 そうなんですかねぇ……。


 まあ、あたしが氷乃を見て、他の人と違うなと感じた部分はどこか挙げろと言われれば。


「顔が整ってると、やっぱり目を惹かれるかな」


「……あなた、面食いなの?」


 氷乃が若干引いていた。


「いやいや、容姿が整ってると誰でも気になるでしょ。スタイルが良くても目に入ったりはするけどさ」


「全部外見じゃない」


「人を初めて見た瞬間なんてそうじゃないか?」


 他の情報なんて無いに等しいのだから。


「でもそれって浅はかな気がするわ……」


 なるほど、氷乃は容姿やスタイルを軽視するのか。


 でも、彼女がそう言う理由も分かる。


 だってあたしがそこが気になるのは、コンプレックスの裏返しでもあるからだ。


「確かに、氷乃には分からないだろうな」


「……どうして、そう思うの?」


「だって美人でスタイルのいい氷乃は当たり前のようにそれを持っているんだから。そこに価値を見出せないでしょうよ」


 いかに特別なモノを持っていようとも、持ち主にとっては当たり前でしかない。


 だから氷乃は外見などと軽視し、それを持たないあたしにとっては輝いて見えるのだ。


「……あなたね、明け透けに何でも言葉にすればいいという訳ではないのよっ」


「はい?」


 気付けば、氷乃は面を食らったように目を瞬かせていた。


 この反応も初めて見る。


 何か動揺させたしまったみたいだ。


「どうせ、言われ慣れてるでしょ?」


 これくらいのこと、きっといくらでも言われて来ただろう。


「慣れてないし、そんな滅多なことを当たり前のように言うものではないわ」


「氷乃が綺麗なのは当たり前レベルだと思うけど?」


 当然の事実を言っただけだ。

 

「……くっ。な、なるほどね。こうして相手も興味を惹かれていくというわけね」


 ん?


 なんか微妙に話が飛んだような気がする。


 氷乃は妙に納得したようだけれど。


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