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クールすぎて孤高の美少女となったクラスメイトが、あたしをモデルに恋愛小説を書く理由  作者: 白藍まこと


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23 都合のいい女


「本当に信じられないわ」


「ごめんて」


 場所はあたしの部屋。


 そこでチクチクと氷乃(ひの)に苦言を呈される。


 ついさっきの出来事、あたしは大変だった。



        ◇◇◇



『恋人……?』


 ママは“どゆこと?”と言わんばかりに首を傾げる。


朝日(あさひ)さん……?』


 そして後ろからは冷たい空気が流れている。


 氷乃と出会ってきた中で最も他人行儀な声音だ。


 状況が状況だけにその丁寧さが逆に恐ろしい。


 絶対に怒ってるヤツじゃん。


『な、なんちゃって~? や、ヤだなぁ。冗談に決まってんじゃんっ』


 でへへっと、舌を出して頭を掻いてみる。


 我ながら恐ろしいほどワザとらしいが、もうこれで押し切るしかない。


 さすがに娘の初の招待相手が女の子の恋人では、ママも心臓に悪いだろう。


 いや、本当は恋人でも友達でもないらしいんだけど。


 どんな関係なんだよっ。


『あら、そうなの? 最近の子はすごいわぁと思ったんだけど』


 ママの適応力がすごいっ!?


 人生の先輩を舐めすぎていたのかもしれない。


 なら下手に誤魔化さず恋人と言い張れば良かったのか……?


『今日は突然お邪魔して申し訳ありません。彼女とは()()()()()()()()として、いつも一緒に過ごさせてもらっています』


 すると氷乃が淡々と述べて、あたしたちの関係を整理する。


 礼儀正しいし、好印象を持たれること間違いなし。


『そうなのね。この子、不器用で友達付き合い苦手だから仲良くしてあげてね?』


 ふっふっふ。


 思春期の方々なら親に友人関係を口出されるのは面白くない展開かもしれないが、あたしは違う。


 なんせ初めての友人紹介だから、こんな定番な会話を繰り広げられて大変嬉しい。


 胸を反らして鼻が高くなってしまいそうだ。


詩苑(しおん)はどうして鼻を膨らませてるの?』


『おっと失敬』


 どうやら態度に出てしまっていたようだ。



        ◇◇◇



 といった感じであたしのミスも何とかカバーし今に至る。


 氷乃はカーペットの上に腰を下ろし、現在進行形で突き刺さるような視線を向けてきている。


 なんでだ。


「不注意にも程があるわ、どうしたらあんな簡単に口を滑らすのかしら」


「いや、だって普段が普段だからさ……」


 友達と言えば氷乃に毎回否定されるし。


 基本的には小説のための恋人設定を強いられてばかりだし。


 初めての来客に浮足立っていたあたしが、混乱して設定の方を口走ってしまうのは仕方がないと言える。


 それを言うなら、普段からこんな事を強いている氷乃にも責任があるはずだ。


「その理論で言うなら口を滑らせるべきは“主従関係”じゃないかしら」


「その関係性は認めてないんだよっ」


 ていうか、そっちを口走る方がどうかしてるだろっ。


「……まあ、でもいいや。氷乃の方から認めてくれたんだし」


「何の事?」


 ふふん、今更シラを切っても遅いのだ。


 言質は既にとれている。


「“友人”って氷乃の方から認めてくれたからねっ」


 氷乃は確かにそう口にした。


 これで自他共に認める関係性に、あたし歓喜。


「あの場を円滑にやり過ごすための方便よ。貴女と友人ではないわ」


 悲報:友達と思っていた相手がウソだった件


 貧困なボキャブラリーのダメ見出しなのは置いといて。


 この子はまだそんなことを言い張ってくる。


「えー。そろそろ認めてくれてもいいんじゃない? お互いの家に来るんだら友達じゃん」


「それはあたしの創作活動のためであって、貴女と私個人の繋がりではないわ。ある種、これは私の取材も兼ねているのだから」


 とんでもねぇことを言いだす氷乃。


 どんだけあたしとの距離を作りたいんだよ。


 彼女の心の壁は、天にも届かんばかりに高く分厚い。


「アレだよ? さっきみたいに“朝日さん”って言ってくれてもいいんだよ?」


 その方が“貴女”呼びよりずっと距離が近づいた気がする。


「……()()も、そろそろ私のスタンスを理解してくれないかしら?」


 どうやら氷乃は適度な距離をとるようにしているのに、問答無用で近づくあたしが不満らしい。


 まあ、氷乃のそれは今に始まったことじゃないから真に受けていても仕方ない。


 無視だ、無視。


「氷乃こそあたしを受け入れるべきだね。そんな曖昧なこと言ってるからさっきみたいにあたしが変なミスしちゃうんだし」


「それ、責任転嫁よ」


「いいえ、原因究明です」


 対面に座る氷乃とあたしの視線が交錯する。


 すぐに彼女の目が座る。


 ダメだよ、そんな目をしたってあたしは折れないからな。


 あたしは曖昧な関係を受け入れない。


 都合のいい女になんかならないんだからな。


「テスト勉強、ありとあらゆる範囲で嘘を教えてもいいのよ」


「すいません、もう何も言いません。勉強教えてください」


 折れてしまった。


 さすがに嘘を教えられても困る。


 勉強を放棄するのではなく、わざわざ嘘を教えられるのはダメージがデカすぎる。


 時間を使って嘘を教えるなんて非効率極まりないはずなのに、氷乃ならやりかねないから恐ろしい。


「それならいいのよ」


 くっ……。


 とても悔しい。


「でも貴女も変わってるわよね」


 氷乃に言われたくないが、これ以上口答えすると本当に嘘を教えられそうだから黙っておく。


「何が?」


「私とそうまでして友人関係にこだわる人、初めて見たわ」


 絶対、小説のヒロイン役やらされてる人の方が初めてだと思うけど。


 氷乃の価値観がぶっ壊れていることは今更なのでこれも黙っておく。


 あれ? あたしって氷乃のことを理解した上でちゃんと対応してあげてる……いい女すぎないか?


「これだからあたしは氷乃にとって都合のいい女になっちゃうのか」


「……いきなりおかしな自己評価を口走るのやめてもらえないかしら」


 氷乃にこのあたしの気持ちは分かるまい。


 しかし、いいのだ。


 今は認めてくれなくても、いつか絶対に認めさせてやる。


 氷乃は頑なに意思を曲げないが、小説に関しての知識なら妙に柔軟な反応を見せる。


 今回のテスト勉強もそれが要因なのだし、この条件を上手く使って絶対に仲良くなって見せるんだ。



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