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クールすぎて孤高の美少女となったクラスメイトが、あたしをモデルに恋愛小説を書く理由  作者: 白藍まこと


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14 気持ちが変わっていく


「それで、あなたはどうしてお腹が痛いにも関わらず、いつもより丁寧に容姿を整えてきたのかしら?」


 あたしの動揺なんてお構いなしに氷乃(ひの)の追求が続いた。


「そ、それは別問題なんだって。どんな時だって見た目はちゃんとするものじゃん」


 氷乃の言葉に影響されて、いつも以上に気合が入ったなんて言えるわけない。


 我ながらおかしいとしか思えない変化を、本人に告げられるものか。


「へえ……説得力にまるで欠けているけど」


「氷乃みたいに合理的に生きてないの」


「あなたは感情で生きてると?」


「そうそう」


 あれ、思ったよりもあたしの話を受け入れてくれる。


 なんだ、氷乃も話せば分かるじゃん。


「なるほど。お腹が痛くても容姿を整えたくなる程の大きな感情の変化があったということね?」


「……まあ」


 あ、ちがう。


 氷乃はあたしを追い込む気満々だった。


「じゃあ、その感情の変化は何故起きたのか。私はそれが知りたいのだけれど」


 言葉を言い換えているだけで、結局は“洗いざらい吐け”と言っているようなもの。


「あーうるさいうるさいっ」


「教えないと、どうなるか……」


 氷乃の手がブレザーのポケットに差し込まれる。


 いつもの脅しだ。


 でも今日のあたしはそんな氷乃に屈するわけには行かない。


「氷乃はもうちょっと人の気持ちを察してみてもいいんじゃない?」


「……どういうこと」


「あたしに答えを求めるのもいいけどさ。人間の感情なんて十人十色なんだからもっと想像していかないと、人の気持ちを理解するにはまずそこからな気がする」


「……なるほど。相手の立場を想像してみることが感情を理解することに繋がると言いたいのね」


 おお、奇跡的にまとまってきてる。


 これで氷乃にあたしの気持ちを言う必要はなくなりそうだ。


「そういうこと」


「でも、想像した後には答え合わせがないと私の価値観が合っているかどうかを判断できないわよね?」


「……まあ、そうだね」


「じゃあ、私なりに考えて当たったら教えてくれるのね?」


 また面倒くさい話の展開になってしまった。


 まあ、だけど。


 氷乃があたしのこんな感情を想像することなんて絶対にないだろうから。


 勝手に考えておいてくれ。


「当たればね」


「その言葉、覚えておきなさいよ」


 とは言いつつ、やはり答えを先延ばしにされた氷乃はいつもより冷たさが二割増しになっていた。


 どうやら怒らせてしまったらしい。


 とは言え、ひとまず難は逃れた。



        ◇◇◇



 それから氷乃との会話は一度打ち切りになった。


 大人しく授業を受ける事に……。


「ない」


 まずい。


 次の授業の教科書を忘れてしまった。


 あー、もう。


 いつもと違うメンタルのせいで、こういうミスをしてしまう。


 誰かに見せてもらおうにも、あたしにはそんなことを気軽に頼める友人はいない。


 氷乃は……、さっきの会話で微妙な空気を作ったばかりで言えるわけないし。


 もうすでに授業は始まっていて淡々と抑揚のない先生の声が教室を支配している。


 いまさら言い出せる空気でもないしなぁ……。


 教科書ないまま、やり過ごすか。


 いや、でもそれじゃあ授業わかんないし。


 問題を当てられたりしたら悲惨だし……。


「何をしているの」


 隣から小さな声で呼ばれる。


 氷乃だった。


「……いや、教科書なくて」


「見れば分かるわ。どうしてそのままにしているのと聞いてるの」


「頼める人いないし」


「……はあ。厄介な人ね」


 ぬぬ。厄介代表の氷乃にそんなことを言われるとは。


 しかし、氷乃はそのまま机を寄せてくる。


 繋がった机の狭間を、懸け橋のように教科書が繋いだ。


「……これは一体」


「あなたは教科書を目にしただけで、そんな大げさな反応をするの?」


 いや、教科書に驚いてるんじゃなくて。


 突然あたしに教科書を見せてくれている氷乃の反応に驚いているのだ。


「見せてくれるの?」


「見ないと分からないでしょう?」


 ……優しい。


 思わずそんなことを思ってしまった。


 いや、待て待て待て。


 いくら何でも反応が変わりすぎじゃないか?


 入学初日を思い出せ。


 落としたシャープペンを拾ってあげたら、ほぼ無視してきた隣のクラスメイト。


 それが今では困っているあたしを見て察して教科書を自ら見せに来てくれたんだぞ?


 なんだこれ。


 ほぼ別人じゃないか。


「……お前は本当に氷乃なのか?」


「……どうやら余計なお節介だったようね」


 繋がった机が離れていく。


「ああ、嘘です。お願いします、見せて下さい」


「最初から素直にそう言いなさい」


 いやあ、しかし。


 小説のモデルになると、氷乃の中でこんなにも扱いが変わるのか。


 ……いやいや、それならアリかもとか思ったりしてないからな。


 こんな意味分かんない役割、早く辞めたいんだから。


 とは言え、見せてくれた氷乃に今回は素直に感謝だな。


「ありがとね、氷乃」


「……別に、いいわよ」


 ああ。


 素っ気ないけど、これは照れを隠す為のクールを装っているな。


 そんな氷乃の差異が分かるようになっていた。


 ……いや、なんでそんな微細な変化が分かるようになっているあたし。


 ああ、氷乃のことになると思考がおかしくなっていく。


 その当人の氷乃はさらさらと、黒板の板書をノートに書き写している。


 氷乃の文字は、真っすぐに伸びて芯がある。


 彼女の在り様と似ている気がする。


「……見すぎじゃないかしら」


「あっ、ごめん」


 気付けば、視線は氷乃に向いていた。


 しかも、なんか氷乃の文字を見てポエム的なことを考えていなかったかあたし?


 おかしいおかしい。


 こんなあたしをあたしは知らない。



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