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都市圏のファンタジア  作者: 恥目司
都市圏〜開闢〜
6/41

翔ける暗殺者

 高層ビルの乱立する都市圏に中世の石造りの建物が割り込んでいる光景は誰しもが目を疑う。


 彼——エル・シーズンもその一人だった。


 東京に入り込んでから早3年。

 黒いボロボロのコートを外套代わりにして歩く。

 彼は今なお、追いかけてくるかも知れない《《敵》》から逃げていた。


 鉄柱と石造りの家が混ざり込んだ不思議な光景も今となっては、日常として写っていた。


 着ている黒のコートと対照的な白い髪がそよ風になびく。


「何あれー」

「なんかのコスプレ?」

「えー、でもコミケっていつだっけ?」


 周囲の通行人がエルを見ている。


 しかし彼のその金色の瞳はただ目の前を見つめていた。

 ふと、彼は何かを感知し歩みを止める。


『目標を捕捉。ただちに捕獲する』


バババババッ!!!


 破裂音の連続。

 咄嗟にエルは後ろへと飛び退く。


 黒い巨体が宙に浮かんでいた。

 バリバリと雷鳴の如く回転するプロペラで浮遊ホバリングする———


 戦闘用ヘリコプター。


 もちろん彼は現代の兵器など知る訳がない。

 それこそ思わず「なんだアレは……」と呟くほどに。

 しかし、彼はしっかりと認識していた。


 アレが自分を追っている敵であるという事を。


 立ち止まるエル・シーズン。

 黒いヘリコプターは、それを隙と見てボディをエルに向ける。


 自分への攻撃を予見して、エルはその場から身を翻して逃げる。

その後を追う様に先端の機銃が火を噴く。


(飛び道具!!)

 弾丸がアスファルトの道路を砕く。


 叫び、慌てふためく通行人。

 皆、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


 その人混みに紛れながら、エルは近くのビルのガラスのドアを突き破って中に入り、弾丸を回避する。

 バリィンと、ガラスが連鎖的に割れる音がビルの中に響く。


「な、なんなんですかアナタ!!」

 玄関近くの受付嬢が叫ぶ。

 中に入ったビルはどこかの会社だったが、そんなのに構っていられる余裕はない。


 エルはそんな受付嬢の悲鳴など気にせずに上へ上へと壁を駆け上がっていく。


 ちょうどヘリが飛んでいる高さと同じぐらいの高さにたどり着くと勢いよく壁を蹴って、窓ガラス(強化ガラス)を蹴破った。


「【贄よ這い出よ】」


 ガラスの破片を肌のところどころを裂きながら、詠唱を開始する。エルの右の掌から紫色の魔法陣が展開される。

 その魔法陣の中から白い短剣が現れ、すぐさまヘリコプターへと投げつける。

 短剣はくるくると回転しながら放物線を描いて操縦席の窓に突き刺さる。

「【贄、爆ぜる剣】」

 更に詠唱すると、短剣が爆ぜ、ヘリコプターが炎上しながらいくつかのビルを巻き込んで墜落した。


 ——魔法が使える世界でのエル・シーズンの魔法は、前例を見ない異端であった。

 それが“贄の魔法”。


 それは、相手の技を使用者への生け贄にする外道の法。


 相手の技を肉体ごと取り込む吸贄きゅうげつの秘言とその存在を武器として具現化させる働贄どうげつの秘言の2つ。


 簒奪して利用するだけの魔法。


 逆に言えば、それしかない(・・・・・・)


「動くな!動いたら撃つぞ!」

 街の向こうから現れたのは、“特機”と書かれた装輪装甲車。

 ブレーキをかけ、行く手を阻む障害物と化して、後ろのハッチから大勢の歩兵が小銃を彼の方へに向けながら現れる。


 身軽そうな黒いアーマーを着た兵士達が二列になって横に広がる。

 前列が透明な強化ガラスの盾を構え、後方の列が小銃を彼に向けている。

(ざっと30人ぐらい、その内、(飛び道具持ち)が14人……キツイかもしれないが……魔法を使用するには丁度いい)

 彼は恐れず怯まず、その大群へと一直線で突っ込む。


「撃てっー!!」

 指揮官の声と同時にライフルから一斉に火が噴く。

 しかし、エルはその弾丸をマイクロ単位で全て回避しながらを素手で"触れる"。


「全部、避けるだと……!?」


 一番奥の、ヘルムに2本の白いラインが引かれてある指揮官が驚く。

 だが、エルの見せた奇行はそれだけではなかった。


「【祭壇】」


 エルの目の前に紫の魔法陣が顕れる。


「【贄を捧げよ】」


 彼が詠唱しながら魔法陣を拳で貫くと、一同に前列の隊員の腕がガラス製の盾ごと消えていった。


「ウワァァ!な、何だこれ!?」

「う、腕が!!」

 慄く一同。


 だがそれを他所に、彼は冷静に追加の詠唱を行う。


「【贄よ這い出よ】」

 エルの前に直前まで隊員達が持っていた透明な強化ガラスの盾が並ぶ。

「【贄、シールド】」

「魔術の類いか!!」

 放たれる小銃の弾丸は見事にその盾に弾かれる。


「弱い」

 掌を前に掲げるエル。

「【贄よ這い出よ】」

展開される魔法陣。

「【贄、威禍鎚イカヅチ】!!」

魔法陣の中から紫電の矢が幾つも奔り、前方の大群を穿つ。

 隊員は悉く紫電に貫かれ、倒れていく。


 気づいた頃には、隊長だけとなった。


「クソっ!皆やられてしまっただと?」


 苦しい顔をする隊長に対して、彼は涼しい顔で呟く。


「いやぁ……色んな飛び道具を見てきたけど、今回のは凄かった。まぁ人が弱かったけど」

「き、貴様ぁ…」


 ヘルム越しでも怒りに染まっているのを感じる。


「舐めやがってぇっ!!!」


 隊長が腰のナイフを引き抜き彼に襲いかかる。

 彼は身構える事なく、ただふらりと近づき、隊長の身体に触れた。


「贄は、神に捧げる供物をいうけれど、本来は生きたまま供える」


 隊長が踵を返してナイフを逆手に持つ。

しかし——彼の詠唱が数秒早かった。


「【贄を捧げよ】」

 隊長が肉体ごとパッと消えて無くなる。

「身体と精神、全てを捧げると存在すらも忘れられる」


後には何もない。

ただ風が吹き荒び、多くの死体が転がる。


「できれば、使いたくなかったんだがな……」

そして彼は再び走り出す。


その時だった。


———パシュン。


何かがエルの右腕を掠めた。


「な……!!」


コートが破れ、傷口からじんわりと血が滲みだす。


「まさか、残党が……?!」


辺りを見る。

人は皆、建物の中に逃げ込んでいて、シンと静まり返っている。

一体どこから……


———パシュン。


「…っぐ!?」


右肩に激痛と痺れが走る。

今度は肩口を射抜いていた。


「まずい…」


感覚が消えていく右腕を押さえて、エルは逃げる。


「【贄よ這い出よ】」


エルの左手には一本の杭が顕れる。


「【贄、撃抜ウチヌキ小杭ショット変地チェンジ砂】」


やや長めの詠唱だが、痛みを堪え詠唱し、カナヅチで地面を叩く。

すると、アスファルトの地面から大規模な砂埃が発生する。


濁った黄土色の砂塵の中、エルは必死に足を動かす。だが腕の痛みのせいで足が震えている。

どうしてだ。


「【贄、移動ジャンプ】」


仕方なく2回目の詠唱をして目にも止まらない大ジャンプを行う。


(小回りが……利かない…!)


贄の魔法は対象から魔法そのものを奪うが故、極端なものばかりが多い。自身がコントロールすれば良い話なのだが、激痛で制御が困難になっていた。


「クソ、【贄、唸れ大砂】!!」


3回目の詠唱。

着地地点を見事に砂にして衝撃を吸収する算段である。


確かに砂は多少のクッションになった。

しかし、移動ジャンプで高く飛びすぎていた様で。


ドォン!!

轟音が響き、砂埃が舞う。


砂の粒子が青空へと吸い込まれていくのを見て彼は、

「あぁ……砂なんて大嫌いだ」

と1人ごちた。




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